「ピンチの常態化」は「チャンスの常態化」~髙橋大・秋田県横手市長インタビュー(3)~

秋田県横手市長 髙橋大
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/11/29 政治は結果がすべて、まちづくりは道半ば~髙橋大・秋田県横手市長インタビュー(1)~
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2023/12/05 「ピンチの常態化」は「チャンスの常態化」~髙橋大・秋田県横手市長インタビュー(3)~
2023/12/08 「ピンチの常態化」は「チャンスの常態化」~髙橋大・秋田県横手市長インタビュー(4)~

 


 

第1回第2回に引き続き、秋田県横手市の髙橋大市長のインタビューをお届けします(写真)。全国で深刻化する人口減少問題。特に秋田県はその影響を大きく受けています。今回は市のビジョンや取り組みについて、さらに深く掘り下げます。

押し寄せるデジタル化の波、止まらない東京への一極集中、これらに伴い地方が直面するピンチ、その半面として得るであろうチャンス……。こうした時代背景の中、地方都市は今後どのような役割を果たしていくべきなのか。そして、住民と共に新たな時代を迎えるための戦略とは何なのか。髙橋市長に伺います。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

「リアルの強み」を伸ばす

小田 新型コロナウイルス禍を機にデジタル化が進み、オンラインでのコミュニケーションが当たり前になったことで、必ずしも都市部にいなければ仕事ができない、都市部に行かなければ会いたい人に会えないということがなくなりました。こうした社会の変化は地方都市にとって、チャンスになり得るのではないかと思いますが、髙橋市長はどうお考えですか?

髙橋市長 われわれもデジタルの力をしっかりと活用しています。しかし、もはやどの自治体も使っているでしょうから、そこで優位性を勝ち取れるとは思っていません。時代の変化に乗り遅れず、付いていくのが基本だと考えています。

個人的には「リアル」に触れる機会が相対的に減ったことで、アンバランスが生じているのではないかと考えています。東京に限らず、横手の人たちもそうですが、常にスマートフォンを見ています。外出先や移動中も現実の社会にいるのではなく、画面越しの、デジタルのフィルターがかかった先の社会と対面しています。

それを否定するわけではありませんが、自然界の生き物の在り方としては、やや不自然ではないかと思います。デジタルでは味わえない「リアル」に触れることの価値を、都会の人たちも地方の人たちも気付く時代が来ることを願っています。

 

小田 地方が有する豊かな自然や伝統文化は、「リアル」に触れるという意味では大きな価値になると思います。

髙橋市長 おっしゃる通りです。やはり実際に物に触ったり、匂いを嗅いだりするような「現実空間での価値」が今後は高まっていくと思います。海水浴や森林浴など、一昔前は当たり前だった体験が、デジタル社会に生まれた人、あるいは埋もれた人たちにとってのニーズとなるでしょう。

そういう意味では、横手市には四季折々の自然や食べ物、祭りなど「リアル」がたくさんあります。まさにそれらは強みとなります。

 

小田 今後は「リアルの価値」を地方間で競い合うような流れができてくるかと思います。横手市の「リアルの強み」について、どのように伸ばしていこうと考えていますか?

髙橋市長 もう少し大きな「日本人」という枠組みでお話しすると、これからの日本は「ものづくりの才能」を再認識するステージに入ってくると思っています。時代をさかのぼってみても、日本人はものづくりについて、際立ったこだわりや技術を発揮しています。こつこつとひたむきに物事に打ち込む真面目さは日本人の武器です。そういう気質が社会の原点として備わっていますから、強みと捉えて伸ばすべきです。

横手市は自然や文化といった観光的な側面はもちろん、農業を基幹産業として大切に守り続けてきました。最近は自動車産業の集積も進めているため、日本人の特性を生かす環境が整いつつあります。強みは原点回帰で伸ばしていこうと考えています。

 

小田 髙橋市長は自動車産業をはじめとする製造業の誘致を進め、就任後の10年間で15社の誘致に成功しました。先見の明ですね。

髙橋市長 どちらかといえば、先見の明というよりも「追い付こう」としています。秋田県全体の傾向として、これまで工業系の企業誘致があまり進みませんでした。農地を工業用地にすることに否定的だったからです。もちろん基幹産業である農業は大切ですが、産業全体を成長させるためには工業の力も借りる必要があります。ですから、今やらなければと危機感を持って取り組んできました。

 

写真)髙橋市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

「複合農業」日本一を目指して

小田 農林水産省が公表している「市町村別農業産出額(推計)」(最新は2021年)を見ると、秋田県内では横手市が8年連続でトップです。付加価値の高い作物を生産しているのですか?

髙橋市長 栽培する作物は多岐にわたります。品目別に見ると、米の産出額の割合が最も高いですが、果物や野菜なども満遍なく作っています。春はサクランボ、夏はスイカ、晩夏から秋にかけてはブドウ、桃、サトイモ、リンゴと、冬の手前までは途切れることなく何かを作り続けています。

また転作作物として、ホップやソバの栽培も進んでいます。近年では、ホウレンソウや菌床シイタケなどの施設栽培や園芸作物の団地化も進みつつあり、生産拡大が期待されています。

12月から4月までは雪で農地が埋もれて使えなくなるので、農家の皆さんにはそれ以外の期間に頑張っていただき、限られた時間の中でもしっかりと収入が得られるよう支援しています。

 

小田 将来的にどのような農業の姿を目指しているのですか?

髙橋市長 市民の皆さんには「複合農業で日本一を目指そう」と呼び掛けています。

16年度からの10年間を対象期間とする第2次農業振興計画では「魅力ある地域資源を活用し、人を呼び、仕事を生み出す産業の振興を図ります」を基本目標に、「人を育て、農林業で生き残れる道を開こう」を基本テーマに掲げ、市民の皆さんに今よりも意欲的に農林業に取り組んでいただく姿を目指しています。具体的には五つの柱で施策を展開します。

第一の柱は「経営能力に優れた多様な経営体の育成」です。次の世代を担う農業後継者の発掘と育成を行うとともに、U・J・Iターンなどによる新規就農者の確保を目指します。また、農業経営体の経営力強化につながる事業や制度を活用し、認定農業者や集落営農組織など、地域の農地を将来にわたって効率的・安定的に利用する担い手経営体の育成を支援します。

第二の柱は「生産力強化に向けた基盤の整備」です。意欲のある担い手経営体が農地面積を拡大できるよう、農地の所有や借り入れ、農作業の受託などを推進します。同時に、優良農地の確保や耕作放棄地の対策も進めていきます。このような農業生産基盤の整備により、農産物の生産性と収益性の向上を目指します。

 

第三の柱は「地域の特性を活かした農業の推進」です。恵まれた自然環境を生かした農業はこれまで通りに推進しながらも、雪に強い農業の体制づくりを支援し、通年型農業モデルの確立を図ります。持続可能性も考慮しながら環境に優しく、将来に自信を持って引き継げる農業の実現を目指します。また、市民の皆さんが地場の農産物に対する意識を高めていけるよう、食の安心・安全に関する啓蒙や地産地消の普及、食育も進めていきます。

第四の柱は「農産物のブランド化と産地づくりの推進」です。市の農産物のブランド化を推進し、地域資源を活用した6次産業化への取り組みを支援します。新たな品目や品種の導入も促し、全体的に農産物の販売力を強化していきます。

第五の柱は「農林業・農村の多面的機能の発揮」です。交付金などを活用しながら、農村や中山間地域の農地と農業生産体制を維持しつつ、地域資源を生かしたグリーンツーリズムや都市住民との交流を促し、農村の活性化を図ります。また森林の整備を通じ、森林資源の多面的な活用や木材の利活用を推進します。

人口減少や自然災害、国際情勢などで、先を見通すことがますます難しい時代になっていますが、その現状を見据えた上での計画です。

 

小田 工業と農業の両面で市の産業を支えようとするお考えがよく理解できました。基幹産業である農業に関しては複合化を進め、リスクを分散しているのですね。

髙橋市長 はい。ものづくりや農業のような「リアル」は横手市の強みですから、安定的にまちを支えられるよう、両立てで推進しています。

市の米の自給率を目算すると、重量ベースで1000%をはるかに超えます。極端な話ですが、都市封鎖されても1~2年は自活できるでしょう。こうした見えない安心感が横手の産業にはあります。

一方で、デジタル活用も遅れているわけではありません。国はデジタル田園都市国家構想を推進していますが、基幹産業を農業とするわれわれは「リアル」な田園都市でもあります。ですから私は、市民の皆さんには「横手はリアルとデジタルのハイブリッドの田園都市だ」と伝えています。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年10月30日号

 


【プロフィール】

秋田県横手市長・髙橋 大(たかはし だい)

1976年生まれ。秋田県十文字町(現・横手市)出身。秋田経済法科大(現ノースアジア大)経卒。東京の商事会社勤務、十文字町議、横手市議を経て、2013年10月横手市長に初当選し、現在3期目。

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