埼玉県横瀬町 富田能成町長インタビュー(上)“カラフルタウン”を目指す小さな町がつくる 「新しい価値」

埼玉県横瀬町長 富田能成
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2021/1/18  埼玉県横瀬町 富田能成町長インタビュー(上)
2021/1/20  埼玉県横瀬町 富田能成町長インタビュー(中)
2021/1/22  埼玉県横瀬町 富田能成町長インタビュー(下)


雄大な武甲山を背景に、豊かな自然や秩父固有の文化が残る美しい町、埼玉県横瀬町。人口8140人(2020年10月1日現在)の小さな町は、東京・池袋から西武線の特急で最速73分と、東京が通勤圏内だ。「豊かな自然・温かいコミュニティー・都心へのアクセス」。この三つが揃う町はそれほど多くない。この町で2015年から町長を務めているのが、富田能成さん。官民連携プラットフォーム「よこらぼ」を立ち上げるなど、都市圏の人材や民間活力を町に呼び込む施策を次々展開し、注目されている。富田町長に、現在そして未来の横瀬町について伺った。

「カラフルタウン」を目指す町

伊藤 今回のコロナで、東京から100㌔圏内の郊外・準郊外の町の可能性がぐんと高まったなという感じがしています。

富田町長 はい、そう思います。横瀬町は都心から70㌔圏内。コロナはピンチに違いないですが、我が町にもチャンスがあると思っています。去年の前半は、企業にお勤めの方は期せずして在宅勤務を経験されて、意外とテレワークでいろんな仕事がこなせたのではないでしょうか。移住先の候補として、ご検討いただける町でありたいです。

伊藤 池袋から73分となると、まだまだウィズコロナが続くと思われる中で、週3日在宅・週2日東京へ通勤といった暮らしを考えると、横瀬町はロケーションの良さで注目されそうですね。

富田町長 そうなるとありがたいですね。もともとコロナ禍の前から、第6次横瀬町総合振興計画を策定し、2020年4月から走らせていまして、テーマは「カラフルタウン」。これが意味するところは、色彩豊かな四季折々の自然の美しさがある町で、多彩なライフスタイルや多様な幸せの形を創り上げていくようなイメージです。「多様性のある町」より「カラフルタウン」の方が分かりやすくないですか?

横瀬町には、都会と田舎という二元論では語れない良さがあって、田舎ではあるけれども都会へのアクセスが良い。都会と田舎の軸足の置き方は、5対5でも7対3でも良い。2拠点居住や、週末だけ横瀬に住んでもらうなど、横瀬町に関わっていただける人を増やしていきたいですね。

伊藤 「多様性」を「カラフル」と置き換えたところがすごいなと思いました。

富田町長 「カラフル」という言葉が一番ピンときたんですよね。実は、もっと良いフレーズがないか職員にも幅広に相談していたのですが、結局最後は自分が提案した言葉を採用しました(笑)。「多様性」って、自治体が使いがちな言葉なんですが、「カラフル」の方が町民に伝わりやすいかなと思いました。

伊藤 なぜ「カラフルタウン」を目指すことになったのですか?

富田町長 人口減少が理由です。町として戦略を立てずにこのままいくと、20年経って5000人、40年で2600人になってしまう想定です。そこでさまざまな方策を駆使し、戦略人口として、40年後に5400人ほどで減少に歯止めがかかり、その後は人口が減らない町にすることを目標にしています。人口が減ると、多様性が失われていくので、5400人の中に多様性がある町にしたい。もともと秩父地域には盆地文化があり、お祭りなど固有の素晴らしい文化が残っていますが、もう少しオープンになって、町外の人を受け入れたいですね。20〜30年後に実現したいのは、「日本一住みたくなる町」「日本一誇れる町」であって、そのプロセスとして、まずは「カラフルタウン」を実現したいと考えています。

優しい語り口で熱い言葉を述べる富田町長

5年目に突入した「よこらぼ」

伊藤 横瀬町の富田さんといえば、「よこらぼ」の取り組み(町とコラボレーションして新しいことに挑戦したい企業等から提案を募集し、行政がその活動を支援する仕組み)が、公民連携分野であまりに有名です。始まって丸4年でしょうか?

富田町長 そうですね。プロジェクト数でいうと、これまで140件ほど提案があり、80件を採択。案件が途絶えて困ったことはなかったですね。提案数も、採択数も想定以上です。お金があまりない町ですので低コストで運営できていること、そして、80件実施して無事故というのが私としては地味に誇らしく、自信になっています。

伊藤 持ち込まれる提案って、4年も経つと変わってきていますか?

富田町長 かなり変わってきましたね。この4年間の世相も反映しているだろうし、最近は地元の団体からの提案も増えています。誰でもウエルカムなのが「よこらぼ」の売りで、間口が広いからこそいろんなものが入ってきて、そこには社会の状況が反映され、我々がそこに触れられていることに意味や価値があります。

「中」につづく


【プロフィール】

富田能成(とみた・よしなり)
埼玉県横瀬町長
1965年横瀬町(当時は横瀬村)生まれ。国際基督教大(ICU)卒後、1990年日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。法人営業・海外留学・海外勤務等経て、不良債権投資や企業再生の分野でキャリアを積む。
2011年4月から横瀬町議会議員を経て、2015年1月より現職。2019年1月再選(無投票)し、現在二期目。

 

伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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