アフターコロナ深圳レポート(4)~中国の社会課題を解決する先進テクノロジーの数々~

日本の隣国であり、長く相互交流を続けてきた中国。今回の新型コロナウィルス騒動は武漢が発生源と考えられています。中国は今回の騒動においては最初の被害国であり、結果として社会全体の潮流や方向性に大きな影響を与えることになりました。

その中で近年注目を浴びてきた中国のイノベーションがいかに国際社会に影響を与えるに至ったかをレポートさせていただきます。

FIND ASIA華南地区責任者
スタートアップサラダ(Startup Salad)日本市場オーガナイザー

加藤 勇樹(余樹)

異なるビジネスモデル/技術と日中共通の課題

皆様ご存知の通り、ウィルス感染防止のためには、対人接触の適切な管理が必要です。在宅勤務や小中学校の休校などの多くの措置が取られていますが、小売業での人員確保や、配送サービスなど、人間がかかわらざる得ない社会インフラはまだまだ存在している状況です。無人化や省力化という問題は一時的なものではないといえるのではないでしょうか?

刻々と迫る中国の高齢化社会、FIND ASIAが各種統計を基に作成

今後日本が直面する人口減少社会では、社会全体を維持するために人的資源の有効活用が求められます。中国においても少子高齢化社会の突入が間近に控えております。

では近年ハイテク分野で注目を浴びた中国では、人的資源の課題をどのような対応したのでしょうか? 再度注目を集めた中国テクノロジーという観点から今回お話をさせていただきます。

社会全体での実験と取り捨て

無人店舗ビジネスいわゆる無人コンビニや、高精度な顔認証技術。こうした中国の先進テクノロジーを、皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか? 深圳のみならず、中国全土で実験的なテクノロジーやビジネスモデルが、2010年代の後半を中心に日々生まれては消えを繰り返してきました。、また、新型コロナウィルス騒動をきっかけに徐々にメディアで取り上げられる機会も減りました。

無人店舗ビジネスの中で最も注目度の高かった無人コンビニは、その中でも花形だったといえるでしょう。無人コンビニについては「Amazon Go」などの先例がありましたが、中国市場での浸透に関しては、物流の収集センターを小売店として転用し始めたのがきっかけの1つです。広州市の「イージーゴー(EasyGo)」というブランドでは、生鮮食品などの通販事業を行っていましたが、荷物の配送先に雑貨などの小規模な販売スペースを設けたのちに、徐々に小売業へ注力し、最終的には販売スペースを無人化した無人コンビニを事業化しました。

中国では他業種への転換が日常的にみられるが、無人コンビニもその一例。每日观察0092より引用のイージーゴー(EasyGo)初期店舗

実用化後の道のりは厳しいものでした。2017年には26社から大型投資を受けていましたが、2019年に案件数は7社まで減少し、投資額も17年〜 19年で10分の1まで減少しました。これには様々な原因が挙げられますが、消費者の使い勝手の悪さや、ずさんな店舗運営や未発達な技術が導いたといえるでしょう。 

2020年には中国から無人店舗ビジネスが消滅するのではないかと、私は予想しておりました。根幹を同じくする、コミュニケーションロボットなどについても、多くの店舗では整備不良や使用不備などによって、稼働率は低い状況が見受けられていたからです。

画像認識については、日本のみなさんの予想をはるかに超えて中国国内では広く導入が進んでおります。顔認証が主として日本では広く認知されていますが、すでに中国では顔以外にも「後ろ姿」や「歩く際の動作」から個人を特定する技術が開発されています。進歩した画像認識技術は社会全体でもすでに導入されており、容疑者の追跡や失踪者の捜索といった分野のみならず、都市の交通量の測定や各種事故の測定にも利用されています。

香港発の有力な画像認識開発企業、センスタイム。多くの企業に技術提供を行っている。量子位より引用

 

かつて日本で大きく注目を浴びた無人店舗ビジネスと画像認識のそれぞれのテクノロジーとビジネスモデルですが、その後の発展の道筋は大きく異なることになりました。

応用とその発展

今回の新型コロナウィルス騒動後においては、社会全体での課題解決のために、従来のビジネスモデルやテクノロジーも新たな発展や転換が求められていました。

窮地に立たされていた無人店舗ビジネスは、今回の騒動の中、中国においても再度注目を浴びることになった実例に挙げられます。従来の論調では無人管理形態のため会計上の不便さや盗難などの課題を多く抱えていました。それが今回対人接触を最低限にするという観点から、感染の恐れがなく利用できるのではないかという論調に切り替わりつつあります。

廃止が決まった無人店舗ビジネスの運用再開や、有人店舗の一部無人化という方針が取られはじめており、ビジネスモデルの再模索といえるのではないでしょうか? ティー専門店「奈雪の茶」やコーヒーチェーン「Luckin Coffee(ラッキンコーヒー)」の無人受け取りスペースや、各物流会社の無人化配送BOX再配置など、コストと運営を意識した解決策が取られています。

奈雪の茶の受け取りコーナー、人間がお茶を作っているのは変わらないが、注文から受け取りまで一切人的な接触はない

また、無人化という点ではドローンによる消毒液の散布や、病院内での配送ロボットをはじめ、多くの導入例が挙げられます。今後もコミュニケーションロボットの開発企業や、空撮用ドローン開発企業などによる、新規参入が続いていくことでしょう。無人化部門における技術の個別導入やハードウェア開発企業による新規参入など、多方面で無人化テクノロジーは注目が必要です。

武漢で実際に配備された無人配送車、病院や各団地などの無人で食料などを届けており、百度の無人運転技術を流用している 汽场汽车から引用

 

画像認識についても、今回のウィルス騒動中に進化や技術応用が見受けられました。画像から感染者を追跡する技術や、体温検知機能の追加による感染者の識別技術などです。隔離が不十分だったり人員不足だったりする地域においては、画像追跡技術で課題の解決に効果を発揮しています。日本では個人情報保護の観点から導入が難しいのが現状ですが、成功例から学ぶ良い機会ではないでしょうか?

赤外線探知機能による体温測定と、マスク越しでの顔認証機能の拡充。科技爱好者小王から引用

日本社会でいかに技術革新/ビジネスモデルをとらえるか

日本では多くの中国テクノロジーやビジネスモデルが紹介されてきましたが、中国国内では3年の間にその多くが姿を消していきました。その一方でウィルス騒動という未曽有の危機によって、再評価される技術や事例も出てきています。今後も社会の変化によって、紹介できる事例は変わることが予想できます。いかに日本の社会変化に応用できるかという参考事例を紹介したいと思います。


筆者プロフィール
加藤 勇樹(余樹)
FIND ASIA華南地区責任者 、スタートアップサラダ(Startup Salad)日本市場オーガナイザー
2015年より「FIND ASIA」にて、広州・深セン・香港で人材紹介‐企業へのコンサルタントサービスを展開。17年よりFIND ASIAにて中国・大湾区の動向や、イノベーションアクセラレーター「スタートアップサラダ‐Startup Salad」との協業で活躍中

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