議員提案条例の制定とその後の展開(2)

鈴木太郎 (横浜市会議員、株式会社Public dots & Companyエバンジェリスト、明治大学客員研究員)

 

前回は議員提案条例制定が始まるまでの経緯をご紹介しましたが、今回はさらに行政内部や市民との調整に関する取り組みを説明します。(第1回の記事はこちら

③行政所管局を加えた調整

何のために条例を制定するのか明確になったので、いよいよ具体的な内容の検討へとステージが移ります。国のガバナンスが議院内閣制であるのに対して地方自治体は二元代表制をとっています。首長をはじめとする執行部側が予算編成権と執行権を持つ一方、議会側が議決権と調査権を持ち、互いに牽制し合うことで住民がより質の高い公共サービスを享受できるようにすることが二元代表制の本旨です。議員提案条例というのは、議会側が自ら推進する必要があると考える政策を進めていく根拠として、議決権を拠り所にして定めるものです。議会側は政策の根拠となる条例を制定することができますが、その条例に基づいて施策を整え進めていくのは首長以下執行部の執行権に基づくものです。従って、条例はできたものの具体的な政策が進まないという事態に陥ることを避けるために、条例制定の過程でも執行部側との調整を行います。

横浜市官民データ活用推進基本条例の場合、政策局、総務局、経済局、市民局が調整対象でした。また、成立したばかりの官民データ活用推進基本法との関係の深い条例であることから、自民党IT戦略特命委員会をはじめ衆議院法制局および内閣官房IT総合戦略室など政府関係者との調整も必要でした。政策局はこれまでオープンデータを活用した公民連携などに継続的に取り組んでおり、そうした施策との整合をどう図っていくかがポイントでした。総務局は条例をテコに、市役所内部の情報システムや職員の業務改革などを一層進めていきたいという意向を持っていました。経済局ではすでにインターネット・オブ・シングス(IoT・モノのインターネット)に関する公民連携のプラットフォームとして「I・TOP横浜」を展開していましたので、新たな条例との整合性を気にしていました。

個人情報の取り扱いを所管する市民局は、個人情報保護法および横浜市個人情報保護条例との関係に気を揉んでいました。新たな条例が個人情報に関する法令を飛び越えてしまってはいけませんし、新たな条例との整合を図るために既存の条例を改正しなければならなくなるなど対応と判断が必要になります。この点においては、政府との調整も重要となりました。官民データ活用推進基本法が制定される以前に個人情報保護法は改正され、特殊な技術により誰の個人情報か分からないように加工された匿名加工情報や、非識別加工情報といった概念も生まれました。官民データ活用推進基本法は、改正個人情報保護法で定められた範疇を超えない範囲で規定されるとの見解が示されることで、市民局の懸念も払拭されるに至りました。政府サイドとの調整においては個人情報の取り扱いの他に、自民党IT戦略特命委員会委員長の平井議員からは、「官民データ利活用を積極的に進める自治体として、フロントランナーの役割を期待する」といった発言もあり、より先駆的な取り組みを促す条例案とするよう期待が寄せられました。

こうしたさまざまな関係者との調整を行った上で、PTとして改めて法律と条例の関係を次の4点に整理しました。

  • 条例の肝は、法によって「努力義務」とされた市町村官民データ活用推進計画の策定を条例によって義務化すること
  • PTを計画策定および推進のための組織と位置付けること
  • 条例は法の範囲を超えないこと
  • 条例は法によって地方自治体が担うべきとしていることを定める

こうした方針に基づいて全6条から成る条文案をPTとして作り上げ、再度、行政所管部局および政府サイドにも確認をとった上で原案としました。出来上がった原案を自民党横浜市議団会議において内容と経緯、さらに今後のスケジュールを説明し、了承を得て正式に自民党原案となりました。

④市民意見の募集

議員提案条例の場合、必ずしもパブリックコメントを実施する必要はないというのが一般的な見解です。しかし、そもそも官民データ活用推進基本法はできて間もない法律であり、同法に倣う形で全国の自治体に先駆けて条例制定を進めていることから、積極的に市民意見を募集していくべきだと判断しました。具体的には、自民党横浜市連のウェブサイト上に条例原案を公開し、意見募集を実施しました。できるだけ多くの方々からご意見を頂きたいと考えていましたが、インターネット上の告知だけではなかなか意見募集を行っていること自体が周知されにくいだろうと心配でした。そこで、自民党横浜市会議員団がシンポジウムを主催し、関心のある市民から直接ご意見をうかがう機会を設けるとともに、ウェブサイト上に開設した市民意見募集フォームを通じてご意見を寄せていただくよう働き掛けようと考えました。


このシンポジウムがどれだけ充実しているかによって、条例に対する期待も高まると思われるので企画を工夫しました。この条例を制定する背景として、国会で法律が成立していることを理解してもらうために、自民党IT戦略特命委員会委員長の平井議員に出席していただき、法の趣旨と横浜市の条例に対する期待を述べていただきました。また、かつて米国ニューヨーク市でブルームバーグ市長の片腕としてデータに基づく政策形成に当たった、アクセンチュアの工藤卓哉氏にも参加をお願いし、条例の意義についてコメントしていただきました。シンポジウムの運営についても、横浜市内でシェアオフィスを運営し社会課題の解決に挑むさまざまな団体を中間支援する、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボの協力を得ることで関心を高めてもらうよう工夫しました(写真1)。こうした方々のご協力もあってシンポジウムは大成功し、その後の市民からの募集にも39件の意見が寄せられました。頂いたご意見を踏まえて、条例原案に若干の修正を加えました。

 

鈴木太郎(すずき・たろう)

1967年横浜市生まれ。横浜市会議員(5期)。明治大客員研究員。三菱銀行(現三菱UFJ銀行)、外資系金融機関、政治家秘書、米マイクロ・ストラテジー本社勤務を経て現職。民間企業での勤務経験を活かし、「官民データ活用推進基本条例」「将来にわたる責任ある財政運営にかかわる条例」「中小企業振興基本条例」などを議員提案によって成立させる。現在は民間と行政をつなぐ公民連携に取り組む。米シラキュース大情報研究大学院修士課程修了、上智大外国語学部卒。

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