児童虐待防止のために自治体ができる子育て支援とは (後編)

関東若手市議会議員の会 児童虐待防止プロジェクトチーム
東京都目黒区議・田添麻友

 

2022/02/28  児童虐待防止のために自治体ができる子育て支援とは (前編)
2022/03/03  児童虐待防止のために自治体ができる子育て支援とは (後編)

キーワードは「長期間」「丸ごと」

虐待を取り締まるという発想で、私たちができることはそう多くありません。しかし虐待を生まない社会、子育て環境を整えていくことに関しては、私たちができることはたくさんあります。

幾つか紹介します。

どの自治体も「子育て支援」を実施していると思いますが、子育て支援をもう一歩進め、母子保健や障害支援、多胎児、親の生活困窮など、子どもや家庭の状態を長期間、また丸ごと支える必要があります。

 

例えば、厚生労働省の「平成29年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 多胎育児家庭の虐待リスクと家庭訪問型支援の効果等に関する調査研究」によると、多胎児家庭は単体児家庭に比べ、虐待死の発生頻度が2.5〜4.0倍高いとされています。

私も、多胎児を育てている母親からお話を伺ったことがあります。単体児であっても、子どもが1歳になるまではゆっくり寝ることができず、トイレに行くこともままなりませんが、多胎児は単純に考えてもその2倍の大変さがあります。

「双子で喜びが2倍ね」といった言葉を掛けられることもありますが、家庭にとってはあらゆる費用が想定の2倍となり、一度に押し寄せてきます。

 

育児の焦りと不安も多胎児となれば2倍以上です。今までも多胎児はいました。しかし、その支援については単体児向けの事業に追加する形で、多胎児向けの条件を設ける程度だったのではないでしょうか。

虐待リスクを考慮すれば、もっと積極的に支援対象とするべきでしょう。

 

本書で、2人の子どもを育てる議員が「孤独な子育て」について記述しています。彼女は、単体児であっても虐待リスクが高まるときがあったと振り返っています。

里帰り出産、また子どもが幼いときの引っ越しは、それらがリスクになるとは思えませんでしたが、実際には心身共に極限状態に至ったことがあるとしています。

 

子どもの状態だけでなく、母親や家庭の状態も把握し、妊娠期から子育てまで切れ目なく支援するフィンランドの「ネウボラ」について、本書(写真)で取り上げました。

父親の育児休業や育児参画が社会的に求められて久しいですが、実態はまだまだ母親の負担が大きいのが現状です。ネウボラでは家庭全体のケアを行っており、子どもを育てる親にも目配りしている点に特長があります。

 

子どもの虐待はなくせる!

(写真)田添議員が所属する関東若手市議会議員の会 児童虐待防止プロジェクトチームが出版した書籍

 

虐待に至りやすい構造

家庭全体のケアという概念は、子どもについて考える上で親の状況や状態を知ることは欠かせないので、非常に重要だと考えます。

例えば家庭に余裕がなく、上の子が幼いきょうだいの世話をしたり、祖父母や障害を持つきょうだいの介護をしたりすることがあります。

現在はヤングケアラー(若年介護者)という言葉が浸透してきましたが、親が家庭の問題に対処する余裕がないと、子どもにしわ寄せがいきます。

 

厚労省の「令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」によると、全国の中学2年生約5500人、全日制の高校2年生約7000人を対象に行ったアンケート調査で、世話をしている家族がいると答えた中学2年生が約6%、高校2年生が約4%いました。

学校関係者は、提出物を出さない、授業中に寝ている、あまり登校しないといった傾向にある子どもの背景に、家庭でケアラーの役割を担っているかもしれないという想像力を働かせてほしいと思います。

 

また、新型コロナウイルス禍で顕在化した問題として、ひとり親家庭、特にシングルマザーの置かれている状況があります。

児童扶養手当を受け取っている世帯は、要件となる所得制限以下になるよう、勤務時間などをセーブしているケースが多くあります。

私のところにも、その金額を上回ってしまったが、どうしたらいいかという相談が寄せられたことがあります。しかし、勤務時間などをセーブできる仕事というのは非正規の職が多く、職を失いやすいだけでなく、その後のキャリアにつながりません。

 

子どもの成長とともに、児童扶養手当や就学援助だけではカバーできない子育て費用が増えてきます。

金銭的な余裕のなさは子どもたちの選択肢を奪うだけでなく、親の精神的な焦りも引き起こし、それが子どもたちへの虐待となって表れることもあります。

親を責めないでほしい

ここまで、子育てや家庭のことについて話してきましたが、読者の中には「親がしっかりすればいいのではないか」と思われた方もいるかもしれません。

「子育てが大変なんて甘ったれている」「親がしっかり家族の面倒を見るものだ」と。さらに言えば、「子どもを虐待する親が悪い」と思われるかもしれません。

 

しかし、私たちが至った結論は「親を責めても解決しない」ということです。

目黒虐待死事件では父親を責める意見、また母親は何をしていたんだという怒りの声をたびたび耳にしました。憤る気持ちは分かりますが、それで何が変わるのでしょうか。

虐待は親が子育てできない、助けられるべき状態なのに助けてほしいと言えない、そんなときに出てしまう「SOS」のサインだと考えます。

もちろん一部には、そうでない事例があることも確かです。しかし大半は親が健康を損ねていたり、経済的に厳しい状況にあったり、また社会的に孤立していたり、それらが複雑に絡み合っていたりする状況から発生しています。

性教育の可能性

私たちは、性教育についても政策提言しています。

保健体育の授業で習ったことを思い出す方もいらっしゃるかと思いますが、もっと広い概念です。一人ひとりが大事な存在であるという人権教育と言った方が、理解が早いかもしれません。

 

まず、直接的な虐待防止の効果です。

現在では「予期せぬ妊娠」という言葉が使われますが、自分が妊娠すると思っておらず、誰にも相談できずに産んでしまったけれども、育てることができないために遺棄するという事件が後を絶ちません。

そもそも、どうしたら妊娠するのか、妊娠したかもしれないときにどこへ相談したらいいのか、中絶できないときにどんな選択肢があるのか。それらを知らずに妊娠する人たちがいます。

 

また、間接的な効果が期待できるものとして、大阪市立生野南小学校の取り組みは非常に興味深いです。

「ブラックハート/レッドハート」という考え方を取り入れたものです。本書にも登場する社会福祉士の辻由起子さんが紹介してくれました。辻さんは大阪を拠点に長年、DV(家庭内暴力)被害者やシングルマザーらの支援に携わってきた方です。

 

具体的には、自分が嫌だなと思ったら「ブラックハート」がたまっている状態です。

では、その「ブラックハート」とは何か、自分の中に今「ブラックハート」が幾つあるのか、そして「ブラックハート」が減り、自分がいいなと思える「レッドハート」が増えるのはどういうときなのかを、児童に考えさせる授業を行っているそうです。

 

自分の好きなことや嫌いなこと、機嫌が良いとき悪いとき、体の調子が良いとき悪いとき。これらは言語化しなければ把握できない上、伝えられなければ嫌なことをする相手にその気持ちを分かってもらえませんし、支援も受けられません。

私も視察に訪れましたが、自分の好きなことや嫌いなことを発言することで、例えばデートDVを受けたときに「嫌なことは嫌だ」と言えるようにすることなどは、将来のDV被害者・加害者を減らすことにつながるのではないかと思いました。

 

以上、本書の出版に至った私たちの思いや取り組みの概略を紹介しましたが、読者の皆さんに少しでも参考になるところがあれば幸いです。

 

私を除く児童虐待防止PT内書籍PTのメンバーは、以下の通りです(敬称略)。

東京都議(昭島市) 内山真吾/東京都品川区議 横山ゆかり/同中野区議 石坂わたる/同杉並区議 松本みつひろ/同町田市議 東友美、矢口まゆ/同多摩市議 遠藤ちひろ/神奈川県大和市議 町田れいじ/群馬県伊勢崎市議 小暮笑鯉子/愛知県豊橋市議 古池もも

 

(おわり)


【プロフィール】

田添 麻友(たぞえ・まゆ)
関東若手市議会議員の会 児童虐待防止プロジェクトチーム/東京都目黒区議

東京都目黒区生まれ。大学卒業後、専門商社に2年勤務し、ベンチャー系経営コンサルティング会社に転職。3児の母となり、待機児童問題に直面。高校生の時から環境問題などを解決したいという思いもあり、2015年目黒区議選に無所属で立候補し初当選。現在2期目。

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