石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(4)ベンチャー的思考で「既成概念に縛られない街」を目指す

石川県加賀市長 宮元陸
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

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2021/03/18  石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(2)
2021/03/22  石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(3)
2021/02/25  石川県加賀市 宮元陸市長インタビュー(4)


「電子的な居住者」という新しい概念を

伊藤 コロナ禍でいろいろなことがオンライン化しました。今までリアルが当たり前だったことがオンラインでもできると分かってくると、この先、加賀で子育てをしてみたいと思うご家庭は増えてくるかもしれないですね。

宮元市長 実はそういうふうになりたいと思っています。子育て支援の施策も、石川県で一番手厚いと思っていますので。教育と子育て支援と、先進的な取り組みと。この三つで選んでもらえるといいなと思いますね。

伊藤 私自身も子育て世代の一人なんですが、親の立場で一番心配なのはやはり転校です。私は場所に関係なく仕事ができる環境にあっても、それで拠点をどんどん移動すると、子どもたちも一緒に移動しなければならないですよね。その点、公立教育の改革はまだハードルが高い気がしています。

宮元市長 子どもの教育環境さえ整えば移住してもいいという人は、結構いますよ。今お付き合いしているベンチャー企業の一つに、教育改革の取り組みをしようとしているところがあります。社会人の先生をどんどん公立学校へ入れたりしながら、画一的な教育から柔軟な教育に変えていこうとしていますね。

伊藤 それは面白いですね。では例えば私が加賀の市民で、市の公立小学校に子どもを通わせているとします。それがあるとき一定期間だけ東京で仕事になって、子どもと一緒に生活拠点を移しました。そんな場合でも、東京からオンラインで加賀の授業を受けられるとなれば、もっと教育の柔軟性は高まりますよね。

宮元市長 すでに「N高(N高等学校・S高等学校:株式会社KADOKAWAと株式会社ドワンゴが共同創設したオンライン上の高校。全国から入学が可能で、パソコン・スマートフォン・タブレットを利用して自分のペースで勉強ができる。単位は通信制高校の制度を活用している)」はその体制をとっていますよね。これからの時代は公立学校もやらないといけないと思います。

加賀市の場合は、児童1人に対して1台のパソコンは実現しています。遠隔教育できる体制はつくっていますので、近い将来できると思いますけどね。

伊藤 そうすると、生活の拠点は東京だけど加賀市に住民票がある、というパターンも出てきますよね。もしかしたら、東京にいる人たちの税金をバーチャルな形で地方に持ってくることが可能になるのかなと思いました。

宮元市長 エストニアではイーレジデンシー(e-residency:手数料を支払えば政府からIDが発行され、電子的な居住者になることができる仕組み。エストニアではこの制度を通じて①法人設立②口座開設③電子署名──ができる。EU〈欧州連合〉を商圏とするビジネスにとってメリットが大きいため、2019年の時点で登録者数は5万人を超える。エストニアの深刻な労働力不足の解決の一助となっている)で、関係人口を増やす取り組みをやっていますよね。

我々もマイナンバーカードを使ってやりたいなと思っているんですよ。「e加賀市民」のようなものを。お父さんやお母さんからすれば、自然の中で子育てしたいという意見の方は結構います。ですので、私としては2拠点居住は全く以てOKです。ぜひその状態をつくれるようにしたいと考えています。

伊藤 「e加賀市民」を実現しようとしたときに、法律上のハードルはあるんですか?

宮元市長 「e加賀市民」が実現可能になったとしたら、あとは納税の問題だけですかね。国と話さないといけないとは思いますが。

伊藤 「e加賀市民」が実現したときには、ぜひ住民票IDを取得してみたいなと思います。

宮元市長 ぜひそういうふうにしたいですね。ただ、やはり急がないと駄目ですよね。アフターコロナで意識が変わってきていますから。今の機会は本当に逃してはならないと思っています。

利便性とワクワクが共存するスマートシティー

加賀スマートシティ構造図

加賀市のスマートシティ構造。テクノロジーを活用して全世代の暮らしの質を上げる取り組みをおこなっている。

 

伊藤 話は変わりますが、加賀市では、すでに電子投票のようなことに取り組み始めていると聞きます。それは宮元市長の中で、いずれ選挙にも採用するぞというイメージがあってのことなんですか?

宮元市長 いずれは電子投票で、公職選挙法にのっとった選挙ができればこんなに便利なものはないですよね。そのために先日、2社と連携協定を結びました。一方はデジタルIDの分野に強くて、もう一方がブロックチェーン領域に強い会社です。

今はまだ実験の段階で、市民の意見を聞くときに使おうとしている感じです。例えば、駅や施設のネーミングをするときに、電子投票のシステムを使って募集したりですね、そういうところからまず始めていって、いずれは実装したいなと。システムをつくっていくことから始めていくという感じですね。

伊藤 今の話を伺っていますと、実現目標が10年先のような気がしないのですが。

宮元市長 10年もかかっていたら遅いですよね。ここ何年かの間に実現したいです。とにかく人が役所に行かなくてもいいようにするのが一番です。投票も含めて。

伊藤 まさにエストニアのモデルということですね。

宮元市長 そうです。生産性を削ぐようなことを役所がしては駄目ですよね。例えば、補助金申請だの何だのでしょっちゅう役所に来て、書類の書き直しをさせられたりすることがあるじゃないですか。そんなのはもうやめた方がいいです。人の動きを縛っていますよね、完全に。

加賀市 行政サービスのデジタル化

テクノロジー分野の民間企業との協業で、行政サービスのスマート化が着々と進む。

 

伊藤 宮元市長が未来のことをいろいろ考えたりするときに、アイデアをぶつけたり相談したりする方というのは、どんな方なんですか?

宮元市長 今はアドバイザーと言いますか、フェローの方たちに何人か来ていただいて、定期的に意見交換や相談をしています。あとは役所の幹部とも相談してやっているという感じですかね。ただ、その体制は今年くらいにようやくできました。それまでは、ほとんど私一人で動いているようなものでした。

伊藤 まさに宮元市長ご自身がベンチャーですね。ちなみにこれまで、参考にしたい自治体などに視察に行かれたりもしたのですか?

宮元市長 行きましたね。ただ、そこで見ていて感じたのが、特定の企業の色が付いてしまうと閉鎖的になるなということです。「〇〇の街」というイメージが付くと、チャンスを求めているベンチャー企業が入れなくなってしまいますよね。だからそういうふうにはせずに、独自路線をいこうと思いました。そんなことを考えていたときは、まだ何もできていませんでしたが。

伊藤 特定の企業色を付けない今のモデルのまま進むと、ベンチャーがいろんなチャンスを求めて加賀市へ行くようになる気がします。これはすごく強みになると感じました。エコシステムという意味で捉えますと、みんながオープンに出入りできてチャレンジもできる。加賀市がそんなプラットフォームのような場になり、お金も人も循環するイメージですよね。

宮元市長 そうです。ベンチャーには志の高い人が多いですからね。私はそういう人が好きなんですよ。そういう人に加賀市をどんどん使ってもらえればいいと思っているので、「どんどん来て!」という感じです。ウエルカムです。

伊藤 インタビューの時間が迫ってまいりましたので、最後の質問です。宮元市長の中では、未来の加賀市のビジョンをどのように描いていらっしゃいますか?

宮元市長 どこよりも便利で、快適で、将来の人材育成もやりやすい。子育ても教育もやりやすい。そういう地域にしていきたいですよね。それでいて一番大事なのは、やはりワクワクする面白い所じゃないと。「面白いぞ加賀市は!」と、多くの方にそう感じてもらえる地域にしたいと思っています。

伊藤 きょうのお話を伺って、すでにワクワクしています。

宮元市長 皆さんに興味・関心を持っていただけるように、これからも頑張ります。

 

【編集後記】

宮元市長のお話からは、終始、果敢に挑戦することへの意識の高さと熱量を感じました。そこには、加賀市を生まれ変わらせ発展させたいという強い想いと共に、これからの時代を担う若きイノベーターたちへの後押しも含まれていました。

全国に先駆けてテクノロジーを導入し、今後もスマートシティーを超えた「スーパーシティー」を構築していこうとする加賀市。ベンチャー企業をはじめとした多様な人材が活躍し、誰にとっても住みやすい街になるときが、すぐそこまで来ているような気がします。

(おわり)


【プロフィール】

宮元陸(みやもと・りく)
石川県加賀市長
1956年111日生まれ。法政大学法学部卒。衆議院議員秘書を経て19994月から石川県議会議員を4期務める。県議会副議長・県監査委員・県議会運営委員会委員を歴任したのち、201310月に加賀市長に就任。現在は2期目。ウォーキングと水泳を趣味にしている。

 

伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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