人に向き合い、人を中心に考える~藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長インタビュー(3)~

岐阜県美濃加茂市長 藤井浩人
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子

 

2022/08/08 市民との直接対話から始まる透明性ある市政~藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長インタビュー(1)~
2022/08/11 市民との直接対話から始まる透明性ある市政~藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長インタビュー(2)~
2022/08/15 人に向き合い、人を中心に考える~藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長インタビュー(3)~
2022/08/17 人に向き合い、人を中心に考える~藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長インタビュー(4)~


第1回第2回に引き続き、岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長のインタビューをお届けします。

前回は「なぜ藤井市長は市民に慕われるのか」という問いを中心に、市長の信念や普段の活動で意識していることを伺いました。

その中で「時間の許す限り現場に出て、市民の声を直接聞く」「インターネット交流サイト(SNS)などを通じた積極的な発信と、双方向のコミュニケーション」「市政をブラックボックスにせず、できるだけクリアに」など、市民一人ひとりと真摯に向き合う気構えを明かした藤井市長。この「まず意見を聞く姿勢」に、市民は親しみや信頼を感じているのだろうと推測できました。

今回は「聞く姿勢」から実った行政サービスの事例や、藤井市長が考える「将来を見据えた公務員のキャリア形成」について伺います。(聞き手=Public dots & Company 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

市民の声を反映、バス利用者10倍に

小田 私は現在、民間企業の新規事業開発をサポートしているのですが、事業開発の世界は行政と非常に似てきたと感じています。昔と違って先が見えづらく、かつ良いものをつくれば売れる時代ではありません。そうなると、いかに現場に出て、一人ひとりの困り事を拾っていくかが重要になります。現場で何が起きているのかを直接見ないことには、本当に価値のある事業は創造できません。

前回までのインタビューで藤井市長がおっしゃった「とにかく現場に出て、市民の声を聞く」という姿勢は、きっと市政全体に良い影響を及ぼしていると思います。市民の声を直接聞いたことで実現した市のサービスの事例などはありますか?

藤井市長 市バスの路線や停留所の位置を市民の皆さんに考えていただいた結果、利用者数が約10倍になった事例があります。

いわゆる「空気を乗せて走らせているバス」問題は、多くの自治体で起こっていることだと思います。費用がネックになって本数が出せなくなり、市民の利便性が下がり、だんだん利用者が減っていくパターンです。以前は美濃加茂市も同じ状態でした。そこで、市民の皆さんに意見を仰いでみたのです。本数や路線を増やした方がいいか、それともデマンドバスを運行した方がいいか。

デマンドバスについては実験的に走らせ、利用した方に感想を伺いました。すると、率直な意見として「デマンドバスを使うのは気が引ける」という声があちこちで上がりました。「タクシー感覚で使えるのは確かに便利だけれども、税金で運行しているわけだから、近所のスーパーやコンビニエンスストアに行くためだけに利用するのは申し訳ない」というのです。その結果、路線バスの方がよいという方向で市民の意見が固まりました。

 

次は、バスの路線や停留所の位置についての意見交換です。これも直接、市民から話を聞くことで地域事情が浮き彫りになってきました。「この道を渡るのを怖がっている人が多い」「ここの公園は人が集まるから、近くに停留所が欲しい」「毎日でなくても構わないが、この道にバスが走ってくれたら免許を手放せる」「昔はここに停留所があったから、目印として分かりやすい」などです。

市が持つデータにそうした市民の「感覚値」を加えていくことで、当初の想定とは違うものが出来上がってきました。「あい愛バス」という名称も市民に考えていただき、市民と一緒に作ったバス運行計画でした(写真)。いざ運行が始まると、市民の間で「自分たちで考えたのだから乗ろう」という雰囲気が出てきました。その結果、以前は月平均で1000~2000人ほどだった利用者数が、1万人近くまで増加しました。

 

写真 美濃加茂市「あい愛バス」の公式サイト(市提供)

 

 

小田 市民との話し合いで路線を決めるという取り組みは珍しいですね。

藤井市長 そうですね。この施策については、担当課の職員もかなり努力してくれました。昨今はEBPM(証拠に基づく政策立案=Evidence-based Policy Making)の考え方から、政策の意思決定において定量的なデータが重視されるようになってきています。美濃加茂市も基本的には定点観測した資料を基に政策立案しますが、最終的な合意形成の段階では市民の感情も考慮する必要があります。市民と直接対話することのメリットは、丁寧に「聞く」ことで、本当はどんなことを思っているのかを理解できる点にあります。その思いも含めて施策化することで、納得感のある合意形成を行うことができます。

 

小田 市民からはいろいろな意見が出たと思いますが、どのように合意形成したのですか?

藤井市長 確かに、相反する意見も出たと聞いています。そこで職員が取った立場は「ファシリテーター(進行役)」でした。「皆さんの意見を持ち帰り、こちらで決めます」というスタンスではなく、「どうしたら、より良くなるでしょうね」と間に入って対話を促すスタンスです。これが功を奏したようです。

 

議会とも「対話」を心掛ける

小田 市民の声が集約される議会との関係で、工夫されていることはありますか?

藤井市長 私は現場で市民の皆さんと対話していますが、そこで意思決定するわけではありません。やはり大きな意思決定や政策決定は制度上、議会を重んじる必要があります。ですから議会に対しても、どの現場でどんな声を聞いたかといった情報は常にオープンにしています。この点について議会からは、市民の声が分かると喜んでいただいていますね。結局のところ、議会が考えることと私たちが考えることは同じで、「市の発展」です。そのために、互いに伝えるべきことはしっかりと伝え、納得のいく答えを見つけていけばいいと思います。

 

小田 議会とは「議論」ではなく、「対話」をしているということでしょうか?

藤井市長 そうです。私も市議の経験がありますから、議員が選挙を通じて議会に立つ大変さを理解しています。議員一人ひとりの意見は、市民を代表する声です。それは行政として非常に大切にしていかなければいけないと思っています。市民の皆さんにも、議会の声を大切にする旨はよくお話ししますね。

 

小田 市民の声を丁寧に聞きながらも、最終的な意思決定は議会を尊重して行っているのですね。

藤井市長 はい。あくまでも二元代表制の仕組みの中で進めています。議員から現場の声を聞くケースもよくあります。そこから地元の皆さんと議員と私で、話し合いにつながることもありますね。誰にも少なからず意見の偏りがあると思うので、みんなが集まって話し合えば互いにそれに気付きますし、そこから建設的な議論に発展することもあります。

 

第4回に続く

 


【プロフィール】
岐阜県美濃加茂市長・藤井 浩人(ふじい ひろと)

1984年生まれ、岐阜県美濃加茂市出身。2010年10月、美濃加茂市議に初当選。13年6月、同市長に初当選。22年1月に通算4回目の当選を経て現職。趣味はスポーツと読書。好きな言葉は「義を見てせざるは勇なきなり」

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