「上善如水」のリーダーシップ~野田義和・大阪府東大阪市長インタビュー(3)~

大阪府東大阪市長 野田義和
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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第1回第2回に引き続き、大阪府東大阪市の野田義和市長のインタビューをお届けします。前回までは副市長人事の考え方や、「まちのポテンシャル」を認識することの重要性について伺いました。今回は都市経営の具体策、そして野田市長のリーダーシップ像に迫ります。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

まちのイメージアップで転入超過に

小田 前回のインタビューで、野田市長は就任以来、職員や市民に「まちに対する誇りを持とう」と呼び掛け、「今では東大阪に対し、ポジティブなイメージを持つ人が多くなった」とおっしゃいました。

総務省が1月末に公表した2022年の住民基本台帳に基づく人口移動報告によると、東大阪市は転入超過となっていますが、これも成果の一つだとお考えですか?

野田市長 まちのポテンシャルを市民と共有することはもちろんですが、子育て支援策にも早くから取り組みました。就任当時、子ども医療費の助成は6歳まででしたが、それを18歳まで拡大しました。所得制限を設けず、500円というワンコインで診療が受けられるようにしています。

また保育施設の入所基準を日本で一番緩やかにした結果、待機児童数は21年度にゼロになりました。このように「中小企業や町工場が集まるまち」のみならず、「住みやすく子育てしやすいまち」というイメージが広がるように努めました。

東大阪が全国的に一気に認知されるようになったのは、ラグビーワールドカップ(W杯)2019日本大会の開催です。東大阪市花園ラグビー場が試合会場の一つとして選ばれ、熱戦が繰り広げられました。これに関しては、09年に日本開催が決定した瞬間から花園で試合が行われるよう、動き始めました。こうした総合的な取り組みがあり、転入超過につながったのだと思います。

 

小田 最近は国が「子どもファースト」を掲げていますが、東大阪市は先駆けて子育て支援策に取り組んだのですね。

野田市長 中小企業や町工場が並ぶイメージが強かったものですから、住んでも優しいまちというイメージを定着させたかったのです。シティープロモーションを展開する上で職員に負担をかけたこともありましたが、そのおかげで成果を挙げることができました。

 

小田 職員のまちを誇りに思う気持ちや、仕事に対するモチベーションも高まったのではないでしょうか?

野田市長 やれば必ず成果が出るという体験を重ねてきました。まちに対する誇りも仕事のモチベーションも高まっています。

もう一つ、大きな成功事例があります。国民健康保険の黒字化です。私が市議時代の1990年は国保の赤字が180億円ほどありました。これを何とか黒字にしようと、前向きな職員を配置して収納率を上げる取り組みを続けました。

その結果、2014年度には黒字に転じ、基金が積み立てられるようになりました。生活保護に関する予算も年々、縮小しています。以前は予算ベースで380億円ほど見積もっていたことがありましたが、現在は決算ベースで300億円を切るくらいまで改善しました。

国保も生活保護も、かつては庁内で「しんどい」と捉えられていた部署でした。しかし、こうした成功事例が生まれたことから、今ではどちらも花形部署のような位置付けになっています。

 

小田 素晴らしいですね。就任当初は市長が実務を担う場面も多かったと思いますが、今は副市長や職員に任せることが増えてきたのですね。

野田市長 私自身はもともと、それほど緻密に物事を設計する人間ではありません。新聞に例えると、見出しは私が考えて、中身の記事制作は誰かにお願いするというスタンスです。市政も同じで、大きな方向性は私が打ち出し、細かいところは副市長をはじめとする職員が考え、組み立ててくれます。

私が彼らに対して働き掛けるのは、方向性がずれてきたときや、一歩二歩と先読みして準備をした方が良いと感じたときです。実務については皆が創意工夫してくれるおかげで、私だけではひらめきもしないようなアイデアが出ることも多いです。感謝ですね。

 

小田 職員と共に15年以上かけて築いてきた土台のたまものですね。

野田市長 東大阪市は人口1万人当たりの一般行政事務職員数の割合が、全国62の中核市で最も低いレベルです。言い換えれば、それだけ少ない職員数で次から次へと業務をこなしているということです。明らかに職員のスキルや能力は上がってきています。

特に業務委託はうまいと思います。職員が本来すべき仕事は何かと見極め、職員でなくとも遂行できる業務は委託して効率性を高めています。

 

「住工共生」のまちづくり条例

小田 東大阪市は交通の便が良く、さらなる転入超過の傾向も見られることから、都市開発や住宅整備の重要性が高まっているのではないでしょうか?

野田市長 今の一番の悩みは、宅地開発できる土地がないことです。市の面積は約62平方kmですが、生駒山の山間部を含めてのものです。実際に開発に使える面積は狭く、マンションやニュータウンを造れるほどではありません。これから都市計画の在り方を規制緩和なども含めて考える必要があります。皆で知恵を出し合いながら方策を練っています。

 

小田 まちのポテンシャルが高い一方で、それに付随する課題が出てきているのですね。工場が多く立地しているので、住宅エリアとの住み分けをどうするかが重要な課題になりそうです。

野田市長 市内には、工場と住宅が隣接・混在しているエリアが多くあります(写真1)。転入を検討する際、騒音や車の出入りが気になる方もいらっしゃるでしょう。しかし「住工分離」をしようにも、大規模な工業団地を造成したり、宅地開発したりすることのできる土地がありません。そこで「住工分離」ではなく「住工共生」を明確に打ち出すことにしました。

 

写真1 住宅と工場が共生する街並み(出典:東大阪市ウェブサイト)

 

13年4月には「住工共生のまちづくり条例」を施行しています。これは、まちの発展には住まいと工場の共存が欠かせないということを共通認識とするものです。「住工混在」の状態を緩やかに解消する施策を講じながらも、現時点で混在するエリアにおいては市民、モノづくり企業、建築主、関係者、市が相互に理解を深めながら共生のまちづくりを進めると明記しています。

この条例により、市長は都市計画法に基づく特別用途地区と地区計画の制度を活用し、「モノづくり推進地域」を指定することができます。この地域内で工場跡地が出たら、次に建設するのも原則として工場でなければなりません。もしも地域内に住宅を建てる場合は、建築計画を市と協議したり、騒音などの影響をあらかじめ理解したりした上で、必要な対策を取る努力をしなければなりません。

このように、緩やかに「住工分離」を図りながらも、共生する場合は相互に理解するというスタンスを条例で定めたところ、市民にはおおむね理解を頂けました。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年6月26日号

 


【プロフィール】

大阪府東大阪市長・野田 義和(のだ よしかず)

1957年生まれ。87年10月から5期 20年にわたり、東大阪市議を務める。この間に市議会議長も経験。 2007年10月東大阪市長に就任し、現在4期目。座右の銘は「上善如 水(じょうぜんみずのごとし)」。

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