自然な働き掛けで、人とまちの魅力を伸ばす~白岩孝夫・山形県南陽市長インタビュー(1)~

山形県南陽市長 白岩孝夫
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/09/26 自然な働き掛けで、人とまちの魅力を伸ばす~白岩孝夫・山形県南陽市長インタビュー(1)~
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近年、注目されている概念に「フォロワーシップ」があります。これは組織の力を最大化させるため、各メンバーが自律的に他のメンバーに働き掛けることを指します。

山形県南陽市の白岩孝夫市長は、そんな「フォロワーシップ」型のリーダーです。市民や職員の意見を柔軟に受け入れ、地方創生の関連施策に生かす姿は「型にはまらないリーダー」とも言えるでしょう。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

「ラーメン課主事補」兼「市長」

小田 私が南陽市を認識したのは、2016年から行われている「南陽市役所ラーメン課R&Rプロジェクト」でした。市の重要施策と位置付けられる、非常にユニークな取り組みですが、どのような経緯で始められたのでしょうか?

白岩市長 市の地方創生総合戦略を策定するに当たり、14年に市民アンケートを実施しました。その際に若者の声も聞こうと、中学・高校生にもアンケートを行いました。すると「他県・他市町の方に教えてあげたいもの」という項目の上位に、ラーメンがランクインしたのです。

実は南陽市では、お客さまへのおもてなしにラーメンの出前を取る習慣があります。それくらい身近な食べ物です。私たち大人はラーメンを、日常における当たり前の存在だと思って気にも留めなかったのですが、中高生はそれをまちの魅力だと捉えていました。そこで若い人たちの柔軟な感性に乗ってみようと、ラーメンを主役としたまちづくりを官民協働で行うことにしました。

 

小田 白岩市長の簡易投稿サイト「X(旧ツイッター)」のアカウント名は、「南陽市役所ラーメン課主事補」となっています(写真)。「ラーメンが主役のまちづくり」という意図は伝わってきますが、「市長」の文字がありません。

写真 白岩市長の「X」(出典:南陽市)

 

白岩市長 文字数の上限で「市長」が入り切らなかったんですよね。プロフィル欄に「ラーメン課主事補兼市長」と書いています。市長の肩書を後ろにしたのは、やはり「ラーメン課主事補」の方がキャッチーだからです。市長は全国にたくさんいますが、この役職は日本でただ一人だけですから。ちなみに名刺にも「山形県南陽市長兼ラーメン課主事補」と載せています。

 

小田 とても親しみを感じます。

白岩市長 好ましく思ってくださる方と、不快感を示す方に分かれます。特に霞が関の各省庁で名刺交換をする際には、ふざけていると思われるのか、眉間にしわを寄せる方もいらっしゃいます。ですから賭けでもありますね。しかし、好意的に捉えてくださる方がほとんどです。「ラーメン課主事補」という肩書から話題が広がり、南陽市に来てくださる方もいます。まずは取っ掛かりとして「ラーメンで何かやっているまち」と認知していただければいいのです。全員から好かれることはありません。それはそれで良いと思っています。

 

小田 ラーメンを前面に押し出すのは戦略なのですね。確かにとてもキャッチーです。「ラーメン課プロジェクト」では、どのような取り組みをされてきたのですか?

白岩市長 市内のラーメン店を1軒ずつ取材し、データベースとマップを作りました。マップは東北芸術工科大(山形市)の皆さんと協働で作成しました。市のウェブサイトで閲覧できますし、冊子版は市役所のみらい戦略課で配布しています。そこには約50軒の看板メニューが掲載されています。

19年には人気漫画「ラーメン大好き小泉さん」とコラボレーションさせていただき、漫画の中に南陽市が登場しました。「小泉さん」とコラボした「なんようしのラーメンカードラリー」は絶賛継続中で、今年も準備を進めています。

その他にも駅に横断幕を掲示したり、オリジナルデザインのティッシュを作製して配ったりしていたら、徐々にメディアで紹介されるようになりました。とりわけ、19年に民放テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」で取り上げられたときは、大きな反響がありました。

 

小田 南陽市にはワイナリーも多くありますね。中でも「酒井ワイナリー」は、「日本ワイナリーアワード」で最高ランクの五つ星を獲得しています。

白岩市長 市内には六つのワイナリーがあります。東北では最も多く集積しています。このうち四つは昔から続く地場産のワインを、二つは地場のブドウを使いつつも、最近はやりのナチュラルワインを醸造しています。酒井ワイナリーは、100年以上前からある東北最古のワイナリーで、なおかつナチュラルワインの醸造に取り組んでいます。昨今のムーブメントに大きな影響力を与えていると思います。

 

小田 南陽市にはラーメンとワインに加え、米沢牛や赤湯温泉もあります。市外から人を呼び込む資源が豊富ですね。

白岩市長 ないものを新たにつくるのではなく、今ある資源を生かして伸ばすことが大事です。ワインに関しては、今年5月に4年ぶりの「ワインフェスティバル in 南陽」を開催することができました。六つのワイナリーと複数の飲食店が出店し、食べ比べや飲み比べを楽しむイベントです。県道を歩行者天国にして開きました。DJブースなども設け、非常に盛り上がりましたね。

 

DXは得意な職員に一任

小田 南陽市はデジタルトランスフォーメーション(DX)を積極的に推進しています。「行かなくても済む市役所」と名付けられたこの取り組みは、住民票や印鑑証明書のオンライン申請サービス、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を使ったワクチン接種予約の自動化、人工知能(AI)のチャットボット(自動応答システム)による問い合わせ対応など、実に先進的です。

白岩市長 デジタル技術にたけた職員が率先して進めてくれています。私自身は詳しくありませんので、職員の熱意に頼るところが非常に大きいです。

 

小田 とはいえ、職員が取り組みたくなるような職場づくりを白岩市長がされているのではないでしょうか?

白岩市長 熱意と能力がある人を、それらが発揮できる環境に置くということは意識しています。DXを推進する職員に関してもそうです。その人の得意分野が最大限に発揮されるよう、サポート的な役割を果たす職員も配置しています。

 

小田 補完し合うのは大切ですね。

白岩市長 その通りです。誰しも凸凹はあります。私も欠けているところは多々あると自覚しています。補完し合いながら、それぞれの良いところを伸ばしていくことが大切です。

 

小田 近年は「フォロワーシップ」が注目されています。これはリーダーの要素としても非常に重要で、「支えられるリーダーシップ」とも呼べるのではないかと思います。白岩市長は「支えられるリーダー」ですね。

白岩市長 「支えられるリーダー」に関するエピソードで言えば、市長に就任した当時、市内の全小中学校の校長先生の前で今後の教育ビジョンを話す機会を頂きました。そのとき、私は「『ドラえもん』でいう『出木杉くん』を育てたいのではなく、『のび太くん』を育てたい」と言いました。要するに、飛び抜けた能力を備えていなくても皆の助けで成り立つ社会をつくろう、そのための教育をしようと訴えたかったのですが、いまひとつ伝わりませんでしたね。私としては、大人も子どもも無理に型にはめず、個人の得意分野を伸ばせばよいと思っています。

 

小田 「こう在らねばならない」と固定化すると、本来発揮できるであろう能力にブレーキをかけることにもつながります。

白岩市長 個性がありますから、できないものはできないで仕方がないのです。人それぞれ得意・不得意が違いますから、どう組み合わせるかですよね。

 

小田 南陽市はシティープロモーションやDXをはじめ、これからの地方自治体に必要とされる政策を抜かりなく実施しているとの印象を受けます。その背景には、白岩市長の人材育成・配置に関する柔軟な考えと「支えられるリーダーシップ」があるのですね。

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年8月28日号

 


【プロフィール】

山形県南陽市長・白岩 孝夫(しらいわ たかお)

1969年生まれ。東北学院大文卒。税理士事務所や新聞販売店での勤務を経て、2012年山形県南陽市議に初当選。14年南陽市長選に初当選し、現在3期目。

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