400年の伝統を強みに~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(1)~

佐賀県有田町長 松尾佳昭
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2022/12/21 400年の伝統を強みに~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(1)~
2022/12/23 400年の伝統を強みに~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(2)~
2022/12/27 挑戦を楽しみ、新たな伝統に~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(3)~
2023/01/05 挑戦を楽しみ、新たな伝統に~松尾佳昭・佐賀県有田町長インタビュー(4)~

 


 

佐賀県有田町は、国内外で高く評価されている磁器「有田焼」の産地です。約400年続く伝統工芸、伝統産業を基盤に発展を遂げてきましたが、現在は松尾佳昭町長の陣頭指揮の下、「チャレンジのまち」に変わろうとしています。

「有田っ子」を自認するほど、ふるさとを愛してやまない松尾町長に、どのような姿勢で町政に臨んでいるのか、伺いました。(写真1/聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

(写真1)松尾町長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

トップセールス

小田 まずは政治家を志したきっかけや、町長になるまでの経緯をお話しいただけますか?

松尾町長 幼い頃に祖父から言われた言葉が大きく影響しています。祖父は窯業専門の鉄工所を営んでいました。有田窯業大学校や博覧会に納める機械を手掛けるほどの腕前を持っており、今でも最も尊敬する人物です。私はおじいちゃん子でしたので、有田に貢献しながら働く祖父の姿をいつも、そばで見ていました。

私は色弱で、色がうまく区別できません。ですから、色を扱う焼き物関係の仕事に就くことは難しいと思っていました。そこで祖父に「おじいちゃんのように有田のために働きたいのに……」と話したところ、「それなら『あご』たい」と返ってきました。「あご」とは「口を動かす=話す」という意味です。つまり、有田焼を作ることは難しいかもしれないけれど、その魅力を人に伝えることはできるだろうということでした。そのときから「有田を売るのが自分の仕事かも」と夢を抱きました。

 

小田 一時期は民間企業にお勤めでしたね?

松尾町長 はい。ご縁があって国会議員の地元秘書を務めることになりました。そこで政治の世界に触れるうちに「有田町を政治の道で元気にしたい」と思うようになりました。本格的に政治の道に進んだのはそれからです。32歳から有田町議を3期務めました。

議員時代には、有田焼ブランドを扱う企業にも勤めました。製造・営業・販売で、東京で開催される展示会などに出品しながら有田焼の魅力を伝えていました。その頃から「どうしたら、今の時代に沿った新たな有田焼を作れるか」という課題感を持っていました。

有田焼、つまり窯業は町を代表する産業ですが、人口はどんどん減っていく上に担い手不足の問題もあります。未来を切り開くための打ち手を模索していました。

 

小田 町長になろうと決断したのも、何かきっかけがおありだったのですか?

松尾町長 2016年は有田焼創業400年を記念する年で、町をプロモーションするのに、かつてないビッグチャンスでした。しかし、そのチャンスを町が満足な形で生かし切れなかったと強く感じました。このときに改めて「有田をトップセールスするのが私の仕事だ」と感じ、町長選への出馬を決めました。

 

独自の強みとフィールドで勝負

小田 経歴に関するお話を伺っただけで「有田愛」が伝わってきました。「どうしたら、今の時代に沿った新たな有田焼を作れるか」という課題感を持たれているとのことでしたが、それに対する答えは見えてきているのでしょうか?

松尾町長 有田焼の強みをうまくプロデュースすることですね。有田焼は400年続く伝統と文化、それに技術力があります。町には人間国宝の方が2人おられ、それぞれ技術を丁寧に継承しながら職人を育てておられます。また、確かな技術で作られる焼き物は割れにくく、長く使えるのが特長です。

多様であることも大きな強みです。伝統的な絵付けの皿からモダンなマグカップ、箸置きに至るまで、さまざまなニーズに応えることができます。伝統工芸品としての焼き物、伝統産業品としての焼き物、どちらも楽しめるということです。

このように、有田焼が既に持つ強みをぶれずに発信し、興味を持ってくれる人を増やしていくことが重要ではないかと考えています。

 

小田 他の窯業地の成功事例を参考にすることはありますか?

松尾町長 そういう話も耳にしますが、まねしたところで二番煎じです。その先のマーケットはないと考えています。有田焼には、有田焼の強みとフィールドがあります。模倣や追随で競合相手のフィールドに飛び込むのではなく、独自の価値を広める方向で進めています。

 

小田 自分たちの強みを理解し、それを大切にすることは、頭では分かっていても実行するのは勇気が要ります。成功モデルがあると、つい模倣して失敗するケースも多いですよね。

松尾町長 強みの方向性をぶらさないことと、どんな層に興味を持ってもらえるかを考えることが大切です。有田焼には伝統工芸と伝統産業という二つの側面があります。

伝統工芸に興味を持つ層に対しては、重要無形文化財保持団体の窯元「柿右衛門窯」「今右衛門窯」を代表として、さらに興味を持ってもらう取り組みが必要です。伝統産業に興味を持つ層に対しては、そもそも需要に応じた供給ができるよう、窯業の担い手育成や製品の輸出などに関するサポートが必要だと考えています。

私をはじめ、町の職員は焼き物を作り売るプロではありませんから、作ることに関してはプロにお任せした方が良いと思っています。その代わり、広報・宣伝・企画に関しては動き、全面的に支援していきます。

 

小田 地場産業の育成に関するお考えは、首長によってさまざまです。松尾町長は、ものづくりは事業者に任せ、それを後押しするための施策に注力しているのですね。

 

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年11月14日号

 


【プロフィール】

佐賀県有田町長・松尾 佳昭(まつお よしあき)

1973年生まれ、佐賀県有田町出身。福岡大法卒。有田焼ブランドメーカー勤務、参院議員秘書などを経て、2006年有田町議選に初当選し、連続3選。18年4月有田町長に就任し、現在2期目。

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