議会のデジタル化推進とデモクラシーの成長(2)

北名古屋市議会議員Code for Nagoya 名誉代表・桂川将典

(第1回の投稿はこちら

ツールの活用の方向性を探る

 試行期間中にはペーパーレス化だけでなく、A4サイズ資料が読みやすいか、画面サイズの確認、可搬性、通信方式、そしてグループウエアの利用などについて評価を行いました。

特に情報共有を行うに当たって、情報漏洩への対策は重視されました。議案等は公開原則の情報であり漏洩は問題ないけれども、タブレットの活用と多目的化のために情報漏洩対策は必要でした。この点でタブレット端末は、サンドボックス化されたアップルの基本ソフト「iOS」を採用しました。製品のサポート期間が長いことも利点です。また、不適切なコンテンツの閲覧やフィッシング対策のためウェブには通信フィルターを施してログを取ることのほか、遠隔操作できる端末管理システムを導入することとしました。

試用期間と並行して、201710月には北名古屋市議会ICT推進基本計画をまとめました。議会基本条例に定めた「市民の声を反映し、親しまれる開かれた市議会」に向けて、市民への情報発信や市民の多様な意見を把握するとともに、効率的で迅速な議会運営、議会の活性化、緊急時における情報交換などにICT技術を積極的に活用することを明確にしています。計画に基づいて2018年度のタブレット導入で、議案書や各種通知をペーパーレス化する(ただし1年間は紙も併用する)と決定しました。計画に基づいて現在も、議会の災害対応(BCP=事業継続計画)にICT活用を組み込めないか調査が続けられています。

議会のタブレット端末を市当局の情報セキュリティーポリシーにそのまま当てはめると端末持ち出しの管理規定に抵触するため、議会タブレットは別のポリシーにて管理することとしました。具体的には「端末使用基準」を作成しています。この基準策定に当たって、二つの課題が見つかりました。一つは「議会タブレットの私的利用」の可否、もう一つが「私物端末の業務利用・BYODBring Your Own Device)」です。

議会BYOD〜デジタルデバイスの活用

 タブレットを使う機会を制限すると議会のためだけのデバイスになってしまい、活用に支障が出ると営業マンから示唆がありました。個々の議員がブログやフェイスブックなどSNSに、議会活動だけでなく政党活動や選挙活動について投稿することを認めることが利用促進に繋がる、とのことでした。

このような意見を軸にして、オブザーバーと議会事務局で議論を行い、私的利用を通じて「タブレットでできること」を体験的に知ることが将来、多目的に活用するため必要だと結論を出しました。

ICT導入は、一律で行わなければ事務局の手間が増えて意味がありません。そのため、タブレットの導入を議員個々の事情に左右されずに実施するためには費用は私費や政務活動費ではなく、全額公費負担で行うのがいい、というアドバイスもありました。

タブレット導入初期費用は全額公費負担で、という合意は検討会の全会一致ですぐに得られました。

しかし、月次の通信費については紛糾することになりました。アドバイザー原案は一律導入のため公費負担、ということで提出したのですが、私的利用を認める以上、全額公費はおかしいのではないか、との反対意見が一部議員から出ました。他市町村の事例では、政務活動費による充当が大多数で、あとは公費。私費は皆無です。アドバイザーとしては、ここである程度の納得を取り付ける結論を捻り出すしかありません。その日はいったん持ち帰って、何とか落としどころを考えることとしました。

北名古屋市の政務活動費の規定では「選挙活動・政党活動・後援会活動・私的活動」への支出が不適切として禁止されています。そのためタブレットの通信費に政務活動費を充当した場合、タブレットからブログやSNSに議員の活動などを投稿すると、規定に抵触し得る可能性があると考えました。政務活動費をめぐる裁判の判例を参考にすると、規定を緩めることはできません。選択肢は公費と私費しかありません。検討会などで何度か意見調整を行い、各議員の意見を聞きながら、私費負担は月額通信料の4分の1程度と決定しました。

議会タブレットに配信される議会関係の行政からの情報は、議会関係の書類と通知です。従って公開しても支障のない情報です。カレンダーやメッセージを私物のスマートフォンなどで利用できるようにすると、利便性は格段に向上します。スマホなら常時携帯していますから、即応性もあります。議会タブレット導入と同時に、メッセージとスケジュールは個人の携帯機器を職場に持ち込むBYODでの利用が可能なものとしました。

選定の過程で、グループウエアについても試行・評価し、GoogleG Suiteを採用しました。利用者も多くUI(ユーザーインターフェース)も分かりやすいほか、私有のスマホやパソコンからも活用しやすいからです。ドキュメント共有やチャット、テレビ会議などがアプリで提供されており、Google Cloud Platformによる独自の機能作成も可能で、将来的な活用をしやすい点を評価しました。

議会関係の行事はともかく、大きくて重いA4タブレットをプライベートでも常時持ち歩くのは大変です。BYODによって、いつでもカレンダーを参照したり、事務局からの連絡を確認したりすることが可能になりました。スマホを利用している各議員からは、便利になったと大変好評です。

(第3回に続く)

プロフィール

桂川将典(かつらがわ・まさのり)

北名古屋市議会議員・Code for Nagoya 名誉代表

立命館大学卒業後にシステムエンジニアとして民間企業で情報セキュリティの改善業務に従事。その頃に知り合った最年少京都市会議員の働きぶりをボランティアとして間近に見て「自ら行動しなければ社会は変わらない」と思い至り、平成の大合併を機に帰郷し立候補。27歳で初当選し現在4期目。行財政改革、IT活用、英語教育分野に注力。

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