ニューノーマルにおけるこれからの図書館
ブームの火付け役はどこから生まれるのか
株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴
アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役 岡本真
2020/9/23 ニューノーマルにおけるこれからの図書館(1)
2020/9/25 ニューノーマルにおけるこれからの図書館(2)
2020/9/28 ニューノーマルにおけるこれからの図書館(3)
2020/9/30 ニューノーマルにおけるこれからの図書館(4)
ブームの火付け役はどこから生まれるのか?図書館DXの前夜
伊藤: 話を聞けば聞くほど、可能性を感じます。今回の新型コロナの影響により、オンラインで何かをするのは当たり前になりましたし、議員で関心を持つ人が増えてくると、変わっていく可能性はありそうですね。
そういう意味で、いま一度振り返っておきたいことがあります。それは武雄市図書館(佐賀県武雄市)に始まる、一連のカフェ併設型図書館ブームについて、です。図書館が単なる本の貸し出しの場所だったのが、人が集まり、憩う場所になったという意味で、私はポジティブに評価しているのですが、あのような図書館は何かブームの下地があったのか。あるいは(偶然に物事を発見する)セレンディピティ的にやってみたらヒットしたのか。
なぜ、こんなことを聞くのかというと、図書館DX、国立国会図書館を核に、日本の図書館がデジタルアーカイブを利用できるようになると、これまでの図書館の在り方はガラッと変わる気がするのですが、一方で、前回話題にも出たように、人はカタチがないものはイメージできません。一体、誰が、アフターコロナ時代のオンラインとオフラインの境界のない時代の図書館像を打ち出すのでしょうか。
岡本: まず、最初の質問に答えるならば、武雄市図書館はやはりCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の功績でしょう。ただ、カフェ的なものへの理解、流れはありました。武雄の場合は、スターバックス(コーヒー)という分かりやすい象徴をインストールしたのが成功要因の一つでしょう。
それと図書館DXを誰が牽引するか、これは難しい問いですが、過去を見ると、やはりトップランナーになるところがある日、現れて、その図書館が全国の図書館を牽引していくのでしょう。日本の図書館は、例えば日野市(東京都)、浦安市(千葉県)など先導するところが現れてきて、今日に至っています。
伊藤: そう考えると、今はチャンスです。新型コロナで社会の在り方が変わりましたから。何よりもう元には戻らない、戻れないんだということを社会全体が認識しつつあるというのは、変化が起きるのに十分な状況と言っていい。ここでどんな新しい前例をつくれるか。突き抜けた図書館が出てくると変わる。国会図書館のオープン化は実現すれば、インパクトは大きいですね。
岡本: 突如として大量のデジタルコンテンツが提供されるし、それによって「リアルの図書館って本当に要る?」っていう議論にもなるでしょう。
伊藤: 弊社は今、愛媛県が全国で初めて手掛ける「デジタル総合戦略」の策定支援を行っていたり、三重県と「デジタル戦略推進」に関する連携協定を結んだりするなど、全国の自治体のDXを支援しています。自治体DXはあくまでもプラットフォームなので、その上に載るアプリケーションはむしろ、これからです。そういう意味で図書館DXも一つ、大きな領域だと思うので、何かご一緒できる日がくるかもしれません。(対談終わり)
対談を終えて
対談の最後でも話題になったカフェ併設型図書館は、ここ十数年の図書館の一つのブームでした。このブームの本質は、図書館という存在が私たちが思っている以上に、暮らしの中心にあったということを意味しています。暮らしの中心だけれども、それが忘れ去られていて、そこにカフェが持つ創造性が加わることで、息を吹き返したのだと私は思います。
今、新型コロナによって社会の在り方は大きく変わり、なかんずく、自治体はデジタル社会への移行を余儀なくされつつあります。DXという避けて通れない変化の中で、図書館がどのようにバージョンアップしていくのか、また、その動きを牽引していく企業、自治体はどこから現れるのか楽しみです。かつてのCCCがそうであったように、図書館行政やカフェ事業に精通しているわけではない、まったくの門外漢の分野から図書館DXの旗手が出てくるのでしょう。
この領域は考えれば考えるほど、サービスを劇的に変える可能性があります。どんな利用者がいて、何を期待して来館しているのか。本の貸し出しだけではなく、サードプレイス(第三の場所)として位置付けている人もいるでしょう。利用者の滞在時間と貸出冊数、返却までの期間、館内で手にした本の数、そうした利用データを分析することで、図書館におけるCX、いわゆる顧客体験を劇的に変えるはずです。
行政と企業が社会課題を共有し、未来を創造していく、まさに官民共創時代における図書館のDXは都市間競争の肝になるでしょう。
(おわり)
プロフィール
伊藤大貴(いとう・ひろたか)
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。
岡本真(おかもと・まこと)
アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役
1973年生まれ。1997年、国際基督教大学(ICU)卒業。編集者等を経て、1999年、ヤフー株式会社に入社。Yahoo!知恵袋等の企画・設計を担当。2009年に同社を退職し、アカデミック・リソース・ガイド株式会社(arg)を設立。「学問を生かす社会へ」をビジョンに掲げ、全国各地での図書館等の文化機関のプロデュースやウェブ業界を中心とした産官学民連携に従事。著書に『未来の図書館、はじめます』(青弓社、2018年)ほか。