職員自らが考える現場から生まれた政策のアウトカム ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(3)~

桑原悠・新潟県津南町長
(聞き手)株式会社Public dots & Company

 

2021/11/17  性別にとらわれず「その人らしい強み」が生かせる場を ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(1)~
2021/11/19  性別にとらわれず「その人らしい強み」が生かせる場を ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(2)~
2021/11/22  職員自らが考える現場から生まれた政策のアウトカム ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(3)~
2021/11/25     職員自らが考える現場から生まれた政策のアウトカム ~桑原悠・新潟県津南町長インタビュー(4)~

 


 

第1回第2回に引き続き、新潟県津南町の桑原悠町長のインタビューをお届けします。

前回までは、人口約9100人、高齢化率が約40%の町で全国最年少の女性町長となった桑原氏から、若年層や女性であるが故に政治参画の難しさを感じたシーンについて詳しく伺いました。しかしながら「女性でも男性でも〝その人らしい強み〟が生かせる場が提供されることが平等だと思う」と話し、役場の中でも穏やかなリーダーシップで職員の主体性を生かそうとしている姿が印象的でした。

今回からは、桑原町長の「従来のトップダウン型とは違う新たなリーダーシップ」によって生まれた政策のアウトカム(成果)や、人口減少に直面する中、どのような強みを見いだし、町の持続性を高めていくのかといった、今後の取り組みについての考えをお話しいただきます。(聞き手=Public dots & Company)

コロナ禍で進んだ「生産者主体の産地化」

PdC 桑原町長が掲げた政策の中に、農業における「生産者主体の産地化」があります。「生産者主体の産地化」とは、首長がトップダウンで方向性を示すような統制の仕方ではなく、生産者が自ら農業経営を考え、それを行政がサポートしていく体制とのお話でしたが、これを農家の方たちに理解してもらうことは難しくなかったでしょうか?

この質問は、日本の教育体制を思い浮かべたときに出てきました。今の日本の教育は、仕組みの中に「自分で考える」という内容がそれほど含まれないように感じます。その教育を受けてきた方たちに「あなたたちが主役ですから、あなたたちが考えましょう」と訴えて、すんなりと理解してもらえたのかどうかが気になりました。

桑原町長 理解していただくには、それなりに苦労しました。今も引き続き地道にお伝えしているような感じです。いろいろな生産者の方を主役にできるよう広報誌で紹介したり、何か成果が出た際には「皆さんの努力で得た成果です」と、一緒に喜んだりしています。

 

PdC 具体的に印象に残っているエピソードがあれば、教えていただけますか?

桑原町長 津南町はユリの生産が盛んな土地です。カサブランカという品種では植え付け本数、面積とも世界一を誇ります。
ユリ農家の方たちはもともと経営センスがおありで、自分たちでいろいろと研究されていました。しかし、新型コロナウイルス禍でブライダル需要などが大きく減って、それに伴いユリの単価も先行きが不透明な時期があり、「これからどうしたらいいのか」と町に相談に来られたことがありました。

その際、町は経営を続けていけるような策を提示し、最大限の支援はしましたが、実際に経営の方向性を考えて実行に移したのは農家さんたちでした。前代未聞の危機的状況だったということもありますが、「ホームユース向けに出荷してみよう」「市場以外の卸先も確保して、リスクヘッジできるようにしよう」など、販路開拓について真剣に考えるようになりました。

農林振興課の職員も話し合いの場に同席していましたが、あくまで相談に乗っただけであり、決めて行動したのは組合や農家の方々です。私たち行政は、それを広報誌で取り上げて支援したり、他の業種の方とコラボレーションができるようにしたりと、橋渡しの役割に徹しました。

そうやって農家さんをはじめ、いろいろな人たちの意思や行動がうまくかみ合うようになると、何か成果が出た際に一緒に喜べるようになります。そして、町政にも積極的に協力してくれるようになります。

 

PdC 「行政は後方支援しただけ」とおっしゃいましたが、その後方支援も指示待ちの組織であれば、かなわないと思います。すなわち津南町役場も「自分たちで考える組織風土」ということですよね?

桑原町長 私のリーダーシップが強力なトップダウン型ではないので、職員の方たちはその分、「自分でしっかり考えないと」と思うようになっているのだと思います。

 

PdC それは新しいタイプのリーダーシップだと思います。「こうあるべきなんだ」と強く言わなくても、組織が自然に変化したということですから。

桑原町長 これをリーダーシップと呼べるかどうかは分かりませんが、特に役場の中で人数が多い20〜30代の若い職員は、積極的に動いてくれています。部署横断型の移住定住促進チームや農産物販売対策チームをつくったり、何か策を考えた際には幹部会議や予算要求に上げたりしてきます。

 

PdC 予算要求まで上がってくるのですか?それはすごいですね。

桑原町長 職員の自主的な行動で実現している事業もたくさんあります。やはり「自分たちの町が持続可能であってほしい。町民が幸せになってほしい」という、行政職員としての役割意識や仕事への誇りが原動力になっている気がします。仕事量が増えて大変なときもありますが、成果が出て、自分たちが行ったことにやりがいを感じると、次も頑張ってくれるのです。

 

変化のスピードに対応するために

PdC 桑原町長のリーダーシップは、「強いリーダーシップ」を求めている人からすると、物足りなさを感じるかもしれません。ですが、お話を伺っていて感じるのが、リーダーシップの評価は「物事を指し示すこと」ではなく、「最終的にアウトカムに結び付いているか」だと思うのです。きちんとアウトカムが出ているのであれば、それは首長のリーダーシップによるものだと思います。従来のリーダーシップより、分かりにくさはあるかもしれませんが。

桑原町長 確かに分かりにくいと思います。私の考えとしては今の時代、全ての分野のことを一つ一つトップダウンで対応していては、変化のスピードに追い付かないと思っています。ですから、各部署が自分たちで考えて主体的に行動する組織にしようとしています。

職員が自らの意見を言いやすく、伸び伸びと働けるのが理想です。とはいえ、口で言うのはとても簡単ですが、実際に動いてみると難しさを感じることが多いです。改善の余地はたくさんあります。

 

PdC ちなみに差し支えない程度で結構ですが、どんなところで改善の余地があると感じていますか?

桑原町長 例えば教育の分野です。私もこれから先の子どもたちへの教育がとても大切だと感じています。教え込むより、自分で考えて学べるような環境づくりですね。

教育は人材育成という面で見ても、少子化対策という面で見ても、移住定住促進という面で見ても、とても重要な位置付けになるものです。津南町に移住やUターンをしたいという方を増やすには、教育面の充実は欠かせません。ですから、町の教育環境を魅力的にするには、どうしたらいいかと考えることに力を入れていきたいのですが、現状はまだまだ前例踏襲の部分もたくさんあります。

教育に関しては対応しなければならない課題が濃く、複雑なため、担当職員の負荷が大きいのも事実です。職員は日々とても頑張ってくれているので、彼らが考えられる環境をつくることが、まずは改善の余地だと思います。

 

PdC 津南町のような人口約9100人の自治体でも、教育に関する課題は多様化しているのですね。教育面の施策をもう少し拡充したいとのことですが、今すでに行っていることは何でしょうか?

桑原町長 発達支援系の施策には力を入れていて、町民の方の満足度も高いです。津南町は教育委員会に臨床心理士が常駐しており、常に保育士と連絡を取り合っています。

園での生活の中で、早めに支援が必要なお子さんに関しては、小学校入学までの期間にご家庭と連携してカウンセリングを行ったり、卒園後も小学校と情報共有したりしています。このように早めにケアできる体制なので、保護者の方には安心していただいています。こういった部分が、今後は町の魅力として外に発信できるといいですね。

 

第4回に続く


【プロフィール】

桑原 悠(くわばら・はるか)
新潟県津南町長

1986年生まれ。新潟県津南町出身。2009年、早稲田大社会科学部卒業。12年、東京大公共政策大学院修了。大学院在学時の11年に津南町議会議員選挙に立候補し、トップ当選を果たす。町議会議員2期目の18年に町長選に立候補し、当選。全国最年少の女性町長となる。

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