共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生(4)

共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生
初回はイーデザイン損保の「安心安全な移動」

株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2020/11/09  共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生(1)
2020/11/24  共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生(2)
2020/11/26  共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生(3)
2020/12/01  共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生(4)
2020/12/03  共創をデザインする逆公募型プロポーザル、誕生(5)


企業が社会課題を設定し、それに対する政策的アプローチやアイデアを自治体に求め、最も優れた提案に対して寄付受納という仕組みで企業が自治体に資金を提供する──。それが逆公募型プロポーザル。本連載ここまでの3回では、現状の官民連携の問題点を整理し、私たちが逆公募型プロポーザルを思い付いた経緯をご紹介しました。今回からは、企業が今抱えている悩みに対して逆公募型プロポーザルはどういう解決アプローチが可能なのかを解説し、日本初の逆公募型プロポーザルに名乗りを上げた、イーデザイン損害保険株式会社のプロジェクトの詳細を伝えます。

企業がオープンイノベーションにかじを切るワケ

これまで何度か本コラムで述べてきたように、今、日本の行政は明らかにイノベーションが求められています。従来の方法では行政運営が難しくなっているからです。私たち株式会社Public dots & Companyが「『公共』を再定義する。」というミッションを掲げているのも同様の理由で、公共の担い手が従来は行政だけだったのが、これからは企業や市民など多様化していく、そのデザインが今始まろうとしています。逆公募型プロポーザルもその一環ですが、自治体と企業の共創をデザインするに当たって、企業側が抱えている課題についても整理しておく必要があります。それは「真の課題を見つけられない」という悩みです。

「えっ?」と思われる方もいると思います。四半期決算で、日々株主への説明が求められながら、事業計画を遂行していく企業。常に新しい価値提供をしていかないと、マーケットからは評価されない、そんな厳しい世界でビジネスを繰り広げるのが企業。そう考えている人にとっては、企業が真の課題を見つけられなくなっていると聞くと、意外に思うかもしれません。

しかし、よく考えると不思議ではありません。今の業績は過去に積み上げてきたイノベーションと、そこから生まれた信頼がベースになったものです。誤解を恐れずに言えば、過去の資産で食べているようなもの。それ自体は素晴らしいことですが、一方でここ数年の社会のデジタル化に伴ってルールチェンジャーが現れると、事業の根幹が一気に崩れるということが起きつつあります。

例えば、とても分かりやすいのが自動車で、車そのものよりも車を使ったサービスに価値の軸足が移ろうとしています。販売台数でわずか40万台弱の米テスラの時価総額が、1000万台を超えるトヨタ自動車よりも高いのは車そのものの価値よりも、車を通じて生み出されるサービスの方が価値が高いとマーケットが認識しているからです。トヨタが2020年のCES(世界最大の家電IT見本市)でスマートシティー「Woven City(ウーブン・シティ)」の開発を表明したのも、移動の手段としての車からサービスのプラットフォームとしての車へ変革しなければ、企業の存続すら脅かされる可能性があると判断したからに他なりません。

このように大企業であっても、会社の屋台骨を一気に失う恐れがあるのがデジタル社会の実相です。だからこそ、企業はこぞってオープンイノベーションの名の下、スタートアップや自治体などと連携し、次の成長のエンジンを模索するのです。

自治体の現場は宝の山

問題は、このオープンイノベーションが現状、うまく回っている事例がまだ少ないことです。原因は幾つかあるのですが、その一つが「真の社会課題を見つけにくくなっている」ことにあります。今、述べた車のサービス化はその代表的なケースで、つまるところ、サービスは現場そのものです。今まで車は「売って終わり」で、車を使って消費者がどんな生活を送り、どんな体験をしているのか、自動車メーカーは気にする必要もなかったわけです。しかしサービスを設計するには、「消費者の暮らしそのもの」を知らなければいけません。

ここに企業と自治体が共創する意義があります。企業はビジネスのスキーム(枠組み)を使って社会課題を解決するノウハウを持っています。意思決定からのスピード感は、自治体にとって非常に魅力的です。ただ、彼らは「真の社会課題」を把握するのが難しくなっています。ここを提供できるのが自治体です。自治体はビジネスの経験がなく、事業をつくり出して、それを回すことでスケール(規模拡大)させていくことはできませんが、現場を持っているからこそ肌感覚として、市民の暮らしや社会の変化を理解しています。

だからこそ、公益性を意識できる企業と自治体が良い形で出会い、コミュニケーションを重ねることができれば、両者の強みを活かし合うことで、社会に価値を創造できるのです。前号で述べたように包括連携協定や公募型プロポーザルはそのための手段ですが、いずれも一長一短があります。

そこで逆公募型プロポーザルです。企業が社会課題を設定し、それに対する政策的アプローチやアイデアを自治体に求め、最も優れた提案に対して寄付受納という仕組みで企業が自治体に資金を提供する。このスキームであれば、社会課題をハブにして、資金の出し手である企業と、課題に対するアプローチを考えられる自治体が出会えます。

この仕組みのいいところは、一つの社会課題に対して同じ問題意識を持つ自治体が複数集まる点にあります。しかも同じ課題に対して行政視点による、さまざまなアイデアが集まることで企業も事業開発の上で、たくさんのヒントが得られます。企業はビジネススキームと資金によって、物事をスケールさせる力を持っていますから、一つの自治体とやりとりするよりも、複数の自治体とリレーション(関係)を取りながら、課題にアプローチする方が得意です。また、自治体にとっても社会課題へのアプローチが必要なことは分かっていながら、財政的な理由から着手できないという悩みが解決されるメリットがあります。かつ、逆公募型プロポーザルに関心がある企業は基本的には公益性に対する理解も有する企業と言っていいでしょうから、自治体にとっては安心感もあります。それが逆公募型プロポーザルの特徴です。そのため、寄付受納という方法を採っています。

第5回につづく

※本件に関する詳細は、こちらのプレスリリースをご覧ください。

・イーデザイン損保によるプレスリリース

・Public dots & Companyのプレスリリース


プロフィール
伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

スポンサーエリア
おすすめの記事