クロスオーバーによる共創のまちづくり~田辺一城・福岡県古賀市長インタビュー(4)~

福岡県古賀市長 田辺一城
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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地域を歩き、市民の声を聞く

小田 田辺市長は県議時代、古賀市の全世帯の個別訪問を行っていたと伺いました。やはり直接対話と現場感覚を大事にされていたのですか?

田辺市長 市の世帯数は約2万6000ですが、県議時代の8年間で個別訪問を3周はしました。平時から自治会の公民館を回って行う対話集会も、200回は超えているはずです。市内の3駅5カ所で県政報告書を配る活動も、1カ所当たりで年間10回ほどは行っていました。

民主主義ですから、住民の手元に政治がなければいけません。理髪店の手元に、はさみがなかったら髪が切れないのと同じです。課題解決の道具である政治家が住民にとって身近な存在でなければ、民主主義がそもそも成立しませんし、諦めも含めて政治への遠心力となります。選挙前だけ住民の前に現れる政治家ではなく、平時からどれだけ住民と関わり続ける政治家であるかです。

 

そう考えると、呼ばれなくても地域を巡回するのが基本動作ですし、家まで行くのはその究極でしょう。私の場合は夜に時間があれば、スナックも回ります。そこでしか会えない人がいるのです。地域を回り続けることで支持政党にかかわらず、主権者との信頼関係は醸成できます。

とにかく民主主義における対話と交流の実践で、住民の手元に政治を置きたかったのです。もちろん、私のことをどうしても駄目だという人もいますが、それは自然なことです。とはいえ一生懸命にやっていると、多くの人は「まぁ、田辺の話なら聞いてやるか」というふうになってくれました。だからこそ今の私があります。対話と交流は今でも大事にしています。

 

小田 そうした現場主義のエッセンスを、市長になってからはどう生かしているのですか?

田辺市長 首長は折り合いをつけるのが仕事ですが、必ずこれはやるべきだと思ったら、方々の意見を聞いた上で素早く前向きな決断をするのが大事です。これは新型コロナウイルス対策を経て、さらに感じました。コロナ対策で古賀市は最も初期段階の2020年4月に、小規模事業者向けに緊急支援金の給付を始めました。全国的にも早い方だったと思います。

ひとり親世帯に対する給付も、同年5月には実施しています。一方で国のひとり親世帯への給付は夏ごろでした。現場を常日頃から見ていたからこそ、子育てする方々と同世代だからこそ、自営業者の親に育ててもらったからこそ、「お金は今こそ要るだろう!」と思ったのです。もちろん、それぞれの施策については毎月、臨時会を開き、すべて議会を通した上で行いました。

「危機管理」と言いながら、そのモードになっていない場面をよく見掛けます。庁内で問題提起をしても「それはちょっと……」という反応が返ってくることもあります。こういったハードルを越えることは政治家しかできません。首長の責任や、首長がいる意味を実感しながら、平時でも現場の状況を見て、想像して、実践することを心掛けています。

 

「誰もが生きやすく、働きやすいまち」に

小田 「チルドレン・ファースト」の施策(第1回参照)をはじめ、中心市街地の活性化や、6地区で同時並行に進める産業・住宅団地の開発など、将来世代のためのまちづくりを推し進める田辺市長ですが、これらを包括するテーマのようなものはあるのでしょうか?

田辺市長 「クロスオーバーによる共創」が、まちづくりのキーワードです。市内外の多様な人材が交流することで、それぞれの経験・知見・感性が交差し、新たな価値が生まれることを目指しています。そのためには「誰もが生きやすく、働きやすいまち」である必要があります。そんな「場」を、まちの至る所でつくろうと強く意識しています。

 

小田 市外からやって来る人材が集う拠点もあるのですか?

田辺市長 21年秋にインキュベーション施設「快生館」がオープンしました。市の重要な地域資源でありながらも、コロナ禍で休業した温泉旅館をリノベーションしたものです。天然温泉付きのコワーキング(協働)スペース、シェアオフィス、サテライトオフィスは多くの人に注目していただき、企業進出も始まりました。今年5月には、中心市街地活性化のために食の交流拠点「るるるる」がオープンしました(写真1)。ここも商店街にあった建物をリノベーションしました。

このような「場」を設けると、市内外から多くのプレーヤーが訪れるようになります。その人たちと市民の輪をつくるのが、今の政治家としての大事な役割だと思って取り組んでいます。

 

(写真1)食の交流拠点「るるるる」(出典:古賀市)

 

小田 「誰もが生きやすく、働きやすいまち」が、次世代に引き継ぐべき理想の姿だと考えておられるのですね。

田辺市長 市は多様性を重視しています。みんなが生きやすいまちになることが、持続可能性を高めることにつながるだろうと思っているからです。これからも性的少数者(LGBTQ)への配慮や多文化共生など、いろいろな方面でとんがって施策を展開していきます(写真2)。「グッド・アンセスター(よき祖先)」(第1回参照)になるための変化をどうやってもたらすか、を常に考え続けます。

 

(写真3)多様性あるまちづくりの活動も精力的に行う(出典:市長フェイスブック)

 

【編集後記】

田辺市長の「言葉の力」に終始、圧倒されるインタビューでした。そこには、徹底的な実践で現場を見てきたからこその危機感と、次世代の幸せをつくることへの覚悟が含まれています。「腹で語る」とは、まさにこのことだと感じました。

「クロスオーバーによる共創」のまちづくりは、こうした田辺市長の姿勢に共鳴する、熱く行動力のあるプレーヤーたちによって推進されていくことでしょう。

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年8月21日号

 


【プロフィール】

福岡県古賀市長・田辺 一城(たなべ かずき)

慶大法卒。2003年毎日新聞社に入り、記者として活動。11年福岡県議選に初当選(15年再選)。18年同県古賀市長選に初当選し、現在2期目。

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