「課題解決」「価値向上」のスマートシティ構想~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(1)~

兵庫県加古川市長 岡田康裕
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/01/15 「課題解決」「価値向上」のスマートシティ構想~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(1)~
2024/01/18 「課題解決」「価値向上」のスマートシティ構想~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(2)~
2024/01/22 すべては市民の幸福感向上のために~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(3)~
2024/01/25 すべては市民の幸福感向上のために~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(4)~

 


 

兵庫県南部に位置する人口約26万人の加古川市。同市を「スマートシティの先進自治体」と記憶されている読者も多いでしょう。

市のホームページでこれまでの取り組みを確認すると、「見守りカメラ」の設置による治安向上、オープンデータの公開と利活用、行政情報アプリによる情報伝達手段の提供など多岐にわたります。なぜ、ここまでデジタル活用が進んだのでしょうか。岡田康裕市長に伺います。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

きっかけは「見守りカメラ」

小田 加古川市といえばスマートシティ構想が有名ですが、きっかけは見守りカメラの導入だったとお聞きしています。まずは、その経緯について教えていただけますか?

岡田市長 治安の課題に対処することが始まりでした。加古川市は人口1000人当たりの刑法犯認知件数が2016年に県内でワースト4位、17年には同2位になりました。テレビのワイドショーで取り上げられるような事件も重なったため、治安に対する市民の不安を払拭することが急務でした。

そこで防犯対策として、市が主体的に見守りカメラを設置することにしたのです。まずは中学校区ごとにオープンミーティングを開き、町内会長をはじめとする地域住民の皆さんにカメラの設置を提案し、ご意見を頂戴しました。会場に来られたほとんどの方が賛同してくださり、別途行ったアンケートでも90%以上の賛同を頂く結果となりました。

このように、市民の皆さんと丁寧に合意形成を行った後に議会と協議し、先進自治体の取り組みを参考にしながらプライバシーへの配慮や、データの適正かつ厳格な管理を行うための条例を制定し、運用の基盤を固めました。カメラの設置は17~18年度に実施しました。小学校の通学路や公園を中心に計1475台を設置しました。

 

小田 カメラ設置後は刑法犯認知件数が大幅に減少したそうですね。

岡田市長 カメラを設置する直前の17年における本市の刑法犯認知件数は、加古川警察署の報告によると2926件でした。設置後は減少傾向となり、コロナ禍の21年には最も少ない1433件になりました。

ただし全国的にも刑法犯認知件数は減少しています。いろいろな防犯機能が充実してきたからです。加えてコロナ禍では社会活動が停滞しましたから、やはり全国的に刑法犯認知件数は減りました。県平均で見ても減っています。

ただ比べてみると、加古川市は県平均の減少率より10%ほど上乗せして減っており、急勾配で刑法犯認知件数が減少していることが確認できます。

22年はコロナ禍が落ち着き、社会活動が活発化してきました。それに伴い全国的に刑法犯認知件数が増えており、加古川市も1699件となっています。しかしながら、カメラ設置前よりは明らかに減っているという認識です。

 

小田 10%は大きい数字ですね。有意な施策だったと言えるのではないでしょうか。

岡田市長 人口1000人当たりの刑法犯認知件数も県平均レベルまで改善してきました。月次で見ると平均を下回るときもありますから、治安が悪いという印象は払拭できつつあるのではないかと思っています。

 

小田 見守りカメラ事業が市の治安問題を解決する突破口になったのですね。

岡田市長 従前も県と市によって「地域見守り防犯カメラ」の導入は推進されていましたが、行政は設置のための補助を出すという立場にとどまっており、データの管理や漏えいといった問題についての責任の所在は町内会側にありました。そうすると何か事件や事故が起こった際の対応も、すべて町内会側で行っていただかなければなりません。

継続的に発生する電気代も町内会の負担となります。その結果、主要な交差点や駅周辺など、本来ならカメラがあるべき所になかなか設置が進まず、抑止力として実効性を持たない状態でした。市が主体的にデータ管理なども含めて責任を持つステージに立つかどうかという転換点でした。そこで踏み切ったということです。

 

官民連携の「見守りサービス事業」

小田 市は「見守りサービス事業」も展開しています。見守りカメラにビーコンタグの信号を受信する検知器を内蔵させ、タグを持つ人の位置情報履歴をその家族に知らせることができるというサービスです(図1)。当初から構想されていたのでしょうか?

岡田市長 私が指示して始まったものではありません。デジタル技術に詳しい職員らがいろいろな先進事例を調査しながら、良いものをつくり上げてくれました。その一例が検知器の様式の共通化です。

異なるメーカーのビーコンタグであっても検知できるよう、検知器の様式を共通化しました。これにより利用者の幅が広がりました。さらに公用車や郵便配達の車両、市の行政情報配信アプリにも検知器を搭載し、官民協働でより広範囲に見守ることができるようになっています。

 

(図1)見守りサービスの全体像(出典:加古川市)

 

 

小田 住民の安心感は着実に高まっていますね。

岡田市長 「安心感が持てるようになった」と、地域の方から感想を頂けるようになりました。これはうれしいことです。見守りカメラに対する設備投資額は、新規導入費と管理運営費を足して対象期間で割ると、年平均で1億円以上はかかっています。加古川市は一般会計が800億~900億円規模ですから、少なからず予算を割いていると言えるでしょう。

さらに今年度から3年間で、すべてのカメラを新しい物に取り替えます。そのための今年度予算も議会で承認されています。最初の設置から5年間の成果について、一定の評価が得られたということだと思っています。

 

小田 この事業は官民連携で実施されており、ビーコンタグは民間企業が提供しています。私も官民連携事業に携わることがありますが、ビジネス的な面で厳しく、1~2年だけ実証実験をして終わってしまうケースも多々あります。

その点で、加古川市の「見守りサービス事業」はビジネスとして成り立っていると思うのですが、民間企業の収益の持続性も熟慮して設計されたのですか?

岡田市長 「民間企業のアイデアやノウハウを行政運営の中でどう生かし、形にしていくか」という意識は常に持っています。民間企業と行政がデジタル技術を使って協働し、新しく何かを生み出すケースは昔からありますが、採算が取れる継続可能なものにならないこともしばしばです。

加古川市の事例は、行政が持つインフラやデータを使って新しいビジネスができないかという試みであり、民間企業には行政の信用力を活用しながらビーコンタグを販売していただいています。

 

小田 その意識の有無で、生まれる結果はかなり変わってくると思います。行政と民間、どちらの視点もお持ちなのは岡田市長の経歴によるものでしょうか。経営コンサルティング会社勤務や国会議員を経験されていますよね。

岡田市長 私の経験は期間も短く、十分なものではありませんが、行く先々で各分野における豊富な経験や知識を持つ極めて優秀な方々と出会い、その働きぶりに刺激を受けたことが大きいと考えています。中央省庁に勤める方たちの情報処理能力や企画力にはすさまじいものがありましたし、民間で高い分析力や創造力を発揮する方にも出会いました。

いろいろな立場の方々の能力をうまく活用させていただこうとする姿勢は、そうした中で身に付いていったと思います。

私は国政選挙で何度も落選しています。長い政治活動の中ではいろいろな場面がありましたから、市民との対話集会などに飛び込むことへのためらいや恐れはほぼありません。民間企業の方と膝を突き合わせ、互いの譲れない部分を本音で話し合うこともします。こうした地道なステップを踏んでいくと、結果的に良い取り組みが生まれます。

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年11月27日号

 


【プロフィール】

兵庫県加古川市長・岡田 康裕(おかだ やすひろ)

1975年生まれ。米ハーバード大学院修士課程修了。経営コンサルティング会社勤務などを経て、2009年8月~12年11月衆院議員。14年6月兵庫県加古川市長選に初当選し、現在3期目。

スポンサーエリア
おすすめの記事