自治体総合百貨店時代の終焉(3)自治体の優勝劣敗がはっきりする10年が始まる

オープンイノベーションはその必要性が叫ばれながら、産業界でもまだまだ成功事例が少ないのが現実です。その阻害要因は様々分析されていますが、代表的なものをあげると、「外部連携が全社的な取り組みになっていない」「従来の手段に頼り、ハッカソンやアイデアソンなど新しい仕組みを利用できず、外部連携先を適切に見つけることができない」「費用分担や知財の取り扱いで合意できず、協業で目指すところやスピード感が合わない」といった組織戦略、オペレーションなどに課題があるとされています。

 

自治体はデジタルプラットフォームに

これを自治体へ敷えんするとどうなるでしょうか。私は自治体をはじめとする公的機関こそ、オープンイノベーションとの親和性が高いのではないかと考えています。

 

特に都市は可能性が高い。都市には、物理的なプラットフォームの側面と、デジタルデータのプラットフォームとしての側面があるからです。

 

物理的なインフラが整い、人やモノ、情報が集積し、加えて多様なステークホルダー間の相互作用や知の交流を促進しやすい環境が整っているのが都市です。しかも、ここへきて、ICTによるデジタル化の進展は目を見張るほど。決済の電子化や各種シェアリング・サービスなど、ICTが提供するサービスは本来、行政が担うべき社会課題をも解決しようとしています。

 

自治体と企業の間になる断絶

私は30代の10年間を横浜市議会議員として過ごしました。その経験からの肌感覚で言いますと、都市が持つオープンイノベーションの可能性は非常に大きい。一方で、やはり課題も山積みだと思うのは、日本において、この考え方をどう広めていくのか、という本質的なところに問題があります。

 

まず一つには行政そのものが企業に対して警戒心が強いこと。これは日本の特徴と言ってもいいでしょう。

 

私は、これまでシンガポールやニューヨーク、ハンブルグ、コペンハーゲン、ヘルシンキと世界の様々な都市と自治体を視察に行ってきましたが、どこももっと軽やかに行政と企業が連携していました。不思議なことに日本の場合、企業と付き合うことを行政が極端に警戒する傾向にあります。

 

一方で、企業サイドもはなから自治体に期待していないフシもあります。最近でこそ、自治体がもつデータの有用性に気づき、考え方を変えつつあるように思いますが、それでも行政に対しては「ビジネス感覚がない人たち」と見ているのは間違いありません。

 

多様性と寛容性がポイントに

今、私たちの住む日本は世界でも例を見ないスピードで高齢化社会へ突入し、一方で経済的に豊かになった国家、都市の宿命ともいえる少子化も進行中です。バブル経済の崩壊以降、政府も自治体も大きな債務を積み上げてしまいました。公民連携に代表される、公共サービスのオープン化はまったなし、です。

 

それは「好きだ、嫌いだ」の議論とはまったく関係なく、社会的背景として進んでいくと言っていいでしょう。2000年代初頭のエレクトロニクス業界がそうであったように。

 

経済の世界はある意味分かりやすい。経済合理性によって物事が進捗するため、対応が遅れれば、マーケット・シェアを落とし、場合によってはマーケットからの撤退も起こり得ます。行政サービスの場合は、経済合理性だけでは動かないところに難しさがあります。しかも、そこには市民をはじめとした人間の感情が加わってくるわけです。

 

変化に対応する自治体、変化に取り残される自治体

結果何が起きるかというと、今後、都市によって行政サービスのオープン化のスピードに差が出てくることでしょう。そして、その差はそのまま都市の競争力の差に直結していくはずです。

 

重要なのは自治体も企業も、NPOなどのソーシャルセクターも、多様性と寛容性を持つことです。今ほど多様性、ダイバーシティの重要性が叫ばれている時代もありません。企業と行政では組織の行動原理が異なります。当然、ソーシャルセクターも異なります。行動原理の違う組織が何かを一緒にやろうとするとき、プロセスを含めて何から何まで異なるのが当たり前です。

 

多様性とは、その違いをまず認識し、認め合い、歩み寄ること。認識できても理解できないケースは、相手のやり方、行動様式を否定しないことです。自分たちのやり方を正義とせずに、「そんなやり方もあるのか」とまず、見守ることが大切です。

 

簡単なようですが、その簡単なことができずにオープンイノベーションが起きないことは驚くほど多いのが現実。これは私自身、様々な経験の中で実際に肌で感じてきたことでもあります。多様性には寛容性が必要です。社会全体がオープン化の方向へ進んでいる中で、オープンイノベーションが起こりやすい多様性と寛容性を備えた都市、自治体がこれからの10年、20年の中で脚光を浴び、人を集積していくことになるでしょう。

 

(株式会社Public dots & Company 伊藤大貴)

 

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