政治とアートに架け橋を― 本当に必要なエールと広義の“アート”とは

“アート” 皆さんはどんなイメージをお持ちですか? どう定義しますか?
新型コロナウイルス感染拡大により、大きな影響を受けた業界は数多くありますが、アートの分野はとりわけ影響が甚大でした。芸術家、音楽家、俳優らアーティストたちは活躍の場を失い、彼らが活動する「箱」と呼ばれるイベント会場やライブハウスは、開催の中止や延期、休業をも余儀なくされました。彼らに必要な支援は何か? 政治の世界に飛び込む前は現代アートのアーティストとして活躍されていた、板橋区議会議員の南雲由子さんに、政治や行政はアートをどのように支援していくべきか、政治とアートはどのような関係性を築くべきなのか、今回はかなり深いところまで掘り下げて伺っていきます。

(聞き手=PublicLab 編集長 小田理恵子)

 

ここ数か月、コロナ禍でアーティストのみなさんは本当に大変な状況だと思います。実際のところの状況を教えてください。

 

アーティストや関係者の友人たちに話を聞くと、たしかにみんな大変な状況ですが、状況は様々です。例えば、画家やコンテンポラリーのダンサー、まだ売れていないバンドマンなどは、そもそもアートで生計を立てていない(他に仕事を持っている)ので、むしろ別の仕事の影響が大きい。でも、音楽一本で生活できていた人は、収入がゼロになってしまう大変な状況、という傾向があるかと思います。さらに困っているのは、実はアーティストよりも、ライブハウスやクラブ、ギャラリーといった「箱」。東京都は家賃が高いし、人件費もかかるので、会社の存続はもう時間との勝負、と聞きます。

 

東京都が打ち出した、文化の灯を絶やさないための緊急対策、芸術文化活動支援事業「アートにエールを!東京プロジェクト」※については、どのような受け止めをされていますか?

 

アーティスト個人に対してよりも、アーティストやミュージシャンを育てる場、発表や活動をする場などスペースの支援に特化してもよかったんじゃないかと考えています。先日、DJの友人が「箱が人を育てるんだ」と話していて、ライブハウスやクラブは廃業させてはいけない。固定費の負担で「もって8月まで」とも聞きました。政治や行政には、アートを支える環境や人に、もっと支援をしてほしいです。

 

※「アートにエールを!東京プロジェクト」
個人型では、審査を経て動画作品が専用ウェブサイトで配信されると、出演料相当として1人10万円が支給(予定人数4000人を大幅に超える1万6000人以上からの個人登録があり即日募集終了。後日4000人の再募集があったが抽選に)。ステージ型では、無観客や入場制限を設けて開催するイベントに対して無料配信が行われ、制作支援金として200万円が支給(1470件中300件が採択)。

 

カルチャーの場所というのは、結果的にアーティストにならず別の職業に就いたとしても、その人の人生に染み込んでいくもの。そういう大事な「場」が危機的な状況にあるので、自分にできることがあるなら、やらなければいけないと思っています。それは板橋区議会議員としてだけではなくて、アートに対して政治の内側から扉を開けられる者として。

 

南雲さんは、アーティスト兼議員として、今回のコロナ禍でどのような活動をされているんですか?

 

「アートにエールを!東京プロジェクト」に関しては、「そもそも政治や行政関係者は、アーティストたちの現状を本当に理解した上で、この政策策定をしているのか?」と疑問に思っています。私は友人知人に、アートと政治の関係者、その双方がたくさんいます。でも、アーティストで地方議員をやっている人というのは本当に少ない。政治の世界には、スポーツなどと比べてもアートの当事者が極端に少ないんです。

そこで、アートと政治の双方をつなぐ役割を担おうと考え、架け橋となる「場」をつくっていく活動を続けています。緊急事態宣言当初は、ミュージシャンやアートのキュレーター(アートイベントを組む人)と地方議員の方を何人か繋いでオンラインで話す機会をつくりました。文化やアートからのロビイングは、継続的に行っていく必要があると考えています。

 

南雲議員の作品

2009年「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」に展示した 南雲議員の作品『Scrap and Bride』

 

5月からは、都議会議員の方にお誘い頂いて、いとうせいこうさんや、ラッパーのZeebraさんらと、「議員vs DJ&アーティスト」と題した文化政策のオンライントークイベントに継続的に登壇させていただいています。ライブハウスやクラブを行政がどう支援するか、支援にあたりどこに課題があるのかなど、かなり熱い議論が繰り広げられました。

「ライブハウスと一言で言っても、10人規模から1000人規模まで様々なのに、ガイドラインや支援策は画一的」「オンライン配信を都が支援しても、著作権や原盤権の問題で配信ができない」など、当事者ならではの意見が多数出ました。私は「現状、アーティストや業界について、なんとなくのイメージで、顔が浮かばないまま文化政策が策定されてしまっている。日ごろから政治家とアーティストがやり取りをしていた方が良い」と発言しました。

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