人口減少時代におけるダイバーシティの重要性~若者が地元に戻り、地域の働き手となる処方箋とは  ~(前編)

一般社団法人官民共創未来コンソーシアム

 

2023/06/16 人口減少時代におけるダイバーシティの重要性~若者が地元に戻り、地域の働き手となる処方箋とは ~(前編)
2023/06/20 人口減少時代におけるダイバーシティの重要性~若者が地元に戻り、地域の働き手となる処方箋とは ~(後編)

 


 

今回は、2023年2月10日に愛媛県四国中央市で開催されたセミナー「若者が地元に戻り地域の担い手となるための処方箋 四国中央市の未来を創るダイバーシティ」(主催・四国中央市SDGs推進プラットフォーム)のリポートをお届けします。持続可能な組織運営の基礎となる「働きやすさ」に焦点を当て、市内の企業から約50人が参加しました。

もともとの問題意識は「ダイバーシティ(多様性)と人口減少の因果関係」です。当法人はさまざまな地方自治体の官民共創をサポートしていますが、人口減少に立ち向かう地方創生の現場には、必ずと言っていいほどダイバーシティの問題があります。

本質的な政策を実行するためには、このダイバーシティという概念を、はやり言葉から「自分ごと」へ落とし込まなければなりません。その呼び掛けに対し、手を挙げたのが四国中央市でした。

 

セミナーでは「ダイバーシティのまちづくり」の第一人者である、一般社団法人豊岡アートアクションの中貝宗治理事長(前兵庫県豊岡市長)による講演のほか、ダイバーシティの観点から働きやすい職場環境の実現に取り組む企業の事例紹介が行われました。本稿から「若者が戻りたくなる、働きたくなる地元とは、どういう姿なのか」と感じ取っていただければと思います。

 

根源的な理由を深掘りする

前半は中貝氏による講演が行われました。同氏は「なぜ地方から若者が流出するのか」をテーマに、全国各地で講演活動を展開しています。

今や、ほぼすべての自治体で人口減少対策が喫緊の課題となっており、移住・定住の促進や交流人口の創出といった具体的な施策に踏み出しています。しかし、そうした取り組みの前に「なぜ地方から若者が流出するのか」という根源的な理由を深掘りする必要があります。

この点について、中貝氏は「ダイバーシティの欠如」を挙げます。とりわけ「ジェンダーギャップ(社会的・文化的につくり上げられた男女格差)」が、静かに、しかし確実に地方の人口減少に拍車を掛けていると指摘します。

日本のジェンダーギャップ指数が146カ国中116位(2022年、世界経済フォーラム〈WEF〉調べ)と低迷していることは、周知の事実でしょう。このため中貝氏の指摘に対し、目新しさを感じなかったり、「構造的問題だから……」と他の要因に意識を向けたりする方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、そのような非言語領域における「関心の希薄さ」の裏で、「若い女性たちが地方から『すーっと』いなくなる、女性たちの静かな反乱」が起きていると中貝氏は指摘します(図1)。

 

図1

 

図1

 

図1 社会減による10~20代の人口減少幅が大きく、女性は男性に比べて回帰率が低い。ジェンダーギャップが要因であることがうかがえる。この傾向は多くの自治体に当てはまる。(出典:中貝氏)

 

さらに講演では、中貝氏が市長時代に行った「市役所職員のジェンダーギャップ」に関する調査結果も紹介されました。ここからは、ジェンダーギャップという「文化」の上に、行政組織が成り立っている様子が分かります(図2)。

このように、行政の現場にすら存在するジェンダーギャップに歯止めをかけなければ、いくら優れたシティプロモーションを行おうとも、女性は地方から流出し続けます。それは婚姻数や出生数の低下につながり、少子高齢化と人口減少は進む一方となります。ジェンダーギャップの解消は、自治体の地方創生戦略において標準装備すべき課題なのです。

 

図2

 

図2 豊岡市が2017年に行った調査の結果、市役所職員の男女間で収入やキャリアに差があることが分かった。(出典:中貝氏)

 

中貝氏は次のように鋭い表現で、参加者に意識変革の必要性を訴えました。

「ジェンダーギャップの解消が進まないまま、人口減少対策を行うことは、例えるならば、若い女性にはとっくに売れなくなっている『男社会』という商品を店頭に並べ、何だか最近売れないなあとぼやいている商店主のようなものだ」

「まともな経営者なら買わない消費者の側ではなく、商品の側に何か問題があると考えるはずだ」

ジェンダーギャップを含めたダイバーシティの重要性が、会場全体で共有された瞬間でした。

 

もう一つのキーワード

中貝氏の講演は、市長時代に取り組んだダイバーシティの具体的施策に関する解説へと移ります。中貝氏と言えば、コウノトリの野生復帰を主軸にした環境と経済の両立政策や、演出家の平田オリザ氏を巻き込んだ演劇のまちづくりなど、独自の施策で注目を浴びました。

こうしたユニークな施策の裏には「コウノトリ『も』住めるまち、アーティスト『も』住めるまち、女性や若者『も』住めるまち、つまりは多様性と寛容性をまちに根付かせる意図があった」そうです。

 

地方創生を巡る、もう一つのキーワードが出てきました。「寛容性」です。ジェンダーギャップの解消を含むダイバーシティと寛容性は、車の両輪のような関係性を持ちます。

「男性は午前9時から午後5時までフルタイムで働き、残業するのも普通である」「女性は出産したら家事と育児を優先するのが普通である」といった考え方は、多様かつ寛容であると言えるでしょうか。性別にかかわらず、誰もが主体的に「フルタイムで働く」「働きやすい時間に働く」「キャリアをデザインする」「家事や育児に取り組む」ことができ、それを互いに受け入れ合う姿こそが、多様かつ寛容な社会ではないでしょうか。

 

若者が地元に戻り、地域の中で生き生きと暮らす、もしくは働き手となることを目指すのであれば、多くの自治体や企業は今、慣習の一つ一つを疑う時期に来ていると言えます。

 

後編へつづく

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年4月24日号

 


【プロフィール】

一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム

2020年に設立。代表理事は元川崎市議の小田理恵子氏。「共に創る、公共の未来」をミッションに、官民が参画し、対話による新たな価値創造(官民共創)を生み出す実践型プラットフォームを提供する。22年9月26日号から本誌で「縮退社会における都市経営―官民共創リポート」を連載中。

 

スポンサーエリア
おすすめの記事