地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(3)


株式会社パブリッククロス 代表取締役
元大津市議会議員・藤井哲也

地方自治体における就職氷河期世代支援の進め方(記事一覧)
Ⅰ.就職氷河期世代支援の概要
    第1回 就職氷河期世代が生まれた社会背景
    第2回 就職氷河期世代支援に向けた動き
    第3回 就職氷河期世代の職員採用をめぐる取り組み
    第4回 就職氷河期世代支援プログラムの概要
Ⅱ.就職氷河期世代支援の問題点整理
    第5回 就職氷河期世代を活用することによって得られるメリット/就職氷河期世代支援・官民連携の取り組み
    第6回 先行モデル地域の取り組み
    第7回 施策推進における課題
Ⅲ.政策提言
    第8回 政策提言/コラム「越境的学習の効果は?」/支援事業者へのインタビュー


就職氷河期世代。一般的に1993年から2004年に学校を卒業して社会に出た世代のことを言います。昨年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2019」(いわゆる「骨太の方針」)で、この世代に対する集中的な支援の必要性が論じられて以降、にわかに国、地方で動きが活発になってきました。なぜ今、この問題がクローズアップされてきたのかを見ていきます。第1回第2回はこちら)

Ⅰ.就職氷河期世代支援の概要

4.就職氷河期世代の職員採用をめぐる取り組み

本年4月からの本格的な支援に先行する形で、当該世代の職員採用や、官民連携事業をモデル的に実施する自治体もすでに見られます。

中でも昨年7月に全国の自治体に先駆けて就職氷河期世代(36〜45歳に限定)の職員採用を行うことを表明し、本年1月に任用した兵庫県宝塚市は有名となりました。3人の一般行政職採用枠に対して全国から1800人を超える応募があり、1635人が受験、最終的に4人が採用されることになりました。倍率は408倍。なかなか狭き門ですが、就職氷河期世代を採用する自治体の先鞭をつけた点で、大変意義ある取り組みです。

任用後は適性や経験、能力を見極めて配属を決定し既存の俸給制度の中で、それぞれの職場で活躍されているとのことです。なお、厚労省や内閣官房のほか、全国の都道府県、市町村で就職氷河期世代採用は進められており、総務省ホームページの「地方公共団体における就職氷河期世代支援を目的とした職員採用試験の実施状況」で、現在募集している自治体などを確認できます。

しかし、課題が全くないとも言い切れません。実際、宝塚市議会でもさまざまな意見が出されたといいます。主な論点としては、年齢を区切って採用することの是非のほかに、職員定数管理に与える影響や、情意的・情緒的な選考になることへの懸念などが挙げられます。

宝塚市議会の昨年9月の一般質問で就職氷河期世代の採用に関して理解を示しつつ、その課題を取り上げた寺本さなえ市議は、取材に対して、「市には既存の職員育成計画があるわけで、就職氷河期世代を採用することによって、本来採用すべき土木技術職や福祉の有資格者の採用に与える影響も、考慮されなければならない。また、あくまで能力や経験を評価して採用すべきで、苦労談比べの採用になってしまって明確な基準がない中での選考になってしまうとするなら問題がある。障害者雇用は法定に基づくもので十分市民にも理解が得られると思われるが、氷河期に絞った採用はアファーマティブアクション(積極的な差別是正措置)であったとしても、一定の合理性が必要になると考える。もともと不本意非正規(臨時職員)で働き続けている職員もいるので、そういった方を優先的に採用してもよいのではないだろうか」と、自治体における就職氷河期世代の職員採用の課題点を挙げられました。

宝塚市人材育成課にもお話を伺ったところ、「市長が就職氷河期世代に対して社会的な問題意識を持っていたことから始めた取り組みです。結果的に今年は4人しか採用できませんでしたが、今後の就職氷河期世代の活躍につなげていきたいと考えています。また今後は専門職や技術職にも広げていくことや、対象年齢をどうするかなど検討課題も多くあります。46歳の方から応募対象でないことに関して、ご意見を頂戴することもありました」と、おっしゃっていました。

今後、就職氷河期世代支援を民間企業や経済団体にも働き掛けていくためには、行政自らが範を示すためにも、当該世代の職員採用を進めることが求められるかもしれません。そうした場合、庁内の中長期的な職員採用や育成計画との兼ね合いや、市民や議会の理解が得られる選考基準づくりが必要になってくると考えられます。

第4回に続く)

筆者プロフィール

藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリッククロス代表取締役。2003年の創業以来、若年層・就職氷河期世代の就労支援に従事。2011年より大津市議会議員(滋賀県)を2期務め、地域の雇用労政や産業振興に注力して活動。株式会社ミクシィの社長室渉外担当など歴任。著書・寄稿に「就職氷河期世代の非正規ミドルを戦力化する 人事実務、マネジメント」(2019年)など多数。京都大公共政策大学院修了。1978年生まれ。

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