議員提案条例の制定とその後の展開(4)

鈴木太郎 (横浜市会議員、株式会社Public dots & Companyエバンジェリスト、明治大学客員研究員)

はじめに

これまで3回の投稿では、「横浜市官民データ活用推進基本条例」を例に議員提案条例制定に至るプロセスについて紹介しました。紹介した制定プロセスはあくまで一例であり、こうでなければいけないというものではありませんし、むしろ案件ごとにケース・バイ・ケースで進めるべきものと考えています。強調しておきたいのは、条例制定は目的ではなく手段だということです。例えば官民データ活用推進基本条例では、「効果的・効率的な市政運営」「市内経済の活性化」「安心・安全・快適な生活環境」を実現するための政策を進めていく根拠として条例を制定しているわけです。そういう意味では、むしろ条例を制定した後の方が肝心と言えます。そこで本稿では「横浜市官民データ活用推進基本条例」制定後の動向について、特に議会側の関与にスポットを当てて紹介します。(過去の記事はこちら、第1回第2回第3回

1.直ちに「オープンイノベーション推進本部」が立ち上がった

「横浜市官民データ活用推進基本条例」が横浜市会本会議で可決したのが2017年3月で、直後の4月には条例に基づいて官民データ活用推進計画の策定・推進を図るための組織として「オープンイノベーション推進本部」(図1)が立ち上がりました。オープンイノベーション推進本部はCIO(最高情報責任者)を兼務する副市長を本部長に据え、局区横断的な会議体としてスタートしました。条例に基づく計画策定および推進を図る「データマネジメントプロジェクト」と、先進的かつ重要な公民連携の検討を進める「先進的公民連携プロジェクト」を本部会議に付議・報告するものとしました。異例のスピードで推進組織が立ち上がったのは条例制定過程において行政所管局との調整を行ってきた成果に他なりません。議会側が行政側との調整なく独自に条例制定を進めてしまうと、このようなスピード感ある対応は難しいと思われます。

図1 オープンイノベーション推進体制

2.政策・総務・財政常任委員会委員長に就任

横浜市会では、毎年5月のゴールデンウイーク明けから始まる定例会で役員改選が行われ、各委員会の正副委員長および所属委員を改選します。各会派がドント方式により、委員会ポストを割り振ります。その後、会派内で誰をどこのポストに据えるか検討します。当選期数や選挙区に偏りがないよう、バランスを考慮して決めていきます。2017年3月に「横浜市官民データ活用推進基本条例」が可決成立し、同年5月の役員改選で筆者は政策・総務・財政常任委員会の委員長を任されます。条例制定後に市役所内の組織として、オープンイノベーション推進本部が既に立ち上がっていましたが、その事務局は政策局です。従って、条例に基づき策定が予定されている「横浜市官民データ活用推進計画」は、政策局を所管する政策・総務・財政委員会で担当することになっていました。

筆者は、条例に基づく行政計画の策定フェーズにおいても、議会側のリーダーシップを発揮しようと考え策を講じました。委員長として常任委員会の運営方針(資料①)をまとめ、その中に官民データ活用推進計画の策定について委員会として積極的な調査・研究を実施することで、より有効な計画となるよう関与していく旨を宣言したのです。これは非常に有効に機能しました。運営方針は委員会で了承されていますので各委員に共有されており、行政視察や参考人招致などその後の委員会の取り組みがスピーディーに展開できるようになりました。また、行政当局においても計画策定の節目で報告や相談が頻繁に行われるようになりました。そして結果的には議会の議決を要する計画ではないものの、まとめられた計画は実質的に委員会で了承するのと同等の扱いとすることができました。

委員会運営方針に基づく取り組みは次の通りです。

●2017年7月4日 【視察】国立大学法人滋賀大(滋賀県彦根市)

データサイエンス学部の開設について

●7月5日 【視察】滋賀県東近江市

東近江市版SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)の取り組みについて

●10月25日 【視察】株式会社ウェルモ(福岡県福岡市)

オープンデータを活用した介護情報事業について

●11月17日 【参考人招致】高木麻美氏(新日本有限責任監査法人)

社会的インパクト評価の実践(内閣府委託調査)について

●2018年1月10日 【視察】株式会社K2インターナショナル(横浜市)

社会的インパクト評価の実践(内閣府委託調査)について

●1月10日 【視察】公立大学法人横浜市立大(横浜市)

データサイエンス学部の開設について

年間を通じて委員長の方針に基づいて委員会運営を行うというのも、珍しい取り組みです。逆に言うなら、しっかりと準備と段取りを踏まえれば委員長権限で実現可能なわけです。

資料1

 

鈴木太郎(すずき・たろう)

1967年横浜市生まれ。横浜市会議員(5期)。明治大客員研究員。三菱銀行(現三菱UFJ銀行)、外資系金融機関、政治家秘書、米マイクロ・ストラテジー本社勤務を経て現職。民間企業での勤務経験を活かし、「官民データ活用推進基本条例」「将来にわたる責任ある財政運営にかかわる条例」「中小企業振興基本条例」などを議員提案によって成立させる。現在は民間と行政をつなぐ公民連携に取り組む。米シラキュース大情報研究大学院修士課程修了、上智大外国語学部卒。

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