人口増加自治体ならではの課題とは~荒木義行・熊本県合志市長インタビュー(1)~

熊本県合志市長 荒木義行
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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今回は、全国の地方都市では珍しい人口増加自治体の首長へのインタビューをお届けします。

熊本県合志市は、隣接する県都・熊本市のベッドタウンとして人口が年々増加しています(昨年12月末現在で約6万4000人)。このエリアは、かつて「シリコンアイランド九州」と称された半導体産業の集積地域です。2010年代以降は国内の半導体産業の衰退とともに工場の撤退や縮小が続きましたが、現在も自動車関連を主とした工場が多く立地します。

近隣の菊陽町では、半導体受託製造で世界最大手の「台湾積体電路製造(TSMC)」が新工場を建設中です。24年末までの生産開始を予定しており、シリコンアイランド九州の再興やさらなる人口増が予想されています。

 

が国が少子高齢化と人口減少の一途をたどる「縮退社会」に突入する中、人口増は自治体にとって最も歓迎すべきことでしょう。とはいえ人口増加自治体には、人口増加自治体ならではの都市経営の難しさがあります。こうした点について、合志市の荒木義行市長に伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

若年層や子育て世帯が転入

小田 20年の国勢調査を見ると、合志市の人口は5年前の前回調査から5.8%増加しています。

荒木市長 私が2010年に市長に就任してからの約12年間で約9000人増えました。全国的に少子高齢化の傾向がある中、合志市は若年層や子育て世帯の転入が多く、「元気で活力のあるまち」「住みやすいまち」との評価を頂いています。

 

小田 熊本市は製造業が盛んです。合志市はそのベッドタウンとしての役割を果たしていることが、人口増につながっているのでしょうか?

荒木市長 本市を含む県北部の菊池地域に、半導体や自動車関連の企業が集積しているからです。これらの企業が県外から雇用で人を呼び込んでいます(図1)。

 

図1 合志市の今後の人口予測(出典:合志市総合計画第2次基本構想第2期基本計画)

 

小田 合志市の人口動態を見ると、熊本市からの転入が多くなっています。同じ九州地方の中心都市である福岡市は人口が集中していますが、熊本市の場合は周辺地域へ人が流れている点が大きく異なります。

荒木市長 合志市の人口増加は社会増によるもので、隣接する熊本市の人口を吸い込んでいます。実は現在、合志市の出生率は減少しており、社会増を考慮しなければ人口はほぼ横ばいです。特に新型コロナウイルス禍と歩調を合わせるように、出生率の低下が見られるようになりました。感染症に対する不安や生活苦が原因となっている可能性があります。これらに対応することは、行政にとって大きな課題です。

 

社会増による都市経営への影響

小田 人口増加自治体だからと、手放しで喜べるものではないということですね。一般的に急激な人口増は行政サービスの需要増をもたらします。特に合志市のように社会増で子育て世帯が増えると、財政支出も増えるでしょう。さらに、行政職員の処理能力を超えるサービス需要があると、行き届くまでに時間がかかります。

荒木市長 子育て世帯の流入は財政的な負担が大きいというのも事実です。しかし人口増で税収も伸びているため、他自治体から見ると大きな問題ではないと捉えられていると思います。

子育て世帯が流入すると、保育・教育環境の整備が必要になります。例えば学校整備について、直近3年間の動態調査から見込み人口を割り出し、文部科学省に教室増築に関する補助金の交付を依頼したとします。しかし実際には想定を超える人口増となっており、国が定める建築単価と実勢単価の差も相まって、補助率通りには頂けていないのが現状です。文科省には想定と実態の幅を考慮していただくよう働き掛けています。

 

小田 私はかつて川崎市議を務めていましたが、同市も子育て世帯の転入が多く、市の財政負担は常に問題となっていました。特にある特定のエリアに人口が集中すると、そこから通える範囲内に小学校や保育園を新設する必要が生じます。しかし、そうしたエリアは土地代や賃料も高騰しているので、財政負担は非常に大きくなります。

荒木市長 合志市も、市域全体で満遍なく人口が増えているわけではありません。熊本市に隣接する1割ほどの面積が開発可能な市街化区域になっており、同区域の人口は増加していますが、市街化調整区域では減少しています。まさに日本の縮図のような人口分布です。待機児童をなくすため、人口密集地域の保育園には弾力運用による定員の拡大をお願いしていますが、残る9割の地域にある保育園は定員割れしています。

 

人口密集地域に保育園を新設すると、それが呼び水となり、さらに人が集まります。ですから分散するように、保育園はなるべく郊外に設置するようにしています。

しかし子育て中の親からすると、市街から郊外へマイカーで片道15分程度かかる送り迎えは負担が大きいのです。交通渋滞が発生するからです。都会のように公共交通が発達していませんから、通勤ラッシュ時の道路は車で混雑します。

また郊外に保育園を設置することで、既存の保育園が定員割れとなる可能性があります。子育て世帯が急激に増えると、このように複合的な問題が浮き彫りになります。

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年1月30日号

 


【プロフィール】

熊本県合志市長・荒木 義行  (あらき よしゆき)

1958年生まれ。警視庁警察官を経て、86年7月国会議員秘書。95年4月から熊本県議を務め、2010年4月同県合志市長に就任。現在4期目。

 

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