教育格差を解消、塾に頼らない社会へ(前編)

東京都議 伊藤悠

 

2022/03/14 教育格差を解消、塾に頼らない社会へ〜「大学に行かなくてもいい」という選択肢を東京からつくる〜(前編)
2022/03/17 教育格差を解消、塾に頼らない社会へ〜「大学に行かなくてもいい」という選択肢を東京からつくる〜(後編)


 

1976年、東京・三軒茶屋の共働き夫婦の一人っ子として、私は生まれました。

いわゆる団塊ジュニア世代で、「塾の申し子」と言えるほど、進学塾の恩恵に預かって大学を卒業することができました。

私が塾に行けたのは、世帯収入などの面で恵まれた環境にあったことは間違いありません。通っていた東京都世田谷区の区立中学校では、家庭によって学習環境の格差が鮮明でした。

学校は、テレビドラマ「スクール・ウォーズ」を再現したように荒れていました。

窓ガラスは割られ、代わりに段ボールが貼ってあるような状況でしたから、学級は崩壊どころか、そもそも成立しておらず、教師が生徒の暴力におびえて登校拒否を起こす状態に陥っていました。

 

未来が暗ければ、生徒は荒れる

なぜ、そんなに荒れていたのでしょうか。今考えると、原因は二つあると思います。一つは「時代」です。当時はとにかく「不良」が横行し、その連鎖反応が生まれる時代でした。現在に置き換えて検証することが困難なほど、時代の影響が大きかったと思います。

しかし、もう一つの原因にこそ、私たちは着目すべきでしょう。それは、未来を決定付ける「教育の格差」です。当時は進学塾の業界が急激に拡大しており、中学生で、塾に行ける子と行けない子の格差が明確になっていたのです。

学校の教育機能が損なわれている状態だっただけに、この点は子どもたちに深刻な影を落としました。

「どうせ俺はろくな高校に行けない」。そうした失望感が自暴自棄な行動を引き起こしていたように感じます。

塾に行ける子と行けない子の分断が、30年前の中学校で起きていたのです。

 

東大生の親の平均年収は1000万円

そんな荒れた学校はもはや昔話だと割り切れればいいのですが、親の所得格差が子どもの教育格差につながっている事例は、確実に増えていると言えます。

ご存じの通り、東京大に通う学生の親の平均年収は1000万円を超えているという調査結果があります。年収の高い高学歴な親の子どもが東大生になっているケースもあるでしょうが、高収入の親だからこそ、子どもの教育費を負担でき、東大に合格させることができたと考えるのが妥当ではないでしょうか。

私立大に比べ授業料が安い国立大は高所得世帯の子どもであふれ、低所得世帯の子どもが授業料の高い私大の門をたたかざるを得ない状況になっているとも言えます。

 

「2.07」の壁

教育費問題の影響は、教育格差だけにとどまりません。東京都の小池百合子知事が掲げる出生率目標「2.07」の壁にもなっています。

国の調査によると、多くの夫婦が理想とする子どもの数がおおむね3人である一方、実際に欲しいのは概ね2人といわれています。

そうした乖離が生じる一番の理由は教育費です。1億総大卒時代とも言える社会情勢を背景に、教育費が3人目の子どもを持つ壁になっているのです。

 

1億総大卒は必要か?

日本の大学進学率は事実上、世界1位です。というのも、欧米の進学率が高いのは、社会に出てから大学に入り直す人が多く、そうしたケースがカウントされているからです。日本では高校から直接、または浪人して大学に進学する人が大半を占めます。

しかし、これほどまでに大卒者が増えながら、採用する側の企業の満足度が上がっているかといえば、いささか疑問です。私の周囲にいる経営者の中には「大卒者より、スキルを身に付けた高等専門学校卒業者の方が魅力的だ」と語り、実際に高専に赴いてリクルートを行っている人もいます。

2019年の都議会予算特別委員会で、私は所属する地域政党「都民ファーストの会」を代表し、次のような質疑を行いました(写真1)。

 

写真1 都議会予算特別委員会での質疑(出典:伊藤ゆう公式Webサイト)

写真1 都議会予算特別委員会での質疑(出典:伊藤ゆう公式Webサイト)

 

伊藤 教育費がどれくらい変わったかということを少しご紹介をしたいと思います。

1975年と2017年の国立大学授業料と大卒初任給の比較でございます。何と1975年当時の国立大学の授業料平均は3万6000円でございました。これは年間です。それから、今、2017年となって国立大学の授業料は幾らになったかというと、53万5800円でございます。

一方で、大卒初任給は当時約9万円、そして、今は20万6000円と。つまるところ、授業料は14倍になっていて、初任給は2倍ということであります。

 

一方で、都は、東京都立産業技術高等専門学校を有しております。

実は、都立産業技術高等専門学校というのは、大変面白い取り組みでございまして、まさにスキルを中学卒業段階から身に付けられる、いわば専門学校ということでございます。

この学校は、今もう本当に民間企業から引く手あまた。そして、一方で、授業料は年間23万4000円と、国立大学の半分以下でございます。また、授業料の納入が困難な場合は半額に免除するというような仕組みもございます。

企業は、専門技術を持った人に期待をしているというふうに思いますが、この高専の就職状況と企業の声を伺いたいと思います。

 

東京都総務局長 都立産業技術高等専門学校は、開校以来、首都東京の産業振興や課題解決に貢献する、ものづくりスペシャリストの育成を使命といたしまして、実践的技術者を輩出してまいりました。

都立高専への求人企業数は就職希望者数の10倍を超えておりまして、平成29(2017)年度は卒業生273名のうち、大学等へ進学する者を除けば173名が就職しており、主な就職先は製造業や情報通信業でございます。

卒業生が就職した企業からは、即戦力であり、就業に対してのモチベーションが高いとか、工学や技術の基礎的知識が身に付いているなど、技術者として働く上での基礎力を評価する声が寄せられております。

 

伊藤 今、お話のあったように、求人企業数は就職希望者数の10倍ですから、どれだけ多くの企業が今この高専の卒業生に対して期待を寄せているかの証しであります。ちなみに、この高専の中で機械システム工学コースを卒業した方の年収、その後、調査をされたそうでありますので、年収が出ています。

20歳から29歳の年収、何と400万円以上が6%、500万円以上600万円未満11%、つまり、年収400万円から600万円、20代にして取っている方々が17%もいらっしゃいます。ほかのコースでは、もっと高い年収を若くして取っていらっしゃる方も多数いらっしゃいました。これも一つの証左でありまして、この高専に集う多くの学生にとっては、まさにキャリアの道が開かれているわけでございます。

そういう意味では、今後とも、この高専については、ぜひフィールドを拡充していっていただきたいということを、これは要望をしておきたいというふうに思います。

 

以上の質疑からも、高専卒業生の未来が輝かしいのは明らかです。

 

(後編に続く)

 


【プロフィール】

伊藤 悠(いとう・ゆう)
東京都議

2003年東京都目黒区議選に最年少(26歳)で初当選。05年都議選に最年少(28歳)で初当選し、現在4期目。都議会新型コロナウイルス感染症対策特別委員会副委員長、地域政党「都民ファーストの会」代表代行、日本語学校「グランビジョン国際学院」代表。築地市場の豊洲移転の際には、所管する都議会経済・港湾委員会で委員長を務めた。

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