東京都墨田区議会議員
佐藤 篤
2020/8/3 ウィズコロナ時代に「自治」を考える ~「#墨田区マスクプロジェクト」と議会・行政~(上)
2020/8/5 ウィズコロナ時代に「自治」を考える ~「#墨田区マスクプロジェクト」と議会・行政~(中)
2020/8/7 ウィズコロナ時代に「自治」を考える ~「#墨田区マスクプロジェクト」と議会・行政~(下)
議会
地方議会の動きを見ると、総務省自治行政局行政課長通知「新型コロナウイルス感染症対策に係る地方公共団体における議会の委員会の開催方法について」が大きな衝撃を与えた。この内容は、①必要に応じて条例や会議規則の改正等の措置を講じてオンライン会議をすることは差し支えない②本会議については、地方自治法の解釈として「出席」とは現に議場にいることと解される──の大きく2点に集約され、委員会のオンライン開催はできるが、本会議のオンライン開催はできないと国は解釈していることを表す。
早速動いたのが、茨城県取手市議会である。取手市議会は、議会基本条例を改正し、オンライン議会の議論の端緒となる規定を制定し、議論を進めている(表2)。オンライン議会の議論や試行を始めている議会は幾つかあるが、しっかりと法の根拠に基づいて団体意思の決定を行って議論している点が緻密で素晴らしいと感じた。同市議会は、早稲田大総合研究機構等と共同で「デモテック宣言」を行った。
(表2)◆取手市議会基本条例 <出典:取手市議会ホームページより> |
(情報通信技術の活用)
第22条 |
福島県磐梯町議会では、本会議でのオンライン議会の実現に向けて、地方自治法の改正を求める提言書をまとめていて、こちらの動きもまた注目される。
墨田区議会では、オンライン議会に関して、議会改革特別委員会において検討していくこととなっている。「議会改革度調査2019総合ランキング」全国第29位(東京23区中1位、早稲田大マニフェスト研究所調べ)と、トップ30に入った墨田区議会の議員として、ウィズコロナ時代の議会の在り方について、しっかりと考え、対応していきたいと思っている。
少々議会内部のことを書いたが、ウィズコロナ時代に注目されるのは、住民と議会の関係である。墨田区議会でも、参考人招致や公聴会の積極的な活用、委員会における意見交換会の実施を条例に明記したところだが(表3)、コロナ時代において、どのような実施形態が必要なのかが問われている。議会改革で先進的な取り組みを行っている自治体議会では、ワークショップ形式の意見交換会(岐阜県可児市議会「ママさん議会」)や、団体の会議に出向いて意見交換する議会(愛知県知立市議会「出前講座」)もあるが、ウィズコロナ時代に当たってどういった取り組みを行っていくのか注目したい。
(表3)◆墨田区議会基本条例 <出典:墨田区議会ホームページより> |
(委員会の活動)
第13条 委員会の委員(以下「委員」という。)は、委員会における審査及び調査に当たっては、委員相互間の議論を十分に尽くし、これを尊重するよう努めるものとする。 (区民参加の推進) 第20条 (略) |
また、墨田区議会では、予て本会議および全委員会のライブ中継・録画配信を行ってきたが、これが、コロナ禍の状況に幸いした。地方自治法および墨田区議会傍聴規則の規定により、傍聴を禁止することはできないが、自粛要請を行った。同様の方針で臨んだ議会も多かったと思うが、映像配信を行っていなかった議会においては、住民の傍聴、ひいては住民の知る権利の保障に大きな影響を及ぼしたことだろう(傍聴が住民の権利であるとまでは現在の法制度上では解釈されていないが、議会の傍聴を住民の知る権利に資する権利として構成すると、なおさらその重要性に気付くこととなるだろう)。
議員として
一議員としては、コロナ禍により年4回、住民を対象にスライド等を用いて区政に関して説明している区政報告会が中止を余儀なくされた。そこで、即座にオンラインでの発信に切り替えた。拡散性を重視して、ツイッターでどんどん情報を発信して、意見交換をすることにした。昨年10月の台風19号でも、ツイッターを使ったが、住民から大きな反響があり、助かったという声が多かった。このため、災害や緊急事態においてはSNSのうちでもとりわけツイッターの活用が有用であるというのが私の感想である。
情報を発信すると、これに比例して、相談が多く寄せられた。日に数十件の相談があり、毎日これに対応することが私の仕事となった。飲食店等への対応や、保育園・幼稚園・小中学校に関する各種ご意見、介護事業所の悲鳴、医療機関への感染防止対策など、こうした内容はまとめておき、その後の議会での提案につなげたため大きく役立った。
また、コロナ対策に関する助成制度一覧をパワーポイントで作って公表したところ、多くの自治体議員から問い合わせがあり、著作権フリーとして提供した。それぞれの自治体別にバージョンアップし、それぞれの住民に提供されたようである。自治体議員が横の連携をとり、住民の役に立てたのはありがたいことだったと思う。
しかし、本来聴くべき声をしっかり聴くことができたか、と振り返ると反省点も多い。オンラインで対応できた方と、そうでない方で、デジタルディバイド(情報格差)が生じてしまったのではないかという疑問である。日に日に変わる補助金や制度改正の情報を適切に受け取り、活用するためには、情報に接することのできる環境と一定のメディアリテラシーが必要であった。特に、国の持続化給付金については、オンラインによる申請のみであり(その後、相談会場が設置された)、取り残されてしまった住民が一定数いたことは事実である。
災害・緊急時の議員活動について、その在り方について課題を残した。
行政
行政においても、同様の課題があろう。本区でいえば、区長のタウンミーティング等の広聴事業はもとより、ケースワーカーや福祉関係の相談は対面によるものが多い。対面でこそ分かることもまた多いし、これらは対面以外のものを法は想定していないとも言える(表4)。
(表4)◆生活保護局長通知 <出典:厚生労働省ホームページより> |
生活保護法による保護の実施要領について
(昭和 38 年4 月1日付け社発第 246 号厚生省社会局長通知:第12-1参照) 要保護者の生活状況等を把握し、援助方針に反映させることや、これに基づく自立を助長するための指導を行うことを目的として、世帯の状況に応じ、訪問を行うこと。 |
ウィズコロナ時代における行政サービスの提供については、法の規制によるところも大きいが、自治体レベルで課題を見つけて、提言していきたい。
最後に
コロナ禍における、議員活動に悩みながら、この数カ月間を歩んできた、その思いのまま、散文を書いてきた。
緊急事態に際して①議員だが民間人としての側面で取り組んだ「#墨田区マスクプロジェクト」②議会としての課題③議員としての課題④行政の課題──と、議員として住民に何ができるかを考え、最大限取り組んだことについて、さまざまな側面から分析してきた。筆者も新時代への対応を模索しつつ、それぞれへの正解はまだ出せていないのであるが、読者にとって何か発想の種になることがあるとすれば、存外の幸せである。
(おわり)
プロフィール
佐藤 篤(さとう・あつし)
東京都墨田区議会議員
1985年東京都墨田区生まれ。麻布高等学校卒業。早稲田大学政治経済学部を3年次で飛び級し、同大学院法務研究科修了。法務博士(専門職)。米国外資系法律事務所に勤務、2011年墨田区議会議員選挙初当選、現在3期目、墨田区議会副議長を務める。子どもの事故予防地方議員連盟会長。マニフェスト大賞(早稲田大学・毎日新聞社)優秀政策提言賞受賞。地方議会改革、政策法務、生活困窮者支援に関心をもって活動中。