皆で考え、実を結ぶ取り組みを〜長久保耕治・青森県東北町長インタビュー(3)〜

青森県東北町長 長久保耕治
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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第1回第2回に引き続き、青森県東北町の長久保耕治町長のインタビューをお届けします(写真1)。町の主力産業の一つである1次産業の持続的な発展に注力していますが、その根底には自らも農業従事者である長久保町長の「作物を育てるように、まちをつくる」という理念がありました。

今回は畜産・酪農業や漁業など、他の1次産業に関する取り組みについても伺いました。長久保町長が体現する「農耕型のリーダー像」を感じ取っていただければと思います。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

(写真1)長久保町長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

「照らすこと」が最も大事

小田 長久保町長は組織づくりに、営農で培った長期的・包括的な視点を取り入れています。組織の風土を「土壌」と捉え、町民や職員との地道な対話で「耕す」という考えにとても共感しました。自ら積極的に話し掛けるとのことでしたが、職員と話す際は実際に各課に足を運ぶのですか?

長久保町長 私から行きます。ごく自然に「すみません」と声を掛けるときもありますし、資料を持って行って「ちょっと教えてください」と依頼するときもあります。職員からは腰が低く見えるのか、時折恐縮されることもあるのですが。

しかし私は職員をチームメートだと思っているので、そういう関わり方をしています。もちろん町民の代表、職員の代表という役割は自覚しています。勝負どころで皆さんに恥をかかせるわけにはいきませんから、表に出る場面ではしっかりと役割を果たします。野球に例えるならば、4番バッターのようなものです。

 

小田 首長という存在に対し、「権限を持つ人」「雲の上の人」といったイメージを持つ人にとっては、新鮮に映るでしょうね。

長久保町長 私が町長になって、もしかしたら職員は拍子抜けしているかもしれません。ただ私自身は、こんな首長がいても良いのではないかと思っています。職員の中にも同じように思う人がだんだんと出てきているようで、時々ですが、個人的に相談を受けることがあります。それくらい距離が近い存在だと思っていただいているようですね。

組織論的に言えば、まずは上長に相談し、それが私のところに上がってくるのが正しいのかもしれません。しかし、兄のような気軽さを醸し出す首長がいても良いのではないでしょうか。

 

小田 「北風と太陽」でいう太陽のようなお人柄ですね。皆さんに温かく接するうちに、いつの間にか周りが変化していくような感じです。

長久保町長 それは恐縮です。おっしゃるように、一番大事なのは「照らしてあげる」ことかもしれません。ただし、その照らし方はじりじりと厳しいものではなく、安心できるような温かさですね。それで職員が仕事しやすくなるのであれば、良いのではないでしょうか。まちにも還元できます。

東北町の歴代町長の中では異端な存在かもしれませんが、結果的に皆が笑顔になるのであれば、この姿勢は続けていく価値があると思っています。問題が出てきたら、その都度、検討して修正していけばいいのですから。いろいろな地方自治の形があっていいと思います。

 

10年、20年先を見据えて

小田 東北町は農業のみならず、畜産・酪農業に漁業、林業と、1次産業がほぼすべてそろっています。これらを全方位的に支援していくのは相当大変ではないかと思うのですが、それぞれどのような施策を推し進めているのでしょうか?

長久保町長 農業に関しては前回お伝えした通り、「スマート農業」の推進です。深刻な労働力不足の問題を解消するために取り組んでいます。生産した農作物の出口戦略も重要と考えており、ふるさと納税の返礼品や道の駅への出品、大規模消費地へのPRなどに注力しています。

 

次に畜産・酪農業に関してですが、こちらは労働力不足や後継者不足、飼料の高騰などが大きな問題です。町は現在、機械の導入や母牛、子牛の購入に対する支援を続けています。しかし、これらは単年的な支援です。今後は将来を見据えた経営体に対し、より支援を拡充する方向で進めていきたいと考えています。

そのためにはまず畜産・酪農家との対話が必要だと判断し、お話しする機会を設けました。その場で私からはこう伝えました。

「町財政との兼ね合いがあり、単年度の経営支援は皆さんが思うようにはできません。それよりも皆さんが今後、持続的に経営を行っていくために必要なものは何か、まとめてもらえますか。それに対し、町は体を張って支援します」と。

10年や20年といったスパンで考えて必要なものです。それは例えば、飼料を自給自足できる仕組みかもしれません。あるいは子牛を育成する専門の施設かもしれません。

事業の永続性を考えたものであれば、ハードでも支援していきたいと思っています。だから、皆さんで考えましょうという働き掛けを行っています。

 

漁業では、資源の枯渇が深刻な問題です。町には小川原湖という県内最大の湖があり、シジミやシラウオ、ワカサギ、ウナギなどが取れます(写真2)。これら資源の枯渇を防ぐため、いろいろな手立てを講じています。

直接的なものとしては、シジミの稚貝やウナギの稚魚の放流に対する支援です。これから本格的に取り組んでいかなければならないこととしては、資源管理型漁業のさらなる確立です。

もともと小川原湖では、漁獲量に制限を設けるなど、一定の資源管理は行ってきました。しかし今後は小川原湖を養殖場と見立て、資源を育てるところから仕組みをつくっていかなければならないと考えています。

農業に例えると、小川原湖は田畑です。そこに種(稚貝や稚魚)をまき、きちんと育てます。自分たちで育てているという意識があれば、環境にも配慮するでしょう。取り過ぎるということもなくなります。このように自分たちで育て、調整していく漁業に徐々に転換していくことが必要です。

 

(写真2)小川原湖での漁の様子(出典:東北町ウェブサイト)

 

小田 長久保町長の考え方の根底には、やはり農業があるのですね。

長久保町長 私の視点やアプローチの根底は農業です。農業は最も古い産業の部類に入ります。ここまで長く続き、いまだになくならない産業であれば、そこにはあらゆる基本が詰まっているのだと思います。町民も現役の農家だったり農家出身だったり、また血縁者に農家がいるなど、農業に慣れ親しんでいる人が多いです。その手法やプロセスを肌感覚で身に付けています。

ですから何かを説明するにしても、農業の土づくりから収穫までのプロセスに例えると、分かりやすいと感じていただけます。実際にそのプロセスを行政に転換させて運営していくのは、面白い切り口ではないかと思います。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年11月7日号

 


【プロフィール】

青森県東北町長・長久保 耕治(ながくぼ こうじ)

1972年生まれ。東京農業大農学部を卒業後、地元の青森県東北町に戻って就農。2014年同町議に初当選。21年4月同町長に就任し、現在1期目。座右の銘は「我以外皆我師也」。

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