新時代に挑む─公務員研修の新たなカタチ(3) 〜公務員・民間・市民が共に学び合い、より良いまちをつくる時代へ〜

一般社団法人公民連携活性化協会代表理事・古田智子
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子

 

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情報通信技術(ICT)が発展し、世界が激しく変化を遂げている今、日本では「自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)」が各地で進められている。しかし、ハード面の「D=デジタル化」だけに取り組んではいないだろうか。ソフト面の「X=変革」は伴っているだろうか。

公務員の人材育成でも同様のことが懸念される。階層別、等級別に毎年研修が行われているが、形だけになっていないだろうか。研修を終えた職員一人ひとりに、時代に即したマインド変革や行動変容は起きているのだろうか。

前回まで(第1回第2回)では、このような疑問を抱く一般社団法人公民連携活性化協会と一般社団法人官民共創未来コンソーシアムの両代表理事が、公務員の人材育成における課題と在るべき姿を問い掛けた。

本稿からは、両団体が携わる三重県での新しい取り組みや国内外の最新事例を紹介しつつ、公務員の人材育成の「これから」を展望する。

そもそも「人材育成」なのか

小田 公務員の人材育成に取り組むに当たり、どこから何をしようと考えていますか?

古田 社団のポリシーとも関連するのですが、最終的には「民間講師は必要か?」との問いに行き着きます。例えば、財政リテラシーを身に付けるために財政の民間有識者が来て、予算編成担当の係長に階層別研修をしても行動変容は期待できません。やはり「人と人との関わり」の中でしか、人は育たないと思います。

さらに財政リテラシーは財政課だけの話ではなく、各部署・各事業の予算編成に関わる職員や地域住民のニーズも取り入れなければなりません。

市内には、財政に「無関心」でも「無関係」ではいられないステークホルダー(利害関係者)が、たくさんいるはずです。そういう人たちが一堂に会し、対話しながら、財政がどういう方向に向かうべきかを見いだしていくような内容を、人材育成プログラムに入れ込むことを考えています。

 

小田 育成プログラムの話をしていると、話がかみ合わないことがあります。そういう場合、相手側は「育成プログラム=スキル獲得」という前提で考えておられる。育成プログラムの目的は、スキルの獲得だけではないということを説明するところからですね。

古田 そうなんです。講師が育て上げるという意味で使われる「育成」は、在るべき姿とは懸け離れていて、「学び合い」という言葉の方が適切かなと思います。ただ、私がイメージしていることを単語にしづらいので便宜上、「人材育成」という言葉を使うことが多いです。

 

小田 今は時代の変わり目じゃないですか。そうすると、今まで使ってきた言葉や概念が当てはまらないことが出てくる。多くの人に物事を伝えるには既存の言葉を使うしかないのですが、そうすると既成概念の枠ができてしまい、正確な意味での議論ができないですよね。

古田 そうなんです。言葉を再定義する必要がありますね。いずれは違う呼称が付くと思いますが、これを読んでいただいている方には、こういう経緯で「育成」という言葉を使っていることをご理解いただけるとありがたいです。

オンラインや三重県で始まる新たな動き

小田 われわれが今まで話してきた公務員の「育成」における課題感について、同じように考えている地方自治体や職員も増えてきましたよね。

古田 そうですね。それらの課題に問題意識を持っている職員も多く、今、全国の自治体の研修担当者の間で、垣根を越えてお互いの考え方や工夫を共有しようというムーブメントが出てきています。

例えば茨城県職員の助川達也さんは自身が発起人となり、課題や工夫を共有するオンライン勉強会を勤務時間外(夜)に開催しています。助川さんが今回発案されたイベントは、公務の時間内に開催するんです。助川さんは以前、「自治体職員同士のオンラインイベントを公務の時間内に開催することで、より実際の公務の仕組みに実装させていきたい」とおっしゃっていました。

 

小田 全国の公務員が連携する取り組みはさまざまありますが、その多くは自己啓発の延長で、勤務時間外に活動していますよね。助川さんだけでなく、各地の職員たちも「研修をより良いものにしていこう」という問題意識があって、就業時間内の企画、つまり自治体組織として取り組むことに賛同したということですね。

まさに公務員の人材育成の在るべき姿も変わろうとしているのかなと思います。

古田 恐らく「育成」が目的ではなく、「より良い地域をつくろう」というのが彼らの掲げた目標で、そのプロセスの中で人が育っていくのを期待しているのでしょうね。

 

小田 ここまで、自治体の「育成」の課題や職員たちの新たな動きについて話してきました。

社会が変わる中で、異なる領域の人材が交わり、対話し、同じ体験を共有していくことが必要であるのだとすれば、官と民が相互に連携を深めていくことが望ましいですよね。

われわれ両社団は自治体の組織や人材の在るべき姿を、自治体自身が模索する活動を支援していますが、今回はその一例として、三重県との「新しい人材育成プログラム」の共同研究について触れたいと思います。

古田 三重県でも、いかに管理職の方にお気付きいただき、ご理解いただくかが重要だということになり、管理職を対象に、さまざまなステークホルダーと関わることを軸とした研修プログラムを設計しました。形だけでなく、本質的な意味で県に貢献できるよう、かなり知恵を絞りました。

 

三重県 新しい人材育成プログラム(抜粋)

 

小田 今まさに三重県とわれわれの3者でディスカッションしながらプログラムを開発していますが、ベースになっているのは古田さんのところでお持ちの理論やプログラムですよね。

古田 そうですね。自治体の人材育成に20年ほど関わらせていただいていますが、現場経験や課題感から導き出したプログラムで、よくある講師派遣型研修とは目的が異なるものです。

大事にしたい要素は三つあります。

  • 一つ目は「教える・教えられる」という関係性を持ち込まないこと。
  • 二つ目は解答や正解を用意しないこと。
  • 三つ目は、人と人との関わりと体験を軸にすることです。

これらをコンセプトとして、新たな視点でプログラムを開発しました。特に三つ目の要素を具体化したものとして、異なる立場・異なる文化の人同士が「意図せず交ざり合う場」を研修で創出しました。

気を付けた点としては、いきなり文化の違う人同士が交ざるとハレーションが起きる可能性もあるので、今回実装予定のプログラムは、まず公務員同士で交ざる設計にしましたよね。

今の職員の中にも地域住民と同じ方向を見て、地域を一緒に良くしたいと考える方や、公務員というキャリアとしっかり向き合おうとする方もいらっしゃいます。自治体ごとの垣根を越え、そういう職員たちで学び合うことは気付きも多く、大きな意義があると思います。

 

小田 今回開発したプログラムは、特に「マインド」を重視したものになっていますよね。

古田 そうですね。プログラムを整理する上で「マインド、ナレッジ、リテラシー、スキル」という四つの要件を挙げ、三重県の管理職の方々に必要なものを検討してもらったところ、やはり「マインド」だという判断になりました。管理職の方々が今まで経験されてきた社会が変動していることに、いろいろな方々との関わりの中で気付いていただければと思っています。

 

小田 公務員の皆さんは予算も時間も人手も余裕がない中で、たとえ市民からつらい言葉を投げ付けられたとしても、変動し続ける社会の荒波に立ち向かっているわけです。そんな彼らをわれわれがどう後押しできるか。押し付けではなく、それを「一緒に」考えていければと思いますね。

 

第4回に続く


【プロフィール】

小田理恵子小田 理恵子(おだ・りえこ)
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事

2011年から川崎市議会議員を2期8年務め、20年官民共創未来コンソーシアム設立。本メディアをコーディネートする(株)Public dots&company代表取締役社長も務める。

 

古田智子

古田 智子(ふるた・ともこ)
一般社団法人公民連携活性化協会代表理事

慶応大文学部卒。総合コンサルティング会社に入社後、中央省庁・地方自治体の官民連携事業に25年携わる。2013年(株)LGブレイクスルー創業。16年公民連携活性化協会設立。

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