「か・け・ふ」の自治体経営~片山象三・兵庫県西脇市長インタビュー(1)~

兵庫県西脇市長 片山象三
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/02/21 「か・け・ふ」の自治体経営~片山象三・兵庫県西脇市長インタビュー(1)~
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2024/03/01 「ロジック」と「ハート」のバランス感覚略~片山象三・兵庫県西脇市長インタビュー(4)~

 


 

現在3期目を務める兵庫県西脇市の片山象三市長は、かつて同市内にある民間企業の経営者でした。今回のインタビューでも「稼ぐ」「営業」といった、経営視点の言葉や考え方が随所で披露されました。

しかしそれは、決して利益至上主義という意味ではありません。関わるすべての人が価値を享受できるよう、「全体最適を行う」という意味で用いられています。自治体運営が「自治体経営」にシフトしつつある今、片山市長の言葉や考え方からは、非常に多くの学びが得られるでしょう。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

トップの役割は「ベクトル合わせ」

小田 片山市長は民間企業の経営者を経て、就任されました。官民で組織のトップが果たす役割に、何か違いがあると感じますか?

片山市長 私が経営していたのは繊維機械の販売会社でした。小さな規模でしたので、自社だけではできないことも多くありました。ものづくりにおいても、機械の開発においてもです。そこで県の技術センターや大学の研究機関、大手メーカー、経済産業省など、あらゆるところのお力を借りながら取り組んできました。

その際に私が注力したのは「ベクトル合わせ」です。社会や地域産業の課題解決のため、皆で力を合わせましょうというスタンスで各所に協力を呼び掛けました。市長も同じ役割を担っていると思います。国や県、教育機関や関係団体、市民の皆さんなど、あらゆる立場の方たちと方向性を合わせることを常に意識しています。

 

小田 近年、自治体運営には民間企業と同じく、経営的な概念や手法が求められるようになってきました。片山市長には経営者時代の知見が多々あると思いますが、それを庁内でどのように生かしているのですか?

片山市長 職員に呼び掛けているのは「か・け・ふ」です。これは伊藤忠商事が掲げる「商いの三原則」の受け売りですが、自治体運営においても非常に大事な考え方だと思います。

「か」は「稼ぐ」です。社会の流れや国の方向性といった情報をいち早く「稼ぐ」、まちづくりに必要な財源を「稼ぐ」、市民の満足度を「稼ぐ」、市のブランドイメージを「稼ぐ」といったことが当たります。また「かける」という意味も含んでいます。部課間で事業の対象や内容が重なるものは、できる限り組織を超えて開催・運営する、つまり「かける」ことで、予算や人員が集約され、相乗効果が期待できます。

 

※イメージ

 

「け」は「削る」です。今まで当たり前のように行っていた業務が本当に意味のあるものなのか、再度見直して、会議や資料、残業時間、業務の無駄を「削る」ことが該当します。情報通信技術(ICT)も活用しながら情報を効率的に共有し、行政ならではの専門性や高度な判断が求められる「コア業務」に集中することを目指します。こうすることで生産性が向上し、行政サービスの質を高めることができます。

「ふ」は「防ぐ」です。不祥事や業務上のミス・クレーム、自然災害や事故など、発生し得るリスクを可能な限り予測し、事前に対応しておくことです。こうした「か・け・ふ」の考え方を職員一人ひとりが理解し、実践し続ける組織となるよう働き掛けています。

 

「稼ぐ」と「営業」の捉え方

小田 自治体職員の中には「稼ぐ」という言葉にネガティブな印象を持つ人もいます。

片山市長 確かに「稼ぐ」という言葉にピンとこない方もいらっしゃいます。しかし例えば、ふるさと納税の寄付額を増やすための工夫は「稼ぐ」の分かりやすい例だと思います。地域産業の活性化を通じ、税収を「稼ぐ」こともそうです。

また直接的なものでなくても、窓口対応をスムーズに行い、市民の皆さんが費やす時間を減らすことで生まれる経済効果もあるでしょう。これも広い意味で言えば「稼ぐ」です。私は、自治体が「稼ぐ」ことは市民の皆さんの満足度を高めることだと伝えています。

 

小田 近年は官民連携事業がますます盛んになっています。民間企業は社会に価値を提供する代わりに利益を得るのが活動の本分ですから、「稼ぐ」ことに対する理解を自治体に深めてもらいたいと考えているところも多いです。

片山市長 価値を提供することよりも利益を得ることに対する印象が強く、しかもそれがネガティブなのだと思います。同じようなイメージの言葉に「営業」があります。

私は以前に「市立西脇病院は地域の開業医から紹介をもらうために、営業しています」とお伝えしたことがあります。このときに「売り込むのはいかがなものか」という声がありました。確かに「営業」には、セールスをするという意味合いも含まれていますが、私はむしろ「相手の状況を詳しく伺う」ことが「営業」だと捉えています。今はどんな状況なのか。何か課題はあるのか。つながりたい人はいるのか。そうした具体的な情報を頂き、それに対して解決できそうなことを提案するのが「営業」の本来の姿です。

 

※イメージ

 

「稼ぐ」や「営業」という言葉に対し、強引に売り付けるといったイメージを持つ方もいらっしゃいますが、むしろ「価値提供」や「傾聴」など、逆のイメージを持っていただきたいですね。ですから、私は日ごろから「営業」という言葉を意識して使うようにしています。例えば、東京に出張するときには「東京に営業に行ってきます」といったようにです。

 

小田 「か・け・ふ」の「け(削る)」は生産性向上の意味合いが強く、こちらも経営的な印象を与えます。職員の反応はいかがですか?

片山市長 10年前の就任当初は、違和感を口にする職員もいました。しかし時代は変わり、生産性の向上は官民を問わず、トレンドになっています。昔と比較すると、なじみのある言葉になってきたと感じます。

自治体職員は堅実な方が多いので「税金の無駄遣いはしない」という節約意識は高いと思います。それはもちろん重要なことです。一方で、ふるさと納税など稼げるチャンスがあるのであれば、積極的に稼ぎにいく姿勢も持ち合わせる必要があると考えています。

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年12月25日号

 


【プロフィール】

片山 象三(かたやま・しょうぞう)

1961年、兵庫県西脇市生まれ。同志社大商卒。89年株式会社片山商店に入り、2000年代表取締役社長に就任。13年西脇市長選に初当選し、現在3期目。

 

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