eスポーツで高齢者の介護・認知症を予防~上田泰弘・熊本県美里町長インタビュー(2)~

熊本県美里町長 上田泰弘
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/01/13 eスポーツで高齢者の介護・認知症を予防~上田泰弘・熊本県美里町長インタビュー(1)~
2023/01/16 eスポーツで高齢者の介護・認知症を予防~上田泰弘・熊本県美里町長インタビュー(2)~
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2023/01/21 町の将来のために一致団結~上田泰弘・熊本県美里町長インタビュー(4)~

 

失敗を許せる組織に

小田 上田町長は職員の自発性を尊重しているように感じます。職員には、どのように働いてほしいと考えていますか?

上田町長 どの自治体にも言えることだと思いますが、今の公務員を取り巻く状況は厳しいですよね。少しでも失敗をすれば批判されたり、時には理不尽なことで追及されたりすることがあります。ですから少しでも仕事が楽しい、面白いと思えるようにしたいです。

町自体が有名になれば、そこで働く自尊心が出てくるでしょう。やりがいも生まれます。私が責任を取るので、職員には能力を生かせる分野で積極的に働いてほしいです。

 

小田 eスポーツの事業も、職員が構想を考えたとおっしゃっていましたね。(写真)

上田町長 私自身は先見の明をそれほど持っていないと思います。得意な職員に任せたら、あのような形になりました。

 

小田 職員の得意なことを生かしたアイデアや行動を信頼しているのですね。

上田町長 若い職員の中には、私に人をつなげてくれようとする者もいます。実際に外部の方を紹介されることがありますが、美里町のことを親身に考えてくださる方ばかりです。外部とのつながりという面でも、職員の力を頼りにしています。

(写真)高齢者の介護・認知症を予防と世代間交流を目的にした「eスポーツでいい里づくり事業」

 

小田 職員は「有名だから」ではなく、「町のことを考えてくれるから」という理由で、上田町長に外部人材を紹介されているのですね。

上田町長 知名度や肩書よりも、町のことを思ってくださるかどうかの方が大事です。美里町のことを深く理解してくれて、一緒に汗をかきながら進めようとしてくださる方とのつながりを大切にしています。実際に、そういう方は面白いアイデアを持って来てくれます。

 

小田 実際に取り組んでみて、花が咲かなかったものもあるのですか?

上田町長 もちろん、あります。

 

小田 その際に失敗を許せる組織であることが大切ですね。

上田町長 おっしゃる通りです。私が職員に対し、考えることや実行することを任せていますから、その中で起きた失敗の責任を取るのは私です。それは選挙で答えが出ます。私の取り組みでは町が良くならないと判断されたら落選しますし、期待を持っていただければ継続するでしょう。政治家とは、そういうものだと思っています。

 

小田 上田町長がそのようなスタンスであれば、職員には心理的安全性が築かれていると思います。組織づくりで工夫されていることはありますか?

上田町長 若手職員と交流する機会を意識的に設けています。新型コロナウイルスの流行前は、よく食事会を開いていました。最近は一緒に山登りもします。そういう場で、ざっくばらんに「こんなことをしたら面白いのではないか」などと会話し、職員の思いを吸い上げるようにしています。

そのときの会話がすべて政策につながるわけではありませんが、「意見を言いやすい環境」をつくることが重要だと思っています。

 

小田 山登りで職員とコミュニケーションを図るというのは面白いですね。

上田町長 最近は大分県の大船山に登りました。役場の職員と社会福祉協議会の職員、それから山登り友達の計4人で。1000mくらいの標高差を往復8時間かけて歩きました。次は企画情報課の有志が山登りをするらしいので、そこにも行こうと思っています。

 

小田 風通しの良い環境ですね。そんな中だからこそ、若手職員は情熱を込めて、自身が考える構想を語ることができるのでしょうね。

上田町長 未来のために投資しようとする意欲は大切にしたいです。そこにはルーチンワークにない、ワクワクする感覚が含まれると思います。理想の将来に向かって進んでいく楽しさとも言えます。以前の役場はそういう投資的な構想を言いづらい雰囲気でしたから、なおさら意見を言いやすい環境をつくることに注力しました。

 

誰の話にも耳を傾ける

小田 上田町長が庁内で職員と話す際は町長室に呼ぶのですか、それとも自ら出向くのですか?

上田町長 管理職は町長室に来てもらうこともありますが、基本的にはこちらから向かいます。

 

小田 自ら職員の元へ足を運ぶ首長は、珍しいのではないでしょうか?

上田町長 組織自体がコンパクトなので、こちらから職員の所へ行くのは自然な感覚です。ちなみに美里町は合併してできた町なので、庁舎が二つあります。町長室は本庁舎にありますが、1階に位置しています。常にドアを開けているので、町民も気軽に入って来られます。

 

小田 そこまでオープンなのは驚きです。職員とはもちろん、町民とも距離が近いのですね。

上田町長 基本的には誰でも、いつでもウエルカムの姿勢です。フィルターをかけないようにしています。もちろんクレームを言いに来られる人もいますが、きちんとお話を伺います。

 

小田 町長が率先してそういう姿勢を示すと、職員も同じようになっていきますね。

上田町長 聞く力と忍耐力は、特に若い職員に身に付けてほしいです。日々仕事をしていると、理不尽なことを言われることもあります。それをきちんと聞いて、のみ込むのです。今後、公務員にはもっと厳しい環境が訪れるのではないかと考えています。ですから、早いうちにそういった経験を積み、慣れていく方が良いと思います。

 

小田 未来を見据えてワクワクしながらも、仕事をする上での厳しさもきちんと味わう必要があるということですね。これからの公務員が、能力を発揮しながら働いていくためには何が大切だと思いますか?

上田町長 やはり、上長が責任を取るということは大事だと思います。これは2016年4月に起きた熊本地震の対応の際に強く感じました。

職員は若手も含めて総出で現場に向かい、対応に当たりました。そのとき、私は「責任はすべて私が持つから、現場の判断で良いと思ったことは許可を待たず、すぐに実行してほしい」と告げ、職員は実際にそのように動きました。その結果、早めに対応できたことが幾つもありました。

やはり誰が責任を持つかを明確にして仕事をすることと、いざというときは上長が責任を取る姿勢を示すことが、組織が一丸となって動くためには必要だと思います。

 

小田 「eスポーツでいい里づくり事業」というユニークな取り組みの裏側には、上田町長が日頃から職員とオープンで接し、「意見を言いやすい環境」づくりに注力する姿があったのですね。自発的な意見表明が肯定され、失敗を許す文化があれば、職員から出てくるアイデアは広がりを見せるでしょう。

次回からは、熊本地震の際に上田町長が発揮したリーダーシップなどについて、詳しく伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年11月28日号

 


【プロフィール】

熊本県美里町長・上田 泰弘(うえだ やすひろ)

1975年生まれ。福岡大卒。参院議員秘書を経て、2007年4月熊本県議選に初当選。12年11月同県美里町長選に初当選し、翌12月に第2代美里町長に就任。現在3期目。

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