議会のデジタル化推進とデモクラシーの成長(3)

北名古屋市議会議員、Code for Nagoya 名誉代表・桂川将典

(過去の投稿はこちら、第1回第2回

行政BYOD〜事務改善とシャドーIT対策

議会よりも行政の方が圧倒的に業務量が多く、ICT化を進める業務効率の改善効果は高いと思われます。しかしながら、総務省によるLGWAN(総合行政ネットワーク)とインターネットのネットワーク分離の指導によって不便なほどに隔離されていることと、情報セキュリティーポリシーに規定される情報資産の分類の線引き解釈があいまいで、リスクの低い情報資産までもが過剰に保護されているという現状があります。市役所がまるで要塞のようになっている一方で、あまりの堅牢さが招いた不便を感じている職員が大勢いるのも事実です。ほとんどの自治体で定めている、標準的なセキュリティーポリシーの規定に反したシャドーIT(注1)が知らぬ間に浸透し、私物スマホのLINE(ライン)などメッセージアプリを職員相互の連絡手段として利用していることも珍しくありません。

これは、一律規制があまりにも業務の実態を受け止めていないことに起因します。2013年に内閣府でまとめられたBYOD検討グループの報告書でも、一律規制で禁酒法のようになってはいけない、シャドーITには注意せよと指摘されています。

現時点では、業務用途を目的としたさまざまなクラウド、メッセージアプリなど本当に多くのサービスがあります。シャドーIT対策のためには一律規制ではなく、取り扱われるであろう情報資産のリスク評価(注2)に基づいて、業務効率向上のために利用するサービスを明示し、一方で裏口は塞ぐ、といった両面からの対応が妥当と考えられます。

つい先日も神奈川県庁でデータ消去・処分されるはずだった行政文書を保存したHDD(ハードディスク)が委託先企業の社員により窃盗・転売される事件がありました。リスクの洗い出しが適切に行われていれば、HDDのデータ消去は庁内で実施していたはずです。この事件ではリスク移転が不適切な運用だったわけですが、行政がICT活用とデジタル化を進めるためには、まず庁舎内のデータをLGWANから出しても差し支えないものと、そうでないものに区別する必要があります。非効率な作業は、必ずシャドーITの温床になります。そのためにも情報資産の整理・分類を行い、事務運用の効率化とのバランスが取れた情報セキュリティーポリシーを整備し、BYODを利用できる環境整備と並行してシャドーITへの対処を図るべきです。

注1=企業・団体等における情報セキュリティーポリシーによって利用が禁止された、私物やサービスを業務目的などで利用すること。従前はUSBメモリなどの可搬メディアが重視されたが、近年ではスマホやアプリ、サービスなどその対象も多岐にわたり、利便性から当然のように利用されている。管理者が黙認すると重大なリスクを招くということが、そもそも認識されていないことがポイント。
注2=リスクの特定、リスク分析(発生可能性・影響度の大きさ)に基づいて、どのリスクに優先的に対応すべきか(あるいは対応しないか)を決めるのがリスク評価。対応すべきリスクかどうかを判断する「リスク基準」も設ける。

2.議会のデジタル化と目指す方向

巷では、議員定数・報酬は減らせばいい、としばしば批判されています。その根底には、議員が普段何をしているのか分からない、という住民の不満が隠れているように思われます。

議会がデジタル化推進を行うことで、議員活動の「見える化」に拍車が掛かります。議会中継や議会だよりのネット配信は関心の高い住民に必要ですし、ウェブサイトやブログ、SNSを駆使する議員もかなり増えてきました。一生懸命活動している議員の姿が多くの人に届きやすくなります。

議員活動も時代に合わせて変化するべき時が来ています。タブレットの導入はペーパーレス化だけでなく、議会全体や議員個々の活動の向上を図るチャンスなのです。

無関心が民主主義最大の課題

「地方自治は民主政治の最良の学校」という言葉は広く知られています。英国の法学者であり政治家でもあったジェームズ・ブライス卿の言葉ですが、その著書「近代民主政治」には今から100年近くも前に書かれたとは思えない、重要なことが記されています。

「直接自家の利益に關係せぬ事には總て不關焉(無関心)の怠惰と利己は民主的團體に害毒を流すこと最も大なる悪風である」。直接自分の利害に関係のない住民の無関心が一番の問題である、と民主主義の制度欠陥が指摘されています。これは、投票率の低下や町内会加入率の低下が著しい現在の日本で、より意識されねばなりません。また、ジェームズ卿は「斯かる缺陥は自治によつて産み出される一層重要なる長所に免じて寛恕せねばならない」と述べています。民主主義は最初から一定程度は問題のある制度だから、それを努力で補うことが必要だ、と明言しているのです。

我々は当たり前のように民主主義の政治体制の恩恵を甘受してきましたが、歴史上の先人の血と努力によって獲得してきた制度を、根源的なところで全く知らずに育っていることに気付かされます。

3.これからのデジタル化議会への展望

議会改革を推進することの目的は、自治に対する住民の興味・関心の涵養になるべきものとして、デジタル化への取り組みを広げていかねばならないと考えています。ヒントになるのは「行政経営のイノベーションを目指そう」という、前関西学院大教授の松藤保孝氏の言葉です。

松藤氏はインターネット・SNSというガラクタの山から、お宝になる住民意見を発見し、政策へと昇華する「住民の幸福プロデューサー」型議員活動への変化を提唱されています。高度経済成長期ではない現在の議員が考えるべきことは、今の仕事は決して未来に合致するものではなく、誰を救い、誰を犠牲にするか決めることであるとして、全員が納得するビジョンは無い、と喝破されています。そのためにも議論は「誰の、何を、どう変えるか」を具体的に、明確にする必要があるとしています。

議会におけるデジタルデバイスの活用の目標は事務改善だけでなく、デジタル化の推進です。EBPMに基づいた議論や、議会情報の発信と住民のリアクションの可視化によって、利害関係を広く住民に公開しながら政策推進をする住民参加型の政策立案環境をつくることではないでしょうか。

 

プロフィール

桂川将典(かつらがわ・まさのり)

北名古屋市議会議員・Code for Nagoya 名誉代表

立命館大学卒業後にシステムエンジニアとして民間企業で情報セキュリティの改善業務に従事。その頃に知り合った最年少京都市会議員の働きぶりをボランティアとして間近に見て「自ら行動しなければ社会は変わらない」と思い至り、平成の大合併を機に帰郷し立候補。27歳で初当選し現在4期目。行財政改革、IT活用、英語教育分野に注力。

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