「選択と集中」の自治体経営~清水聖義・群馬県太田市長インタビュー(4)~

群馬県太田市長・清水聖義
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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2024/03/15 「選択と集中」の自治体経営~清水聖義・群馬県太田市長インタビュー(4)~

 

リソースの配分は、現場を見て判断

小田 清水市長は前回紹介した著書のタイトルにもある通り、自治体運営を「経営」と捉えていますが、普段から特に意識されていることは何でしょうか?

清水市長 お金がなければ何もできませんから、まずは「どうすれば歳入が得られるか」と考えます。それが経営の基本ではないでしょうか。そうすると資本や人を集中してやるべきことと、無駄だからやらなくてよいことに区分けができます。

多くの場合、やるべきことは市民サービスの質の向上です。そのために、市は「ISO9001」(サービスの品質管理に関する国際規格)を取得しました(前回参照)。潤沢な資金があることが理想ですが、それが限られる場合は「選択と集中」が重要になります。

 

小田 「選択と集中」を判断する際の基準は何でしょうか?

清水市長 現場を見ることです。そうすれば何が必要で、何が不要かが分かってきます。ただし、いくら現場に出て行っても、運転手付きの黒塗りの車に乗っていると分からないことも多いでしょう。どうしても現場の最前線から距離ができるからです。中小企業の社長は皆、自分で運転して移動していますよね。それと同じです。自分の足で移動し、現場の最前線を見るようにしています。

 

小田 確かに、事前に連絡や調整のついた「整備されたルート」を巡るばかりでは、見える景色や会える人が限定されますよね。

清水市長 私はどこでも自分で移動してしまうので時折、市長だと気付かれないこともあります。それはそれで、ありのままの現場を見ることができるので良いと考えています。

 

市民にとって まちづくりを「自分ごと」に

小田 今後、注力しようと考えていることは何ですか?

清水市長 市民がまちづくりに主体的に関わる仕組みづくりに注力しています。従来のまちづくりは、地域の区長や団体のリーダーら選ばれた人が行うイメージでした。その門戸を広げたいと思っています。

一般市民の皆さんがいつでも参加でき、大勢でまちづくりについて協議する場があると良いと考え、「太田市自分ごと化会議」を開催しています。

 

小田 具体的にはどのような会議なのですか?

清水市長 一般社団法人・構想日本の協力の下で開催しています。特徴的なのは、話し合いに参加する委員を住民基本台帳から無作為に抽出することです。そうすることで学生、主婦、会社員、シニア世代など幅広い層の参加を促すことができます。議題は、日常生活で感じる身近な課題とその解決策です。

第三者のコーディネーターが取り仕切るため、行政主導ではなく、市民の皆さんが主体となって話し合いをすることができます。これまでに「防災」「地域コミュニティー」「働きやすいまち」といったテーマで開催してきました。

 

小田 自由闊達な意見交換が行われているのですね。

清水市長 どんどん意見を出していただければと思っています。ただし、意見を言うだけで終わってしまってはもったいないので、実際に取り組む事業を市民の皆さんで(予算組みまで)考えていただけるような仕組みにしています。

 

小田 それはどのような仕組みでしょうか?

清水市長 「1%まちづくり事業」と言います。「自分ごと化会議」などで出たアイデアを実行に移すため、市民の皆さんにお金の使い道まで考えて提案していただくものです。この事業には市税の1%相当までの財源を充てることができます。

お金のやり繰りが発生すると、市民のまちづくりへの関心が一気に高まります。まさに「自分ごと」として、まちづくりを捉えていただけるようになります。将来的には市民が決めたまちの方向性に対し、行政がオーソライズするような形になれば面白いと思い、この事業を進めています。

 

表 これまでの取り組み事例 出典:太田市「1%まちづくり事業」パンフレット

 

小田 市税の1%相当だと大きな金額になります。市民の皆さんは責任重大ですね。

清水市長 額面にすると相当な金額を「皆さんで協議した上で使ってください」と、市民に預けるのです。おかげで関心の高い方たちが自主的に活動してくださり、成果が挙がっています。

これまでにごみステーションやグラウンドゴルフ場の整備、地域の防犯活動、公園・里山のリメークなどに予算が使われました(表)。市民の皆さんには事業の成果報告もしていただきます。ですから、自らのまちや関係者が幸せになるためにはどうすればよいかと、真剣な議論と取り組みが各所で行われています。

 

小田 住民参加型のまちづくりは他自治体でも推進されていますが、ここまで成果が挙がるのは「自分ごと化」のアプローチが素晴らしいからなのでしょうね。

清水市長 これまで、まちづくりに直接関与してこなかった「その他大勢の方たち」の声には、現場の最前線の情報が含まれています。そういう意見こそがまちづくりに必要なのです。今後も徹底して「自分ごと化」を進めていきたいと考えています。

 

 

【編集後記】
昨今は「ウェルビーイング(心身共に満たされた状態)」の概念が自治体経営にも浸透しつつありますが、清水市長は約29年前から「市民が幸せかどうか」と問い続け、まちづくりに反映してきました。

全国約1700の自治体には、それぞれの「住民の幸せ」があるでしょう。本稿がそれを見詰め直す機会になれば幸いです。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年1月29日号

 


【プロフィール】

清水 聖義(しみず・まさよし)

1941年、群馬県太田市生まれ。慶大商卒。民間企業勤務、太田市議、群馬県議を経て、95年太田市長選に初当選し、現在8期目。市役所をサービス産業と捉え、行政経営にマーケティングの手法を導入し、行政サービスの質向上を追求する。

 

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