移動データでデザインする脱炭素のまち(3)~EBPMに基づくプロジェクト─3市が成果報告~

株式会社Public dots & Company

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2022/07/14 移動データでデザインする脱炭素のまち(3)~EBPMに基づくプロジェクト─3市が成果報告~
2022/07/19 移動データでデザインする脱炭素のまち(4)~EBPMに基づくプロジェクト─3市が成果報告~

 


 

第1回第2回に引き続き、2022年3月3日に開かれたオンライン報告会「移動データでデザインする脱炭素のまち」の様子をレポートします。

前回までは、「移動データを活用した地域の脱炭素化プロジェクト」に参加した三つの地方自治体のうち、兵庫県加古川市の取り組みについて紹介しました。今回から2回に分けて、富山市と神奈川県小田原市の報告内容をお届けします。EBPM(証拠に基づく政策立案=Evidence-based Policy Making)の原則に基づく自治体運営の姿を感じ取っていただければと思います。

富山市の報告

富山県は世帯当たりの自動車保有台数が全国2位であり、その県庁所在市である富山市は車での移動が日常生活に深く結び付いています。中心市街地よりも、郊外にある大型の商業施設がにぎわう傾向があり、中心市街地の空洞化と車に依存した生活からの転換が課題となっていました。

そこで市は、2003年から「公共交通の活性化」「公共交通沿線地区への居住誘導」「中心市街地の活性化」という三つの柱を立て、「公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり」の実現に向けた取り組みを続けてきました。都市機能を集積し、効率的な移動を実現することで低炭素・脱炭素社会を目指しています。

 

近年では、LRTネットワーク(Light Rail Transit=低床式車両〈LRV〉の活用や軌道・停留所の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する軌道系交通システム)を活用し、「歩く生活」「まちなかの回遊性」など、「歩くこと」に着目した施策に重点を置いてきました。

また、富山駅と中心市街地を結ぶ市内電車環状線の開業、富山駅周辺の開発、「歩きたくなる歩行空間」の整備などを通じ、「富山で歩く生活『とほ活(富歩活)』」をキャッチフレーズとした「歩くライフスタイル戦略」を打ち出し、市民の健康づくりとまちづくりを融合させた、持続可能なまちを目指しています。

 

今回のプロジェクトでは、「中心市街地への来訪手段」と「その後の行動」に焦点を当て、データの取得と分析を行いました。これにより、車利用者の現状と課題を正しく把握することを目的としています。

では、具体的な報告内容を見ていきましょう。

可視化された徒歩移動の限界点

市は、中心市街地の徒歩回遊の実態とボトルネックを明らかにするため、①富山駅周辺②中心市街地の活性化に向け建設された全天候型の多目的広場「グランドプラザ」周辺──で、移動データを取得・分析しました。

具体的には、両エリアへの来訪手段が「車」であるデータのみを抽出し、来訪後の交通手段や来訪後の行動を可視化しました。各施設への来訪後、実際に滞在する場所までの移動を分析すると、徒歩移動の限界点がいずれも600㍍付近にあることが分かりました。

 

資料1(出典:富山市)

 

資料1は、移動距離ごとに色分けされた分布図です。グランドプラザ周辺は、北側600㍍に位置する富山城址公園や歓楽街である桜木町が、北の限界点になることが見て取れます。また富山駅周辺では、南側600㍍に位置する県庁や市役所のあるエリアが、南の限界点となることが分かりました(資料2)。

今回の分析で明確になった「徒歩移動の限界点は600㍍」という数値が、今後の施策展開における重要な指標となります。

 

資料2(出典:富山市)

 

富山市のネクストアクション

市は二つの観点から、今回の分析結果の活用を検討しています。

第一は、中心市街地の回遊に関する観点です。富山駅から中心市街地へ回遊させるためには、両エリアの徒歩移動限界点である「松川・官公庁エリア」や「城址公園」で、どのような仕掛けを展開するかがポイントになります(資料3)。

 

資料3(出典:富山市)

 

このうち「松川・官公庁エリア」では、松川沿いにある桜並木を歩きたくなるような環境に整備すること、また県庁や市役所周辺の公有地の活用など、それぞれのポテンシャルを生かした「歩きたくなる空間づくり」への活用が求められます。

第二は、現行施策の再検証に関する観点です。富山駅の北側600㍍のエリアでは現在、中規模ホールの建設と、その先に位置する環水公園に至る道路空間(通称・ブールバール)の再整備が行われています。これら施策にどう活用できるか、官民連携で検討を進めることで「市民が回遊したくなる環境」のさらなる推進が期待されます。

 

第4回に続く

 


【プロフィール】

2019年に現職の地方職員や元議員らが設立。官民共創事業を手掛ける。自治体と民間企業のコミュニケーション調整や各種プロジェクトの支援を通じ、社会課題解決と新たな価値創出を図っている。本メディアでは、官民共創による課題克服に向けた取り組みなどについて、事例の紹介や解説をしている。

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