すべては市民の幸福感向上のために~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(4)~

兵庫県加古川市 岡田康裕
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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市民に「幸福感」を問う

小田 加古川市は今後、ウェルビーイングの取り組みにも注力されるそうですね。背景にある岡田市長の思いを伺えますか?

岡田市長 物価高騰の影響もあり、どうしても目先の経済対策などに関心が集まりがちなご時世ですが、お金やモノだけがウェルビーイングを高める因子ではありません。それ以外の要素も意識していかなければ、幸せの総量は増えないと思っています。

特に今の日本は、物価が上がる一方で給与がなかなか増えない状況が続いています。実質的な豊かさを高めるのが容易ではなくなっています。ここでいったん立ち止まり、「皆さんの心がより幸せになるためには、どうすればよいか」を考える必要があります。

 

小田 具体的にどのような取り組みを始めているのですか?

岡田市長 市民意識調査を毎年度行っており、既に7年分のデータが蓄積されています。住民基本台帳から無作為抽出で選ばれた方を対象に、その方の属性をはじめ、「定住意向とこのまち(加古川市)に対する誇りや愛着」「心ゆたかな暮らし」などについてアンケートを行い、各分野の満足度や重要度などを調べています()。

統計学的には加古川市の人口規模であれば、1200以上のサンプル数があれば誤差の小さい、信頼できる結果が得られます。毎年度の調査では、それ以上の回答数を得ています。そして2022年度からは、国のLWC(Liveable Well-Being City)指標を導入し、市民の幸福感と相関性の高い分野や施策を見いだそうとしています。

 

(図)市民意識調査の結果は公表されている(出典:加古川市「令和4年度 市民意識調査報告書」より一部抜粋

 

小田 LWC指標を使った全国的な幸福度の調査結果は、デジタル庁も活用しています。こちらの結果も参考にされているのですか?

岡田市長 全国調査は一般社団法人スマートシティ・インスティテュートが実施し、国がデジタル田園都市国家構想の中で活用しています。この全国調査のサンプル数は8万5000で、そのうち加古川市民は約450人が含まれていました。調査結果からは、幸福度と相関関係のある要素がいろいろと見えてきます。

例えば、最も相関関係が強い(相関係数が高い)項目は健康状態です。健康状態が良い人ほど、幸福度(10段階評価)を高く回答する傾向があるということです。相関関係が強い因子としては、その他に文化・芸術、地域とのつながり、自己効力感、住宅環境などが挙がっています。

LWC指標の調査項目が今後さらに進化すれば、幸福感を高めるために重要となる分野や、より具体的な施策が見えてくるかもしれませんし、「PDCAサイクル」を回すための指標として活用できるようになる可能性があります。

当面は国の動向を注視しながら、市としても独自にLWC指標のアンケート調査を行っていこうと考えています。

 

小田 市民意識調査を引き続き実施しつつ、全国の幸福度調査の精度を確かめていくといった流れでしょうか。

岡田市長 そうですね。試行錯誤しながら取り組んでいきます。市が独自に実施した22年度のLWCアンケート調査では、従来の市民意識調査と合わせて行ったため、質問項目が多くなり過ぎたといった反省点がありました。質問項目や問い方を安定させ、その経年変化を見ていけるようにしたいと思います。

現在は、最終的に何を目指すのか定まらないまま、周囲との比較競争の中で、目先の課題に追われている状況ではないかと考えています。山ほどある課題を前に、優先順位付けが悩ましい状態です。そんな中で、LWC指標のような住民の幸福度に関する調査は一つの重要な参考資料になるでしょう。

 

穏やかな住民性

小田 日頃はご家族とどのように過ごされているのですか?

岡田市長 私には高校生2人、小学生1人と計3人の子どもがいます。夜に近所のカフェやファストフード店へ行き、宿題や仕事など、それぞれのやるべきことに取り組んでいます。私にとっては気分転換の趣味の時間のようなもので、楽しく過ごしています。

 

小田 周囲の人は、市長が来店していることに気付いているのではないですか?

岡田市長 気付いていらっしゃるでしょうけれども、子どもといると、そっとしておいてくださる方が多いですね。

後でその目撃情報が人づてに聞こえてくることがありますので。

 

小田 お子さまは市長という仕事に対し、どのような感想を持たれていますか?

岡田市長 小学生の子どもからは「選挙カーで学校の近くを通らないでほしい」と言われています。私の名前が響き渡ると、教室中に笑いが巻き起こるそうです。

 

小田 お子さまにとっては気恥ずかしいかもしれませんが、心温まるエピソードですね。カフェでのエピソードでも感じたのですが、加古川市の住民性は穏やかな印象です。

岡田市長 基本的には皆さん、とても穏やかな住民性だと思います。私自身、加古川市に引っ越して来た人間ですから、なおのこと客観的にそう感じます。加古川はとても良いまちですよ。

 

【編集後記】

雑談のような流れで結んだインタビューでしたが、経済という枠組み以外での幸福を感じ取ることができたように思います。

安心して暮らせるまち、やりたいことに前向きに取り組める職場環境、そして人と人の温かなつながり──。加古川市の取り組みは「幸せの総量を増やす活動」と言い換えることができるでしょう。これからのまちづくりは、幸福感の尺度を捉え直すことから始まるのかもしれません。

一人ひとりにとっての幸せとは何か? 同市のLWC調査のように、住民が主体的に考える機会の創出が急がれます。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年12月4日号

 


【プロフィール】

兵庫県加古川市長・岡田 康裕(おかだ やすひろ)

1975年生まれ。米ハーバード大学院修士課程修了。経営コンサルティング会社勤務などを経て、2009年8月~12年11月衆院議員。14年6月兵庫県加古川市長選に初当選し、現在3期目。

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