当たり前の後ろに隠れた声こそ大事

相模原市議の五十嵐千代さん。市から提示された鹿沼公園内への複合施設建設案に対し、市民との対話やクリエイティブ活動を通じて市へ働きかけを行いました。そしてその結果、市は計画の見直しを公表。市が一度発表した計画を差し戻すことは非常にレアケースです。一見不可能なことを可能にした五十嵐議員、そこには彼女のまちづくりへのビジョンと市民との丁寧なコミニュケーションが見えてきます。

(聞き手:PublicLab編集長・小田理恵子)

東京郊外にある相模原市。駅から徒歩5分に立地して、交通公園があり、大きな池があって、そこには白鳥もいて、一方で敷地内には野球場もテニスコートもある鹿沼公園。この公園をpark-PFIを使ってエリアを活性化しつつ、その周辺にある老朽化した公共施設の複合化と財政負担を抑えて実現しようと案が持ち上がったのが2017年。一見、良さそうな案にも聞こえます。

 

この話が出たときに大きな違和感を覚えたんです。違和感は内容以上に、「急に」、この話が浮上してきたことへの違和感。淵野辺駅周辺にある公共施設に老朽化の課題はあるものの他と比べて特に緊急性が高いものではありません。それにも関わらず、鹿沼公園を候補地とした集約、複合化を進めるという話が議会で浮上しました。

 

そこで、政策会議等の資料を調べると、半年ほどで計画を策定しようとしており、職員から地域の代表者に対して「スピード感をもって進めないと公有地が売れなくなる」という旨の説明もされていました。私は利用者が年々増えている公園の中への複合施設建設と跡地の売却という計画の内容にも疑問がありましたが、何より、もっと市民の声を聞いてから計画をつくらなければならないと主張しました。だって、議員の私ですら、唐突に感じた話だったし、市民はもっと知らないわけです。しかも、鹿沼公園は沢山の人に愛されている公園だから。丁寧なプロセスが必要だよね、と思いました。

 

市民とはどんな感じで連携しているんですか?

 

いくつか、ポイントがありまして、中でも重要なのはチームを2つ作ったこと。1つは純粋な市民のチーム。もう1つは専門家を集めたチーム。それぞれのチームがフェーズ、フェーズで役割を果たしていて、行政とも様々にコミュニケーションを図ってきました。 

 

当初、市民の方からは「署名しましょう」、「駅で演説しましょう」という声が多かったのですが、反対運動にはしたくなかった。そういうやり方では賛同者は広がらないですから。

 

 すぐに解決策を導き出そうとすると、勝ち負けとか誰の意見が正しいかといった思考に陥りがちだと思うんです。それより、表層的には賛成派と反対派に見えていても、お互いの考えを知るためのコミュニケーションの場を持つことで、その主張の奥にもっと多様なものの見方や考え方、大切にしているものがあること、それらを共有することで創造的なアイデアや解決の糸口、新しい関係性が生まれるということを経験してほしいと思っていました。

 

そして行政にも「市民は怖くないよ」と知ってほしかった。ワークショップには複数の職員が参加してくれましたが、ある職員からは「こんなに市民の方が公園のことについて考えてくださったんですよね」と言われました。

こうした活動はともすれば賛成派からも反対派からも批判を受けるもの。五十嵐さんにとって非常にリスクが高いですよね。

 

当初、後援会の人には止められました。賛成派と言われる人たちは地域の重鎮もいらして、敵視されるやりにくくなるかもしれないと心配されました。それに通常、行政が一度出した計画を引っ込めることってないじゃないですか。後援会の人たちにはそういうのが見えているから、計画に異論を唱えた人たちからも「五十嵐は何もできなかった」と言われるのではないかと。

 

でもあの地域はもっと価値を高めることができると私は信じてて。私なりに未来のビジョンもありますし。行政が市民の声を聞かずにつくった計画をこのまま進めてしまうのではもったいない、と感じていました。それにあの時点では、計画を見直してほしいという市民の声を聴く議員が他にいなかったこともあって。

 

私は議員になる前から、社会に存在する、無視されている声みたいなもの、そこにヒントとか大事なポイントがあるはずだって、ずっと思ってました。そこを無視しちゃいけないというか、「ある」ということを意識することがクリエティブなんです。今回の件は、リスクを負うかもしれないけど、私は政党に属している訳ではないから縛りもないし、この声とともに全力を尽くせないなら、私が議員である意味がなくなってしまう。

「それをやらないなら私が議員である意味がない」というところ、非常に共感します。私もそう思って議会でやってきました。四面楚歌でもたった一人になっても絶対に曲げられないものってありますよね。

 

私は議会の中では少数派ですが、世間で言ったら議会の方が逆ということがあると思うんです。サイレントマジョリティの声を聴く。無所属の五十嵐千代に投票してもらっているので、自分がおかしいと思ったら反対します。だからそこ曲げるなら「議員なんて辞めちゃえ!」って思いますよ()

 

この鹿沼公園の件は、本当に止まるという確信があったわけではありません。無理かもしれないけれど、それでも目の前にあること一つひとつに懸命に向き合ってきた、それだけなんです。それこそ四六時中スマホを離せませんでした。市民から夜中でもLINEが飛んできたりするので。「こんなアイデア、思いついたんだけど、どう?」とか、いろいろ。みんな、すごく自分の住む街のことを考えていました。

でもそうやって活動していると、見てくれる人が居て、市民は判ってくれる。その結果として、お互いに応援し合える仲間もできました

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