児童虐待防止のために自治体ができる子育て支援とは (前編)

関東若手市議会議員の会 児童虐待防止プロジェクトチーム
東京都目黒区議・田添麻友

 

2022/02/28  児童虐待防止のために自治体ができる子育て支援とは (前編)
2022/03/03  児童虐待防止のために自治体ができる子育て支援とは (後編)


 

「風化させないために」。この表現は被災地支援や大きな事故・事件が発生してから数年後に、当時の重大さを思い起こす際によく口にされます。東京都目黒区で2018年3月、船戸結愛ちゃん=当時(5)=が虐待死する事件が起きました。父親(正確には継父)は傷害や保護責任者遺棄致死などの罪に問われ、懲役13年の有罪判決が確定しました。母親も保護責任者遺棄致死罪に問われ、懲役8年となりました。

私たち「関東若手市議会議員の会」(通称・若市議)の児童虐待防止プロジェクトチーム(PT)は、この事件、そしてこれまでに発生した多くの児童虐待死事件を風化させてはいけないと考えています。どうしたら児童虐待をなくすことができるのかを調査・研究してきた私たちに、目黒虐待死事件は無力感を突き付けましたが、同時に児童虐待が社会で広く認識される契機となりました。

しかし、それによって社会が大きく変わった実感はまだなく、時間がたてば、その他の社会課題の中に埋もれてしまいがちです。どの地方自治体でも恐らく、あの事件が発生した18年は児童虐待に関する議会質問が多かったと思いますが、今はあまり取り上げられていないことでしょう。

 

そこで、私たちは「子どもの虐待はなくせる!」(けやき出版、2021年)という書籍(写真)を出版することにしました。私たちの活動を一冊の本にまとめ、広く自治体や議員の方々に私たちの思いを伝えるとともに、児童虐待が起きる原因や要因、そしてその解決策や予防策について、お届けしたいと考えたのです。

 

子どもの虐待はなくせる!
書籍の表紙(出典:関東若手市議会議員の会)

 

若市議は、市区町村議選に35歳以下で初当選した、現在45歳未満の議員で構成する超党派の会です。地域や党派を超えてさまざまな政策課題について勉強し、議論を交わし、各自治体の政策論議に生かしています。PTは児童虐待を防ぐために地方議員として何ができるのか、視察や調査・研究を行い、提言することを目的として、15年11月に活動を始めました。

本書は、PTのメンバーが児童虐待防止の最前線で奮闘されている民間の方々、東京都や児童相談所といった行政の方々、児童養護施設や自立援助ホーム、里親など児童養護に関わる方々、大学をはじめとする研究機関の方々、虐待被害の経験者の方々など、多くの皆さんからお話を伺い、それらを踏まえて議論した成果をまとめたものです。

虐待を生まない豊かな子育て環境をつくること、また本書をきっかけに児童虐待防止に向けた新たな議論が活発化することが、今回の出版プロジェクトの目的です。

虐待の被害児は声を上げられない

目黒区の事件は被害女児が5歳だったので、話すことができましたし、文字も書けました(書かされたという面もあります)。「もうおねがいゆるして おねがいします」。大学ノートに鉛筆書きされた「反省文」が見つかったことで、多くの人の心を動かしました。しかし、虐待死で最も多いのは0歳0カ月です(注)。彼ら彼女らは話せませんし、文字も書けません。

虐待死に至る前に児童相談所に保護され、児童養護施設で育った子どもたちもいます。彼ら彼女らは原則として18歳で退所するのですが、その後は一人で生きていかなくてはなりません。

 

また、虐待は家庭内で起きることから、しつけであると片付けられてしまうこともあります。虐待されているからといって、自宅から逃げ出すことはできません。逃げ出したとしても家出ということで、自宅に戻されるのが関の山です。そもそも逃げ出すという考えに至るのかというと、子どもにとってはその家庭が普通であるため、自分が虐待されていると気付くことが難しいのです。

 

本書の中で自身の虐待被害の経験をつづった議員は「家庭に問題があると客観視できていながら相談しないまま問題を抱え続けた、また家を出るという選択肢は思い付かなかった」と述べています。虐待から保護されることなく、大人になるまで耐えて成長した彼らを「虐待サバイバー」と呼ぶこともあります。心身共に傷を抱えながら、誰からの支援もなく生きていかなくてはなりません。

(注)=社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第17次報告)の概要」(2021年8月)

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000822359.pdf

対症療法から予防へ

 

私たちは15年から、児童虐待に関連する講演会や勉強会の開催に加え、児童養護施設や乳児院、児童相談所、一時保護所、自立援助ホーム、妊娠期から子育てまで切れ目のない支援に取り組む行政、虐待防止条例を独自に制定した自治体への視察を精力的に行ってきました。

児童養護施設の職員の方々は人手不足の状況下でも、傷つけられた子どもたちの攻撃的な態度に対応し、信頼関係を築いていく困難さを抱えながらも日々、子どもたちと相対していました。児童養護施設で育った高校生や成人を迎えた方でも、親に頼ることができずに生活困窮に陥っているケースなどにたびたび触れ、自立が難しい生活環境にあることが分かりました。

彼らには支援が必要ですが、大人を信用できないため、支援を受けにくい負の連鎖が起きてしまっています。また大人になると、自ら支援を必要だと認識しない限り、支援は届きません。

 

こうした実情を踏まえ、私たちがたどり着いた答えは、虐待を受けた後の対症療法的な対応ではなく、虐待そのものを防がなければならないということ、つまり「なぜ虐待が起きるのか」という根本の原因にアプローチし、虐待を発生させないこと、すなわち予防が重要だということです。

既に起きてしまった虐待については、例えば一時保護所の環境改善や児童相談所の機能強化などを訴えてきましたが、私たちができることはそう多くありません。しかし、虐待のない社会をつくるために、私たちができることは数多くあります。そのためのさまざまな対策や考え方がまとまりつつあった中、目黒虐待死事件が起きたのでした。

 

マスコミや世論では当時、「虐待通報を警察と全件共有すべきだ。なぜ東京都はやらないのか」という取り締まり強化論が叫ばれていました。既に「全件共有」が行われている自治体もあり、それはその自治体での経緯があるのだと理解しています。しかし、事件があったから厳罰化するという流れで実施していいものではないと思います。

「児童相談所=警察」というイメージは、リスク要因を抱える子育て世帯をさらに孤立化させる危険があり、虐待を生まない環境をつくるためには逆効果であると考えました。そこで私たちはこれまでの取り組みを基に緊急提言書をまとめ、小池百合子都知事と意見交換を行いました。

終了後の記者会見では、なぜ取り締まり強化論ではなく、虐待を生まない社会づくりが必要なのか、丁寧に説明しました。その成果もあってか、「全件共有」の論調は次第に弱まり、私たちの提言に盛り込まれた内容が議論されるようになっていきました。

 

後編に続く


【プロフィール】

田添 麻友(たぞえ・まゆ)
関東若手市議会議員の会 児童虐待防止プロジェクトチーム/東京都目黒区議

東京都目黒区生まれ。大学卒業後、専門商社に2年勤務し、ベンチャー系経営コンサルティング会社に転職。3児の母となり、待機児童問題に直面。高校生の時から環境問題などを解決したいという思いもあり、2015年目黒区議選に無所属で立候補し初当選。現在2期目。

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