議員提案条例の制定とその後の展開(1)

鈴木太郎 (横浜市会議員、株式会社Public dots & Companyエバンジェリスト、明治大学客員研究員)

はじめに

地方議会改革の必要性が叫ばれる中、改革の具体的な取り組みの一つとして議員提案による条例制定が注目されています。筆者は、実質的に横浜市政史上初となった2010年の議員提案による本格的な政策条例「横浜市中小企業振興基本条例」の制定において中心的な役割を果たしてきました。この取り組みは早稲田大などによるマニフェスト大賞優秀賞に選ばれるなど、当時としては全国的に見ても画期的なものでした。その後も筆者は、「横浜市廃棄物等の減量化、資源化及び適正処理等に関する条例」の改正(2012年)、「横浜市将来にわたる責任ある財政運営の推進に関する条例」の制定(2014年)に携わってきました。直近では、「横浜市官民データ活用推進基本条例」を制定(2017年)したところです。

議員提案条例については、制定に至るプロセスが分からない、あるいは制定後の政策動向が分からないといった声が寄せられています。そこで、本稿では「横浜市官民データ活用推進基本条例」のケースにおいて、どのようなプロセスで条例が制定されたのか解説します。全6回の連載の後半では、条例制定後の動向に議会がどのように関与し、どのような効果が表れているのかを検証します。

1.キッカケは、国会での議員立法

新たに条例を制定する際には、議員提案だろうと首長提案だろうと何かしらのきっかけがあります。自民党本部に設置されていたIT戦略特命委員会では情報通信技術(ICT)が加速度的に進化し、国民の日々の生活においてデジタルデータの流通が欠かせない状況では、個人情報保護法によって国民のプライバシー保護を担保する一方で、そうしたデータを活用することで豊かな社会を築いていく根拠となる法律が必要との議論がされていました。この議論を踏まえて、IT戦略特命委員会委員長の平井卓也衆議院議員が中心となって2016年通常国会に合わせて「官民データ活用推進基本法案」をまとめる作業が続きました。

同法案は議員立法であることから、デジタルデータ活用の意義や方向性を示すとともに、具体的な政策パッケージとして国に対して「官民データ活用推進計画」の策定を求め、都道府県に対しても都道府県版の同計画の策定を義務付けました。しかし、政令指定都市を含む市町村に対してはその負担が大きいとの判断から、同計画の策定は努力義務にとどめられました。

当時、横浜市ではオープンデータの公開やそれを活用した公民連携による新たなサービス提供が進んでおり、同法案が成立した暁には政策効果が発揮される可能性の高い自治体として注目されていました。そこで、平井委員長は、法案では努力義務とされた計画策定を条例によって義務付けることを筆者らに提案(図1)したのです。

自民党本部の要請を受けて、地方組織である自民党横浜市支部連合会(自民党横浜市連)が条例制定に向けて動きだしたのは、言うまでもありません。

2.議員提案条例制定のプロセス

横浜市会において議員提案条例に携わってきた筆者らは、基本的な条例制定のプロセスを図2のように考えています。
もちろん図2で示したフローは基本的なものであり、場合によっては割愛される項目があったり、付け加えられる項目があったりとケース・バイ・ケースですが、総括するとこのようになります。横浜市官民データ活用推進基本条例のケースで個々に説明を加えます。

①プロジェクトチーム(PT)の結成

横浜市会において自民党が中心となって進めた議員提案条例の場合、いずれの条例でも一つ一つをプロジェクトと捉え、プロジェクトを中心的に進めるプロジェクトチーム(PT)を結成します。横浜市官民データ活用推進基本条例の場合、当時、自民党横浜市連の政務調査会長であった筆者がプロジェクトリーダーとなり、政務調査会副会長の2人と共に横浜市議会局政策調査課法制等担当課長が加わるPTを結成することで会派の了承を取り付けました。PTにおいて筆者をはじめ議員の役割は、条例案の基本的な方向性や押さえるべきポイントを吟味し決定することです。一方の法制等担当課長は、他都市での類似条例など条例案の背景として必要な調査を行うと同時に、議員サイドの考えを具体的な条文に落とし込むという重要な役割があります。今回の条例では、同種の条例としては全国初の取り組みでしたので類似条例との比較検討は行いませんでした。

②条例制定の目的の確認

幾つかの議員提案条例制定プロジェクトに携わってきて、学習したことの一つとして「条例制定の目的」を明確にすることの重要性が挙げられます。これからつくろうとする条例は何のためか、あるいは誰のためか。この条例によって何を実現しようとするのか。こういうことをあらかじめしっかりと共通認識として持っておくことが重要です。議員提案条例はまだまだ稀なケースです。ともすると、条例を議員提案で制定すること自体が目的化しかねません。条例制定が目的ではなく、条例制定という手段を使って政策を進めることが目的であるはずです。

横浜市官民データ活用推進基本条例の場合、官民データ活用推進基本法の趣旨を踏まえて次の3点を実現していくことを条例制定の目的としました。

  • 効果的・効率的な市政運営
  • 市内経済の活性化
  • 安心・安全・快適な生活環境

市役所が市民に向けて提供する公共サービスや市役所内部の事務において、これまで主に紙などアナログで処理されていたものをデジタル化していくことでより効果的・効率的な市政運営を進めていきたいと考えました。こうした取り組みを市役所が率先して進めることで市内企業にもデータ利活用を促し、さらにはそうした動きを支えるIT企業の集積を図ることで市内経済を活性化することを視野に入れています。データ利活用によって恩恵を受けるべきは市民です。データ利活用が進んだ際に、市民がより便利に、かつ安全に安心して生活できることは根本的に必要なことです。これら3点を実現するために、条例を制定することを明確にしました。

 

鈴木太郎(すずき・たろう)

1967年横浜市生まれ。横浜市会議員(5期)。明治大客員研究員。三菱銀行(現三菱UFJ銀行)、外資系金融機関、政治家秘書、米マイクロ・ストラテジー本社勤務を経て現職。民間企業での勤務経験を活かし、「官民データ活用推進基本条例」「将来にわたる責任ある財政運営にかかわる条例」「中小企業振興基本条例」などを議員提案によって成立させる。現在は民間と行政をつなぐ公民連携に取り組む。米シラキュース大情報研究大学院修士課程修了、上智大外国語学部卒。

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