「迷ったらフルスイング」で行動~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(4)~

熊本県高森町長 草村大成
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/01/30 「実行」と「実現」はセット、決めた以上はやり切る~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(1)~
2023/02/02 「実行」と「実現」はセット、決めた以上はやり切る~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(2)~
2023/02/06 「迷ったらフルスイング」で行動~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(3)~
2023/02/10 「迷ったらフルスイング」で行動~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(4)~

 

漫画を基軸に町を活性化

小田 今回のインタビューでもう一つお聞きしたかったのが、熊本県立高森高校の「マンガ学科」についてです。2023年4月に、公立高校では全国初となる学科を新設するとのことですが、背景にはどのような課題感があったのでしょうか?

草村町長 少子化と公立高校の授業料無償化(現「高等学校就学支援金制度」で都市部に生徒が流出したこと)による、高森高校の生徒数の減少です。ここ10年は、募集しても入学者数が定員の半分以下にとどまっており、分校も検討される厳しい状況でした。実は、私のマニフェスト(政策綱領)に「漫画を基軸にした町の活性化」という項目があります。

それを実現するため、町にゆかりのある元「週刊少年ジャンプ」編集長の堀江信彦氏の協力の下、18年から「くまもと国際マンガCAMP」(世界各国から漫画アーティストを招き、漫画を通じた国際交流や、漫画家志望者に対する指導を行う取り組み)を開催していました。

その盛況ぶりを見て、教育プログラムとして漫画を町に根付かせられないかと思ったのです。高森高校の校長に提案し、約1年にわたる検討の末、マンガ学科の新設につながりました。

 

 

小田 学校や教育委員会を巻き込むとなると、相当に丁寧な説明を要したと思います。提案した当時、どのような反応が返ってきましたか?

草村町長 かなりの反発を受けました。美術を教える先生の中には怒りをあらわにした方もいらっしゃいました。

私としては、プロの漫画家や編集者が教壇に立ち、エンターテインメントを教える学科をつくろうとしていました。伸び盛りの高校生の時期に漫画の作り方の基礎が養われ、本格的な絵コンテを描く技術などが身に付けば、それらは子どもたちにとって大きな武器になると思ったからです。

しかし先生からすれば、アートの歴史やデッサンの基本など、教科書に載っている内容をなぞらないことが理解できなかったのでしょう。ですから学校や県教委には再三、説明した記憶があります

 

小田 どのように折り合ったのですか?

草村町長 高森高校から「マンガ学科の新設に向けて前向きに動く」との返答を得て、「高森町の地方創生と高森高校の魅力向上に関する連携協定」を締結しました。これは4者協定です(写真2)。

株式会社コアミックス(前述の堀江氏が経営する企業。漫画出版事業やデジタルコンテンツの制作・配信、ライセンス事業、アーティスト育成事業などを手掛ける)、高森町、県教委、高森高校が、官民連携でマンガ学科の新設に取り組む座組みをつくりました。

 

(写真2)4者協定締結の様子(出典:高森町フェイスブック)

 

小田 前回に「実行と実現はセットであるべきだ」とおっしゃっていました。これもその一つですね。コアミックス社とは以前から、漫画を基軸にしたまちづくりで連携されていますね。その経緯も教えていただけますか?

草村町長 もともと「世界に誇れる阿蘇の自然環境を壊さずに企業誘致ができないか」という課題意識がありました。そこで、ソフト事業の誘致を考えているときに堀江氏のことを知りました。堀江氏とコンタクトを取り、互いの事業構想を話し合っているうちに目指すところが近いと分かりました。

私は高森町にエンターテインメントを起点とした新たな産業を興したいと考えていましたし、堀江氏は若い漫画家志望者が切磋琢磨して技術を磨ける場所をつくりたいと思っていました。

コアミックス社には当時、複数の自治体から声が掛かっていましたが、私からも高森町に来てほしいとオファーし、20年には同社の第2本社兼アーティスト育成施設「アーティストビレッジ阿蘇096区」が開設されるに至りました。

 

小田 引く手あまたのコアミックス社と連携できた決め手は何だったのですか?

草村町長 その場で私が「こんなふうにやる」と明言したことが大きかったのではないでしょうか。例えば、堀江氏には「漫画から派生した歌劇団をつくりたい」という展望がありました。

それに対し、私は劇団員の全員を町の地域おこし協力隊として招き、町の仕事と並行してアーティスト活動に取り組んではどうかと提案しました。漫画家志望者や劇団員が集う拠点として、町の遊休施設が使えるとも伝えました。

最初は慎重な姿勢を見せた堀江氏やコアミックス社でしたが、国の制度を活用しながら新たなムーブメントを生み出すことに、納得や共感を頂けたのではないかと思います。

 

小田 草村町長の戦略性には脱帽です。実際に、劇団員かつ地域おこし協力隊員として町にやって来た方は何人いらっしゃるのですか?

草村町長 二十数人です。手前みそですが、夢を実現したいと希望を持って田舎にやって来る若者が、これだけいるのは驚異的だと思います。彼女たちは日々、「阿蘇096区」で演劇の技術を磨きながら、町のPR活動に従事しています(写真3)。

 

小田 地方の人口動態を見ると、20代前半の女性の転出が男性より多い地域がたくさんあります。高森町のようなモデルは全国的に、とてもインパクトがあります。

草村町長 いろいろな方に刺激を与えると思います。予想もしない出来事があるかもしれませんが、それも含めて皆でワクワクしていけると良いですね。

 

小田 高森高校のマンガ学科も、23年度に向けた募集開始が楽しみですね。

草村町長 結局、若い人たちが行きたいと思う所でないと、地方に若者は集まりません。そういう意味で、マンガ学科はうまくいくのではないかと思っています。

 

(写真3)地域おこし協力隊としてやって来た劇団員(出典:高森町フェイスブック)

 

職員の挑戦たたえる

小田 成功事例についてお話しいただきましたが、うまくいかなかったこともあるのですよね?

草村町長 失敗したことは何度もあります。

 

小田 とはいえ、今は先が見えない中で手探りする時代だと思います。そもそも、挑戦しなければ成功するかどうかも分かりません。

草村町長 かつての、同じことを繰り返せばよかった時代とは違います。誰も予想しない出来事がどんどん起きていますし、それがいつ自分たちの生活に影響するのかも分かりません。ですから常にアンテナを立て、良いと思ったものはすぐに取り組むべきだと思います。

 

小田 きっと町職員の皆さんにも失敗経験があると思います。職員が失敗したときは、どのように対応しているのですか?

草村町長 もちろんフォローします。ただし、責めることはしません。どちらかといえば、「一緒に自爆しよう」などと冗談を交えて笑いながら、挑戦をたたえます。これまで若い世代の職員にはいろいろな挑戦をさせてきました。失敗もある一方で成功体験もあったため、少しずつ自信を付けてきたように見えます。

 

小田 先の見えない時代の中で、昔に比べて行政の役割が変化したと思うところはありますか?

草村町長 正しい情報を恐れずにきちんと住民に届けることです。これが行政の役割として、日増しに重要になっていると思います。これまでの施策では成功も失敗もありますが、いずれにせよ構想の段階から住民に公開するようにしています。

 

小田 草村町長のお話からは終始、戦略に対するコミットメントと情報のオープン性を感じます。

草村町長 自分の町を良くしようと思っていますから。その思いに上限はありません。私は「迷ったらフルスイング」を行動指針にしています。とにかく思い切りよく動くことです。

そばには優秀な職員がおり、私の行動に対して「送りバント」のようにバランスを取ってくれます。ですから、決めたらフルスイングです。住民をはじめ、関係者には「なぜ、やるのか?」に関する説明をしっかりと行いながら、決めたことをやり切る姿勢はこれからも大切にしていきたいと思います。

 

【編集後記】

今回も草村町長から「迷ったらフルスイング」という、非常に熱量のある言葉が飛び出しました。同時に、ビジョンを形にするための戦略性も垣間見ることができました。

先読みができない時代を乗り越えるためには、タイミングを逃さずにつかむ大胆さと、リソース(資源)の最適化を考え抜く緻密さ、そして何より、失敗を許容する文化が組織の土台にあることが重要です。

そんな「前に進むための要素」を押さえつつ、町をけん引する草村町長は、今後どのような「実行」と「実現」に取り組むのでしょうか。引き続き高森町のまちづくりに注目です。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年12月26日号

 


【プロフィール】

熊本県高森町長・草村 大成(くさむら だいせい)

1967年生まれ。日大文理卒。2011年熊本県高森町長選で初当選。当時作成したマニフェストで、第9回マニフェスト大賞の首長部門で優秀賞を受賞。現在3期目。信念は「仕事は『まっすぐ・ぶれず』にやりぬく!」

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