「ロジック」と「ハート」のバランス感覚~片山象三・兵庫県西脇市長インタビュー(4)~

兵庫県西脇市長 片山象三
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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経営視点での組織づくり

小田 組織マネジメントについて伺います。片山市長のことですから、恐らく自治体を経営するための工夫を組織に対して行っているのではないかと思いますが?

片山市長 マネジメントは副市長にほぼお任せしています。一つだけ私からお願いしたのは、22年度に市長公室をつくっていただいたことです。まちづくりの方向性や私の思いが全庁に効率的に伝わるよう、市長公室に内外からの情報を集約させ、各部局と共有するための情報整理を行っています。

 

小田 副市長の人選が組織に大きく影響するということですね。就任当初はどのような方を任命されたのですか?

片山市長 周囲から推薦された職員の方です。就任当初は役所内にどんな方がいるのか知りませんでしたから、区長会長さんらに相談しました。すると「経験豊富で人望もある。副市長になるなら、この人しかいない」とご紹介いただき、会ってお話をさせていただくと、本当に実直なお人柄で、信頼できると確信したため、素直にその方にお願いし、2期8年にわたって副市長を務めていただきました。

 

小田 市役所内に詳しいと思われる方にリサーチして、決めたのですね。

片山市長 そうです。教育長もしかりです。

 

小田 マネジメントの実務は適性と能力のある人に任せ、自身は常に全体を見渡せるポジションに立っているのですね。組織づくりにおいても、経営者としての経験や知見が生かされていますね。

片山市長 経営者が一番気にしなければならないのは、月末のキャッシュの残高です。これは安定的に経営できるかどうかを見るためには最も重要な指標で、組織の大小にかかわらず、定点観測が必要です。

この感覚を知っていると、逆算して今は誰を巻き込むべきか、何をするべきかが分かってきます。それに基づき、もろもろの判断をしていますから、背景や事情を知らない方からすると「市長がまた細かいことを言っている」と思われることがあるかもしれません。

 

小田 経営者ならではの孤独感ですね。

片山市長 私は経営しかできませんので、ある意味では仕方がないと割り切っています。今後も堅実に、でもワクワクするような夢を感じられる自治体経営の方向性を示していこうと思っています。関西ですから「笑い」と「オチ」も大事にしたいですね。

 

小田 明るくお話しされていますが、片山市長のかじ取りと得られた成果は、まねできるものではないと思います。

片山市長 白鳥の水かきですよ。表では穏やかに見せていますが、水面下ではバタバタと一生懸命動いています。

 

小田 自治体のリーダーの方々には尊敬の念を抱きます。平時は複雑化する地域課題に向き合い、有事の際には陣頭指揮を執り、さらにはコロナ禍のワクチン接種やマイナンバーカード普及のように、急に取り組まなければならない事案への対応もあるわけですよね。一体いつ休まれているのかと心配になるときがあります。

片山市長 「消防署か!」とツッコミたくなるほど24時間勤務の感覚がありますが、立候補した以上は自分に厳しく、責任を全うしようと考えています。

 

「こども未来応援事業」を推進

小田 西脇市が現在、注力している取り組みは何ですか?

片山市長 「こども未来応援事業」に力を入れています(図)。これは、就学援助を受けている市内の小学6年生から中学3年生までの子どもに対し、塾や習い事などに要する費用を補助するという制度です。兵庫県内では西脇市だけが実施しています。

対象となる児童・生徒1人につき、月1万円を上限にクーポンを発行し、入塾費や月謝に当てていただける仕組みです。学びのジャンルは学習塾、語学、スポーツ、音楽、書道、ダンスと多岐にわたり、子どもたちの学びの意欲を最大限に受け入れられるようにしています。この事業を始めるに当たり、市内の塾やクラブなどに参画を募りました。現在は41事業所・59カ所の教室に協力いただいています。

 

出典:西脇市

 

小田 利用者はどのくらいなのですか?

片山市長 対象となるご家庭の約60%からお申し込みを頂いています。この事業が実質的に始まったのは23年9月ですから、滑り出しとしては好調だと思います。西脇市の財政事情ですと、給食費無償化のような大規模な給付は困難です。しかし、少しでも子どもたちの可能性を開けるような支援ができればという思いで推進しています。

 

小田 利用者から喜びの声が届いているのではないでしょうか?

片山市長 先日、あるお母さんから感謝の言葉を頂きました。ひとり親のご家庭で、中学生のお子さんがいらっしゃるそうです。その子の将来の夢はプロダンサーですが、ダンスを学ぶためにはそれなりのコストがかかります。「こども未来応援事業」では、ダンス教室に関する費用も補助対象としているため、早速申し込まれたそうです。

「学習塾だけが対象だと思っていましたが、ダンスにも利用できるのはうれしいです。子どもの夢をかなえられる一つの大きなチャンスになりました」とおっしゃっていただきました。こういう声が届くと、実施して良かったと思います。

 

小田 心温まるエピソードですね。西脇市政は片山市長の人柄と経営感覚に支えられているということがよく分かりました。

片山市長 周りの方々に支えられているのだと思います。

 

【編集後記】

ワクチン接種会場におけるマイナンバーカード申し込み受付や、医師会との良好な関係性など、驚くような事例が語られましたが、その背景には「丁寧なコミュニケーション」の存在があります。言葉にすると簡単ですが、「丁寧なコミュニケーション」ほど奥が深く、難しいものはありません。

片山市長が自然体で行う「相手視点」のコミュニケーションには、多くの人々を共感させる力があるのでしょう。

一方で全体を俯瞰し、レバレッジポイント(介入点)を見極める姿勢は経営者そのものです。「ロジック」と「ハート」のバランスに優れた首長という印象を強く受けました。本稿が読者の気付きや学びにつながれば幸いです。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年1月15日号

 


【プロフィール】

片山 象三(かたやま・しょうぞう)

1961年、兵庫県西脇市生まれ。同志社大商卒。89年株式会社片山商店に入り、2000年代表取締役社長に就任。13年西脇市長選に初当選し、現在3期目。

 

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