
兵庫県芦屋市長 髙島崚輔
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2026/08/05 人を動かすより、動くのを信じる「問い続ける市長」の自治体経営~髙島崚輔・兵庫県芦屋市長インタビュー(1)~
2026/08/06 人を動かすより、動くのを信じる「問い続ける市長」の自治体経営~髙島崚輔・兵庫県芦屋市長インタビュー(2)~
2026/08/12 「挑戦したい人を守る」組織は、自治体を変えられるか~髙島崚輔・兵庫県芦屋市長インタビュー(3)~
2026/08/13 「挑戦したい人を守る」組織は、自治体を変えられるか~髙島崚輔・兵庫県芦屋市長インタビュー(4)~
AIで生み出したいのは、市民と向き合う時間
小田 組織や職員の仕事の在り方に関連して、AIの活用についても伺います。職員の業務でAI活用を進めていらっしゃいますが、その先にどのような市役所を描いているのでしょうか。
髙島市長 間違いなく市役所の仕事は変わるし、職員の役割も変わります。でも、人間はAIにできないことをすべきだ、という単純な話ではありません。AIでもできるかもしれないが、ここは人間が担い続けたい、という人間の意思が大事だと思うのです。私は、市民に窓口で接したり市民に現場で寄り添ったりという仕事は人間に担い続けてほしい。市民との対話こそ、市職員の最も重要な仕事だと考えています。
逆に言えば、それ以外の事務作業、特にパソコン上の仕事については、ある程度AIが担ってもよいのではないかと考えています。
既に全職員に生成AIのアカウントは付与していますが、2026年度は、課ごとにAIを生かして業務変革に挑戦する取り組みも、伴走者を付けながら進めています。
小田 AIによる効率化というと、業務時間を減らすことや、人手不足への対応が先に語られがちです。しかし、髙島市長が目指しているのは、職員が市民との対話により時間と力を使えるようにすることなのですね。
髙島市長 もちろん、人口減少社会の中で、残業時間の減少や人手不足への対応といった成果も期待しないわけではありません。ただ、中長期的に見ると、間違いなく人間の果たす役割は変わるはずです。その時代に向けて、今からできることもあるはずです。
例えば、市民と直接対話することは、不確実性が高い仕事です。役所の中で事務作業をしている方が、予測可能で楽だと感じることもあるかもしれません。
どうすれば、市民と直接向き合う仕事を楽しめるようになるか。市民との対話から芽生えた小さな成功体験をどうつくるか。さらに言えば、市民とたくさん対話したい人に入庁してもらうにはどうすればよいか。そんなことを日々考えています。
小田 AIを入れれば自動的に人が対話に向かうわけではなく、対話を担える人材を育て、支える環境まで含めて考える必要があるということですね。
髙島市長 おっしゃる通りです。
市役所は「ライバルがいない仕事」
小田 髙島市長は、基礎自治体だからこそ市民と一緒に社会を変えられるとおっしゃいました。一方で、人口減少が進む中、自治体同士が住民や企業を奪い合うような動きもあります。市境を越えた連携や、他の自治体との関係については、どのように考えていますか。
髙島市長 市役所は、ライバルがいない仕事だと思っています。
近隣自治体をライバル視して、人口の社会増を目指す考え方もありますが、私の考え方は少し違います。
例えば、芦屋の公立学校教育がすごく良くなって、他の市を圧倒し、みんなが芦屋に住みたいと思うようになったとします。でも、それは私の望む社会ではない。そんなことをしていたら、日本が持ちません。
私たちがうまくいったと思うことは、他の自治体にも生かしていただければうれしいですし、逆に、うまくいかなかったことも見てもらいたいと思っています。
もちろん、私は芦屋市長なので、芦屋市がどうすれば良くなるかを考えることが第一の仕事です。一方で、芦屋だけを意識し過ぎず、他の自治体との学び合いや連携を大切にすることは欠かせません。
教育分野での学び合いの他にも、芦屋市ではごみ処理施設を単独で建て替えるのではなく、神戸市と広域処理する方向へ転換しました。コスト面でも大きな効果がありますし、環境負荷を考えても、メリットが大きい。これは一例ですが、一緒にやった方がうまくいく例は、他にもたくさんあると思います。
小田 パイそのものが縮んでいく時代には、隣のまちから住民を奪っても、全体としては誰も豊かにならない。むしろ共倒れに近づくだけかもしれません。市長として自分の自治体が選ばれることよりも、よい取り組みを広げて全体を底上げすることを重視する。その姿勢は、縮んでいく社会だからこその合理にも聞こえました。
髙島市長 私はもともとNPOの代表を7年間務めていました。市役所はNPOとも似ているなと感じています。利益を目的としない点は共通しているのではないかと。
自分たちがうまくいったことを独占するのではなく、「うまくいったから、一緒にやりませんか」と利害関係なく言える。それは、役所のすごく良いところだと思っています。
民間企業で生き馬の目を抜くような競争をするよりも、うまくいったことは周りに共有して、みんなで社会を良くしていく方が、自分の性には合っているのだとも感じています。
「一人のすごい人」に依存しない市へ
小田 将来、国政など別の舞台を目指すのかと問われることも多いのではないですか。
髙島市長 「ステップアップ」について聞かれることはありますが、市民を巻き込んで一緒に社会を良くできるのは、やっぱり市長だなと3年間で再認識しました。
そもそも、国が上で、市が下という考えにも違和感があります。国民主権である以上、まずは市民に一番近い市があり、次に都道府県があり、最後に土台をつくる国がある。そんな役割分担ではないかと思うのです。
小田 髙島市長ご自身は、これから何年、何十年と市長を続けるというビジョンを持っているのでしょうか。
髙島市長 私は、自分の人生について中長期のビジョンを立てることが、あまり得意ではないタイプなので、今後のことは分かりません。
ただ、必ず言えるのは、私がずっと市長を続けることはできないということです。もちろん、私が市長を退任する時が芦屋市が終わる時でもない。そう考えると、どうすれば対話の文化、民主主義の文化が芦屋市に根付くかが重要だと考えています。
一人のすごい人が引っ張る、個人に依存するというのは、弱い。市民一人ひとりが、市のこと、社会のことを考えて自然と行動する。そんな市なら、きっと持続可能に良くなり続けるはずだと考えています。その意味で、私が本当にやりたいのは文化をつくることなのかもしれません。
【編集後記】
今回、髙島市長のお話を聞きながら、最初から最後まで一貫して流れているものがあると感じました。髙島市長が信じているのは、人は自ら考え、動くことができるということなのだと思います。
その一方で、人を信じることと、組織が変わることは同じではありません。新しい取り組みに手を挙げる25%を守ることは重要ですが、市役所は、残る75%を含めて行政サービスを支え続ける組織でもあります。「職員全員に伝わっているかといえば、正直まだまだ」という市長自身の言葉が、その距離を率直に示していました。それでも、問い続け、伝え続け、動こうとする人を支えながら前に進む。その姿は、これまで出会ってきた首長とは異なるものでした。
怒りや切迫感を持つリーダーに物語を見いだしてきた私の見方が、すでに一つの時代のものになっていて、髙島市長はその先にいる。インタビューを終えてそう感じました。リーダーの在り方そのものが変わり始めているのだと思います。
清涼な川は、流れているのか、それともただ澄んでいるだけなのか。その答えは、現場の職員たちがこれから出していくのだと思います。
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年7月13日号
【プロフィール】

髙島 崚輔(たかしま・りょうすけ)
1997年生まれ。ハーバード大卒業(環境工学専攻、環境化学・公共政策副専攻)。NPO法人グルーバルな学びのコミュニティ・留学フェローシップ理事長、芦屋市役所企画部政策推進課でのインターンシップなどを経て、2023年5月に第23代芦屋市長に就任。
25年1月より文部科学省中央教育審議会専門委員。

