次世代に継承できる、小さくとも誇り高いまちを~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(4)~

京都市与謝野町長 山添藤真
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2022/09/26 まちの新産業を「デザイン」で創出~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(1)~
2022/09/29 まちの新産業を「デザイン」で創出~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(2)~
2022/10/03 次世代に継承できる、小さくとも誇り高いまちを~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(3)~
2022/10/06 次世代に継承できる、小さくとも誇り高いまちを~山添藤真・京都府与謝野町長インタビュー(4)~

公共施設の統廃合は全国的な課題

小田 与謝野町では昨年、公共施設の整備計画が白紙に戻されました。(注1合併後も旧役場や出張所など、重複する公共施設をなくせない自治体は多くあると聞きます。一方で税収は厳しさを増しつつありますから、維持費の掛かる公共施設の統廃合は一刻も早く進めなければならない課題です。今回の件は一自治体の話でなく、社会的な課題として認知されるべきでしょう。

山添町長 おっしゃる通りで、同じ課題に直面する首長は数多くいらっしゃいます。

「人口が縮小していく中で公共施設の統廃合は必要不可欠である。しかし、それに対して住民の皆さんの理解をどう得たらいいのか」といった言葉は、世代を問わず首長の口からよく出るものです。ですから、縮退社会に入った日本の中で公共施設を預かる首長の考えとしては一定程度、共通のものであると認識しています。

ただし、その地域の住民や議員の理解度によって、アプローチの仕方は変わります。公共施設の統廃合に関する取り組みには、地方自治の本質が多く表れるような気がします。

 

結局は「いかに未来を考えられるか」という一言に尽きます。自分たちの子どもや孫の世代に対し、どのようなまちを残したいのか。この点について、より多くの方たちが考えられるかどうかに懸かってくるのではないでしょうか。

行政はまちの現状も含め、しっかりと住民の皆さんに説明し、共に未来を考えていけるように働き掛けなければなりません。コミュニケーションを取り続ける努力と勇気が必要です。

 

小田 公共施設の統廃合については、やはり多くの首長が直面している課題なのですね。個人的には、それをすべて首長一人に任せる仕組み自体が厳しくなってきているような気がします。未来を見据え、勇気を持って公共施設の統廃合を進めた首長が、住民の理解を得られずに選挙で敗れてしまうケースも散見します。

山添町長 率直な意見として、国の関与がもう少しあればとは思っています。国からの財政的な支援が積極的にあれば、公共施設を除却していく、あるいは統合していくことが今よりも進めやすくなります。

 

小田 山添町長がおっしゃったことは、多くの首長や自治体職員も感じていることだと思います。

 

注1=旧野田川町地域にある中央公民館と体育館、給食センターを取り壊し、跡地に認定子ども園を整備するという町の計画に施設利用者らが反対し、約8500人分の署名を提出した。町は第三者委員会を設け、保育施設などの在り方を検討。同委は計画をいったん白紙に戻した上で、住民参加の下での新計画策定を求める報告書を提出した。

 

複業人材を登用

小田 本インタビュー内で山添町長は、事業の進捗が滞る原因は「大体が予算かマンパワーがないこと」だとおっしゃいました。今後の自治体運営において、限られたリソースをどう配分するかは永遠の課題でしょう。与謝野町はどのように解決しようとしているのか、構想をお聞かせ願えますか?

山添町長 外部人材の登用は積極的に進めていきたいと考えています。社会・経済情勢が非常に激しく動いていく中、役所だけで流れをすべて捉えながら打ち手を考え、実行していくことは困難です。各種専門分野の外部人材の登用でマンパワーや知見の不足を補うことができればと考えています。

昨年11月に「株式会社 Another works(アナザーワークス)」と包括連携協定を締結しました。同社の保有するサービス「複業クラウド for Public」を使って広報公聴戦略アドバイザーという職種を募集したところ、複業人材2名の登用につながり、その方たちと共に広報公聴戦略を策定しました(写真2)。

 

(写真2)広報公聴戦略アドバイザー任命式(出典:与謝野町公式フェイスブック)

 

アドバイザーとなった2人に協力いただいたことで、役所内のプロジェクトチームでも「非常に学びになった」という声を多く聞いています。外部人材を登用していくことで、職員の仕事の進め方に変化が起きたり、視点が広く深くなる様子がうかがえたりしますので、得られるものは大きいと思っています。

これから集中して取り組もうとしているのは、企業誘致や役所内の業務改善です。現在、この二つの分野に関しても民間の複業人材を募集しています。

 

小田 前回、まちづくりのテーマ設定や事業構成を練るために、民間のクリエーティブディレクターを登用したというお話がありましたね。

山添町長 まちの持続可能性を高めるためには、あらゆる知恵や技術、発想、創意工夫が必要です。それらを柔軟に取り入れることが、自治体が今後生き残っていくためのすべだと思います。役所や地域内の限られたエリアの中だけで考えるのではなく、域外の方たちとも積極的につながり、まちづくりの新たな仕組みの構築にチャレンジしたいと思っています。

 

小田 山添町長が長期的なまちづくりを意識して日々、行動されている様子がよく理解できました。まちづくりには首長のビジョンや哲学が不可欠ですね。与謝野町が外部人材と連携しながら今後も生み出していくであろう、新たなまちの魅力がとても楽しみです。

 

【編集後記】

山添町長が政治家を志したきっかけは、フランス留学時代に海外から見たふるさとの素晴らしさだったそうです。地域の内側からは見えない魅力があると、当時から気付いていたのでしょう。

域外の外部人材を積極的に登用したり、地場産業を踏襲した新産業の創出にチャレンジしたりしている様子からも、与謝野町が元来持つ魅力を未来に適した形にして、つないでいこうとする意思が感じられます。

 

同町のウェブサイトに掲載されている山添町長のあいさつには「私たちが暮らす与謝野町は、希望と可能性にあふれるまちです。小さくとも誇り高いまちを大きく育み、次世代に継承していくことができるよう、住民の皆様とともに歩んでまいります」という一節があります。山添町長が考える未来のまちのビジョンが、より深く鮮明に住民や職員に伝わることを願います。

読者の中にも、住民・議会との合意形成や情報伝達に頭を悩ませている方がいらっしゃると思います。

人の集合体であるまちは、どこまで行っても各人の意図が相対することになるでしょう。その解決策は結局のところ、「粘り強く伝え続ける」ことになるのではないでしょうか。コミュニケーションを諦めない姿勢こそが、まちの未来の方向性を決めるのだと思います。

 

(おわり)

 


【プロフィール】
京都府与謝野町長・山添 藤真(やまぞえ とうま)

1981年京都府生まれ。2004年フランス国立建築大学パリ・マラケ校に入学。06~08年フランス国立社会科学高等研究院パリ校に在学。10~14年京都府与謝野町議。14年与謝野町長に就任し、現在3期目。

スポンサーエリア
おすすめの記事