政治家は自宅住所を公開すべきか?(上)

政治家は自宅住所を公開すべきか?
旧姓使用に「広く知れ渡っていること」の証明は必要か

台東区議会議員
WOMAN SHIFT 代表
本目 さよ

2020/9/14 政治家は自宅住所を公開すべきか?(上)
2020/9/16 政治家は自宅住所を公開すべきか?(中)
2020/9/18 政治家は自宅住所を公開すべきか?(下)


内閣府の「政治分野における男女共同参画の推進に向けた地方議会議員に関する調査研究報告書」によると、2018年末時点で地方議会における女性の割合は13・1%と極めて小さいことが分かります。まだまだ男性社会が前提となっている地方議会で、私が女性議員として数多くの苦労をした経験から、2期目の2015年、政策実現ができる女性議員を増やすことをミッションとする若手女性議員のネットワーク「WOMAN SHIFT」を結成しました。女性議員ならではの活動などをテーマに勉強会や交流会を開催したり、議員を志す女性をサポートしたりと、取り組みは5年目に入っています。

女性が立候補するときのハードル

さて、昨年の統一地方選挙の前後から、WOMAN SHIFTには幾つか共通した相談が入ってきました。それは「旧姓で立候補できない」「住所が公開されてしまう」というものです。4人の方の相談内容を事例としてご紹介します。

事例1(関西の市議Aさん)

【住所公開】2期目に通称として旧姓を使用した際、立候補者一覧で戸籍名と住民票住所を公表されました。必要な措置かもしれませんが、旧姓使用を良く思わない方から、戸籍名で議会事務局宛てに手紙を頂いたり、SNS(インターネット交流サイト)で居住地と地盤が異なることを悪意的に書かれたりするなどの嫌がらせを受けました。

【旧姓使用】選挙の時、1期目は独身で戸籍名、2期目は既婚で旧姓を使用しました。現職であり選挙管理委員会職員と顔見知りだったため、旧姓使用はスムーズにできましたが、規定がない故の曖昧さを感じました。一方、1期目に結婚した際、議会で旧姓を継続して使用しようとしたときには、職員にも旧姓使用をしている者がいないということで難航を極めました。

事例2(都内の市議Bさん)

【住所公開】私が立候補したとき、家族の一番の不安が住所公開でした。正直、立候補を諦めようかとも思いました。夫と話し合った結果、警備会社を使用し、家の四方全て死角がないように防犯カメラを設置しました。全てのカメラで1週間分の録画が残るようになっています。カメラの導入費用などで80万円ほど掛かりました。政治活動で、ただでさえお金が掛かっていたので痛手でしたが、それでも家族と自分を守るためにはその方法しか思い付きませんでした。選挙後は自宅住所は公開していませんでしたが、選挙時に公開していた影響で、その後しばらくは市民の方が突然自宅に来ることがありました。どの方も市民相談ではなく、「実物を見たかった」というような理由でした。来た方に悪気はないのだと思いますが、やはり少し恐怖を感じました。あの時、80万円出せるほど経済的な余裕がなかったら立候補していなかったと思います。

事例3(関西の市議Cさん)

【旧姓使用】立候補の際、旧姓を通称として使用したいと思いましたが、自分の旧姓が広く社会で通用していることを示す資料を提示できず、選管から認定は難しいと言われ断念しました。

旧姓を使用したかった理由は、結婚後数年経っていましたが、友人にも新しい姓が知れ渡っていないと判断したためです。私自身が知識を持って臨めば、旧姓の通称認定を受けられていたかもしれませんが、選管職員の認識が、個人の概念によって大きく異なるのが問題だと思います。よって、立候補の際に男女とも、旧姓を不自由なく使用できるよう基準を設けていただくことを望みます。

事例4(関東の市議Dさん)

【住所公開】当選後ですが、自宅住所を公開したくないために事務所を構えたにもかかわらず、自宅前に知らない男性が出没するようになり、引っ越しました。引っ越し先はいかなる場所にも公表されていないはずでしたが、宛名も切手もないDVDが引っ越した先の自宅に投函されました。ちなみにDVDは警察に届けました。

後に自宅住所がインターネット上で公開されていることに気付き、ショックを受けました。現在、後述する総務大臣からの通知を基に市選管と削除を交渉中です。

総務大臣への要望提出

実は旧姓使用と住所公開については、立候補時と議員になってからの二つが課題としてあります。

今回、高市早苗総務大臣へ要望を出したのは、立候補時についてです(写真)。図表の①と②の部分に特化して要望しました。議員として住所公開を控えたい、旧姓使用にハードルがあるという声もありましたが3月に全国市議会議長会から通知が出ており、大臣も課題については認識してくださっているだろうということで、今回は選挙時に絞りました。

総務大臣と仲介の吉川さおり参議院議員とWOMAN SHIFTのメンバー

総務大臣と仲介の吉川さおり参議院議員とWOMAN SHIFTのメンバー

 

具体的な要望の内容は、「候補者の氏名、本籍、住所、生年月日、職業の公表について、告示以外の方法については現在各自治体に委ねられているが、慎重に扱うよう(HP〈ホームページ〉では戸籍名・自宅住所は公表しないなど)通達を出してください。候補者や議員の旧姓使用について全国的に基準をつくり、立候補に当たり簡単に使用ができ、不自由がない形にしてください」というものです。

「中」へつづく


プロフィール インタビュー記事はこちら
本目 さよ(ほんめ・さよ)

東京都台東区議会議員
1982年生まれ。私立成蹊高校、白百合女子大卒、お茶の水女子大大学院修了。(株)NTTデータイントラマート人事職を経て2011年より東京都台東区議会議員。台東区では唯一の30代女性議員。キャッチフレーズは「子育て、本命。─やさしい政策─」「政策を実現できる女性議員を増やし、地方議員を女性のキャリアの一つにする」ことをmissionとする超党派の若手女性議員ネットワークWOMAN SHIFT 代表。1児の母。

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