「生え抜き」ならではの采配~髙橋勝浩・東京都稲城市長インタビュー(2)~

東京都稲城市長 髙橋勝浩
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/07/11 「生え抜き」ならではの采配~髙橋勝浩・東京都稲城市長インタビュー(1)~
2023/07/14 「生え抜き」ならではの采配~髙橋勝浩・東京都稲城市長インタビュー(2)~
2023/07/18 基礎自治体・広域自治体・国の役割分担~髙橋勝浩・東京都稲城市長インタビュー(3)~
2023/07/21 基礎自治体・広域自治体・国の役割分担~髙橋勝浩・東京都稲城市長インタビュー(4)~

 

「地域への思い」が重要

小田 以前にインタビューした、防災について熱い思いを持つある市長も「有事の際に動けるのは広域自治体ではなく、基礎自治体だ」と話していました。川崎市議を経験した私も同感です。自治体の中では、消防職員の域内居住率を高めるべきだという議論が出ることもあります。これは東京消防庁でも、同じことが言えるのではないかと思います。

髙橋市長 東京消防庁の職員に対し、居住エリアの指定は行われていません。転勤がありますから、住むエリアの選定は職員に任されています。

ただし、今のままでは大規模災害時に職員が集まらないリスクを抱えます。職員の通勤手段が公共交通機関だからです。電車やバスで通勤することを前提に居住エリアを選んだら、有事の際には災害対策本部までたどり着くのが困難になります。

もちろん、絶対に域内に住めと強制的な指定はできません。しかし稲城市の場合、消防職員はもちろん一般職員に対しても私が面接を行い、「どこに住むのか?」と問います。返ってきた答えがもし遠方であれば、正直に「大規模災害になったときに歩いて来られる所に住んでください」と依頼します。

 

小田 有事の際の対応力は地域への思いや、与えられた役割に対する責任感で差が出ると思います。特に消防は、住民の生命や財産を守るという行政の根源的な業務です。合理性や経済性を追求した仕組みが重視される一方で、役割をきちんと果たすことができるのか、本来の目的に立ち返って考える必要があります。

髙橋市長 東日本大震災の際、都庁に駆け付ける任務を持つ防災担当職員の多くが来られなかったと聞きます。大規模災害が起こる可能性が今後もある中で、これは問題です。

消防の広域化と単独消防は、それぞれについてメリットとデメリットが挙げられています。人口が2万~3万人の自治体であれば、スケールメリットを得るために広域化しようという判断になるでしょう。

これに対し、稲城市は人口が約9万3000人で、単独消防が十分に機能する規模です。24時間365日の体制も築けているので、私は単独消防にメリットはあっても、デメリットはないと考えています。

職員が地域への思いをどれだけ持っているかは重要です。採用試験の点数が高い、能力が高い、頭が良いということも大切ですが、それだけでは足りません。

「いざというときには絶対に駆け付けます!」という熱い思いを持った職員が増えていかなければ、有事は乗り越えられません(写真)。そういう思いを持った人材を採用しようと、私も面接を続けています。

 

※有事への備えは動画でも伝えている(出典:稲城市公式YouTube)

 

自前と広域化のバランス

小田 消防や防災以外の分野における広域化については、いかがでしょうか?

髙橋市長 行政課題によって分散管理した方が有利なもの、自前でやるべきもの、スケールメリットを生かすために広域化した方が良いものに分かれるでしょう。

多摩地域には、人口が5万人から50万人規模の市が26あります。それぞれ財政的には自立していますが、人口密度が高く、面積が非常に小さいという特徴を持ちます。ですから、すべての行政サービスを提供できるだけの土地がありません

。最もネックとなっているのは、ごみの最終処分場がないことです。そこで持ち上がったのが広域連携です。多摩地域では一部事務組合という形で連携することが多いです。

 

小田 防災や消防など、人命に関わる分野は機動性を重視して単独で対応するが、それが難しい分野については、近隣自治体と広域連携しているのですね。ごみ処理も含め、広域化の事例を伺えますか?

髙橋市長 ごみ処理については府中、国立、狛江、稲城4市で「多摩川衛生組合」を共同運営し、焼却などを行っています。収集までは各市が担い、焼却などは組合が運営するクリーンセンターで行うという形です。

焼却灰の最終処分場は多摩地域の市にはありません。そこで同じ多摩地域の日の出町に土地を購入し、多摩地域の26市町で「東京たま広域資源循環組合」を組織しました。ここでは焼却灰の埋め立てやエコセメント化など、ごみの最終処分を行っています。

その他に、府中市と共同で墓園を運営しています。これも、それぞれの市で公営墓地を設置する敷地が取れなかったことが理由です。公平委員会や退職手当組合も多摩地域などの複数市町村による共同運営です。小規模な役所が多いので、広域化した方が無駄がないとして設置されました。

他県と比べ、多摩地域は一部事務組合が非常に多いのが特徴です。スケールメリットがあり、単独で難しいものは広域連携で対応する一方、自分たちでやるべきところは自分たちでやると、バランスが取れているように思います。

 

小田 「生え抜き」市長ならではの考えや判断が伝わってきました。特に消防については、現場での経験を踏まえて「地域にとって何が大切か」を塾考した上で、単独消防の道を選ばれたのですね。改めて「何のために?」を念頭に置く重要性に気付きました。

次回は、基礎自治体・広域自治体・国の役割分担について伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年5月29日号

 


【プロフィール】

東京都稲城市長・髙橋 勝浩(たかはし かつひろ)

1963年生まれ。早大政経卒。85年東京都稲城市に入り、市立病院医事課長、財政課長、会計管理者、生活環境部長などを歴任。2011年4月稲城市長に就任し、現在4期目。1986年4月から2000年3月まで稲城市消防団に所属。

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