新時代に挑む─公務員研修の新たなカタチ(1) 〜自治体も市民も、今こそ必要なマインドチェンジ〜

一般社団法人公民連携活性化協会代表理事・古田智子
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子

 

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人材育成や教育研修への投資は、即座に結果が出るものばかりではなく、数年後、十数年後に花開くものもある。

そこへ税金を投入することに対し、地方自治体や市民はどう考えるのか。現在の社会課題に目が向きがちなのは仕方のないことではあるが、自治体職員への投資は予算的にも内容的にも課題が多い。

一般社団法人公民連携活性化協会と一般社団法人官民共創未来コンソーシアムは、時代変化に即した自治体組織と職員の在るべき姿、そして市民との関わりを模索している。

今回は両団体の代表理事に、自治体における人材育成、すなわち公務員研修の在り方について語ってもらった。

公共をステージに未来を切り開く

小田 古田さんが代表を務められている公民連携活性化協会の紹介をお願いします。

古田 「公のマインドをすべての組織に、すべての人に」をミッションに掲げています。自治体も企業も市民もお互いの壁を壊しながら、それぞれが強みを生かし、共に地域に参画して未来を切り開ける世の中を目指して立ち上げた団体です。

活動は三つあります。一つ目は自治体における「人材育成」です。従来型の講師が公務員に教える研修ではなく、公民連携を軸にいろいろな方が関わり、学び合う形の人材育成に取り組んでいます。

二つ目は「調査研究」。自治体の各課が所管する領域ごとに実態調査を行い、報告書にまとめて自治体へ情報共有しています。

三つ目は「普及啓発」。市民の自治への無理解と無関心をどう解消していくか、どうしたら自治への主体的な参画に振り向かせることができるか、効果的な手法を研究しています。

自治体職員の皆さんの課題や悩みに寄り沿いながら、この3点について民間ならではの役割を果たしていきたいと考えています。

 

小田 三つとも共感できる部分が多いです。私が代表理事を務める官民共創未来コンソーシアムでも、自治体職員の働き方や市民との関わり方、それを支える組織の在り方は大きなテーマの一つです。目指す未来像が似ている感じがしますね。

自治体が人材育成に投資できない理由とは

小田 今回の対談では1点目の「人材育成」に絞って、お話を伺えればと思います。公務員の人材育成に関して、今後の展望など古田さんのお考えをお聞かせいただけますか?

古田 自治体の組織的な課題としては、あまりに人材育成に投資していないですよね。正確には投資しないのではなく、投資できない状況にあるとも考えられます。限られた財源を投じる際、首長の政策実現や市民ニーズの実現などに優先的に予算が配分されてしまい、人材育成に財源を割きにくいのが実情です。元議員の立場としてはどうでしょうか?

 

小田 政治側の問題として、政治家が公務員の人件費削減を声高に叫ぶようになったという背景があります。そのため教育研修予算どころか、職員数すら足りなくなってしまった。人件費を掛けられないので当然、教育研修予算も掛けられないということになります。

古田 まさに負のスパイラルです。社会全体に「公務員の数を減らせ、給料を減らせ」という公務員バッシングの風潮が根強いですよね。職員が減ると事務量過多になり、例えば人事課が人材育成方針や計画を本来見直すべきだと分かっていても、時間も人手も予算もない。

とにかく前年度に実施した人材育成手法を右から左に流すしかない。でも社会の変化は待ってくれないですから、職員が変化に適応できるような学びの機会が得られない。「地域のために効果のある施策をつくりたいけれど、なかなか時代に追い付かない」というギャップがどんどん大きくなっていきます。

 

小田 公務員の皆さんの働き方を見ていると、日々の業務に埋もれて、新しいことを考えたり、役所の外に向かったりする余力がないと感じます。

古田 確かにそうですね。新しい施策を始めるには、現在の施策・事業を何か手放さないと回りません。それができずに新たな施策・事業が積み上がっていく中で「人件費は削減して、効果的な課題解決の方向性を示せ」と言われても、できるわけがないと感じます。

 

小田 今は新型コロナウイルス禍で、公務員の皆さんはその対応に駆け回っているのに、役所の外に出れば罵声の嵐。市民のために尽くしても、返ってくるのは罵倒というのは悲し過ぎます。

古田 この状況では優秀な職員がどんどん辞めてしまいます。これからますます困難な課題に直面していく地域社会にあって、打開に取り組むはずの優秀な人材が流出するというのは結局、市民が自分の首を絞めているということになるのです。

 

小田 自治体は地域のインフラの一部ですよね。普段使っている水道や道路、公園は、公務員の皆さんが管理してくれているからこそ、市民は安心して使えるわけです。そこを「お任せ民主主義」で放任し、何かあったら責めるみたいなことが実際に起きています。一方、政治家も「公務員の賃金を減らせ、無駄を削れ」と叫ぶだけというのは、不毛だと思いますね。

公務員の人材育成の仕組みと課題

小田 読者のために、自治体の人材育成の仕組みについて簡単に解説していただけますか?

古田 団体ごとに温度差はありますが、人材育成基本方針・基本計画があり、人材育成の体系が示されています。そこには目指すべき職員像があり、階層・等級別に行う教育・研修が定められています。

手法はおおむね三つに分かれていて、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とOFF─JT、それにオンライン講座受講などの自己啓発。OFF─JTに関しては、民間研修会社に委託するか、庁内でふさわしい職員が講師を担います。

ところが大本の人材育成の基本方針が、社会の変化に応じてアップデートされていないことが多い。ここが課題です。社会の変化が激しいとは言いながら、よりどころとなる方向性を示すものとして総合計画がありますよね。それを実現するために必要となる人材や能力を考えていけば、人材育成方針は見えてきます。

ただ人材育成の基本計画には、民間コンサルが民間企業の人材育成の考え方をベースに作ったものもあるんですよね。

 

小田 まあ、総合計画すら外注する自治体もありますけどね。

古田 大事なのは「何をやるか」ではなく「なぜやるか、何のためにやるか」です。現状としては「何をやるか」に、どうしても関心が集まりがちです。民間研修会社が提案した新たなプログラムでアップデートしたような感じになっていますが、肝心の社会の変化に適応すべき根っこのところに、てこ入れする余裕がない。

もう一つの問題は、残念ながら民間研修講師の多くが、あまりにも自治体に関する知識と関心がない。講師のパフォーマンスが「研修会場でウケるかどうか」に最適化され、職員が今どういう状況にあり、研修でどんな行動変容が期待され、結果として地域がどう良くなるかといった、職員研修が及ぼすこうした影響を理解していません。

職員にとって、研修を受講するために割いた貴重な時間が「百害あって一利なし」になるようなことは、あってはならないと思います。

 

小田 具体的には、どんな講師の方がいらっしゃったのですか?

古田 例えば、「あなた方は民間と比べて遅れています」という考え方が前提の民間講師です。研修で話すのは民間の事例ばかり。人事課の方が「ここは実態と合うようにしてほしい」と伝えると、「私が信用できないんですか」と逆切れすることも。民間研修の世界はパッケージ化が進んでいて、研修コンテンツを売買することすらある。買った資料をただ説明するだけなら意味がない。職員の行動変容を起こしてこそ、講師が研修をする価値があると考えます。

 

第2回に続く


【プロフィール】

小田理恵子小田 理恵子(おだ・りえこ)
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事

2011年から川崎市議会議員を2期8年務め、20年官民共創未来コンソーシアム設立。本メディアをコーディネートする(株)Public dots&company代表取締役社長も務める。

 

 

古田智子古田 智子(ふるた・ともこ)
一般社団法人公民連携活性化協会代表理事

慶応大文学部卒。総合コンサルティング会社に入社後、中央省庁・地方自治体の官民連携事業に25年携わる。2013年(株)LGブレイクスルー創業。16年公民連携活性化協会設立。

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