「対話と決断」の自治体経営~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(1)~

兵庫県宝塚市長 森臨太郞
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2026/10/14 「対話と決断」の自治体経営~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(1)~
2026/10/15「対話と決断」の自治体経営~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(2)~
2026/10/21 国際的な視点から見る、少子化・高齢化対策の本質~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(3)~
2026/10/22 国際的な視点から見る、少子化・高齢化対策の本質~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(4)~

 


 

人口も税収も右肩上がりを前提にできない時代を迎え、自治体の経営には、市民の声を丁寧に「聞く力」と、限られた資源の中で「決める力」の両方が求められています。この二つをどう両立させるかは、多くの首長に共通する課題です。

2025年4月、兵庫県宝塚市長に就任したのが森臨太郎氏です。小児科医として国内外の臨床現場に立ち、英国・国立医療技術評価機構(NICE)や世界保健機関(WHO)、国連人口基金(UNFPA)で医療政策や人口政策に携わってきました。データと文書で制度を設計してきた経歴を持つ、異色の首長です。

森市長が市政運営で重視するのが、市民や職員との「対話」です。その一方で、「自分はどちらかというと早く決めるタイプ」とも語ります。森市長は、聞くことと決めることを、それぞれ別の観点で捉えています。

そこで今回は、就任1年の振り返りから、毎週開く「市民と市長の対話ひろば」、決断の基準、データとの向き合い方、議会との距離間まで、「対話と決断」を巡る森市長の自治体経営を伺いました。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

現場の話を聞きながら政策を作る

小田 森市長は、小児科医としての臨床経験、そして政策研究、さらには国際機関での勤務を経て、現在は宝塚市長として市政を担っています。今回のインタビューでは、市長のこれまでのご経験や、日本と世界の両方を見てこられた視点に注目したいと思っています。まず、就任から1年がたった所感からお話しいただけますか。

森市長 職員の皆さんとも、市民の皆さんとも、共に楽しく仕事をしてこられたと思っています。私の経歴は、一見すると行政の現場感が薄く思えるかもしれません。しかし実は、研究者時代や国連職員になる前から、途上国の支援でも国内でも、かなりフィールドに足を運んでいました。現場の皆さんの話を聞きながら政策を作るのが自分のスタイルです。それは立場が変われど崩していないつもりです。

 

小田 別の媒体のインタビューでは、政策を作る立場の人は現場とコミュニケーションを取ることが重要だという趣旨のお話をされていましたね。この考えが強まったきっかけは何だったのでしょうか。

森市長 英国時代の経験が、私にとって大きなものでした。当時はブレア政権で、保健医療改革が重要な政策でした。ブレア首相は「第三の道」という新しい方向性を打ち出していて、その柱の一つが、一般市民や患者の参画だったのです。当事者の話をより聞いて、政策に落としていく。従来とは違うやり方を、そこで勉強させてもらいました。

 

小田 国や官僚が作る政策は、どこか机上で決めているイメージがあります。昨今は現場の声を大切にしようという流れがあるのでしょうか?

森市長 まだまだ課題は多いにせよ、その流れはあると思います。例えば市民公募委員が各審議会や委員会に入るというようなことはありますよね。形骸化しているという批判はあるものの、そういった体制は国レベルでも自治体レベルでも、かなり浸透してきたと感じます。

毎週開催の「市民と市長の対話ひろば」

宝塚市 市民と対話広場
「市民と市長の対話ひろば」で取り扱うテーマの一例(出典:宝塚市)

 

小田 一方で「話を聞く」ということは意外と難しいですよね。一部の大きな声ばかり聞いてしまうかもしれないし、聞くことでかえって前に進まないのではないか、と政策を作る側は考えてしまいます。対話を大事にされている森市長は、そこにどんな意見をお持ちですか?

森市長 今おっしゃった気持ちは、よく分かります。ただ、これに関しても英国時代の経験からお話しできます。英国にいたとき、出産の方針を決める政策のプロジェクトマネジャーを担当したことがありました。出産は、価値観や考え方が人によって全く異なるとても難しい世界です。正反対の意見を持つ人が集まる中でのマネジメントでは、あらかじめ決められたシナリオはありません。「この言葉なら納得できますか?」「これならどうですか?」とやりとりしながら、合意形成をしていきました。

その経験があるので、「話を聞くことでかえってまとまらない」という懸念は、私にはほとんどありません。実際にやってみたらできるのではないかと思っています。

 

小田 宝塚市でも、市民との対話の場を設けているとのことですが。

森市長 「市民と市長の対話ひろば」を毎週開催しています(写真2)。大事にしているのは、予約なしで誰でも来られることです。ですから毎回、何人来られるか、どんな意見を持つ方が来られるか分かりません。参加人数は平均して40人前後でしょうか。ある意味「ガチンコ」の現場です。私自身がファシリテーターになって進める中、議論が白熱することはもちろんありますし、市民の皆さんのご意見に「なるほど……!」と思わされることもとても多いです。この場でもやはり、英国時代の経験が生きていると思います。

対話ひろばは、担当課の皆さんと1年以上やってきました。最初は勇気が要ったようですが、だいぶ慣れてきましたね。むしろ、「今度はこんなテーマで開催しませんか」と提案が出てくるようになりました。

 

小田 常連の市民もいらっしゃるのではないでしょうか。その方の声が大きくなるということはありませんか?

森市長 常連の方もいます。一つのテーマで1カ月間かけて対話をするので、月替わりで来られる方もいます。今年の4月からは、住民基本台帳からランダムに選んだ100人の方にも招待状を送るようにしたところ、新たに参加される方も増えていますね。

(第2回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年9月7日号

 


【プロフィール】

宝塚市長 森臨太郎森 臨太郎(もり・りんたろう)

1970年生まれ。岡山大医学部卒業、同大学 院医学研究科博士課程修了、ロンドン大学 で公衆衛生学・熱帯医学大学院修士課程を 修了。小児科医として国内外で勤務した後、 英国・国立医療技術評価機構(NICE)、世界 保健機関(WHO)、東京大学大学院准教 授、国立成育医療研究センター政策科学研 究部長、国連人口基金(UNFPA)アジア太 平洋地域事務所地域アドバイザーなどを歴 任。2025年4月、宝塚市長に就任。

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