「選択と集中」の自治体経営~清水聖義・群馬県太田市長インタビュー(3)~

群馬県太田市長・清水聖義
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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第1回第2回に引き続き、群馬県太田市の清水聖義市長のインタビューをお届けします(写真)

行政運営にマーケティングの手法を取り入れている清水市長は、その著書のタイトルにもあるように「自治体はサービス創造企業」だと捉えています。

サービスを創造するためには「どうしたら受け手が喜ぶか」という、徹底した相手目線が求められます。一方で持続的に価値を提供するためには、リソース(資源)の配分も考えなければなりません。清水市長はサービス創造に当たり、どのような点に着目しているのでしょうか。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

子どもが変われば、大人も変わる

※写真 清水市長(上)へのインタビュー はオンラインで行われた (出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

小田 清水市長はご自身の中で、コストを削るべきところとかけるべきところが明確なのだと思いますが、いかがでしょうか?

清水市長 子育て分野のコストは全く削っていません。むしろ大盤振る舞いです。

 

小田 前回に、子どもたちの情操教育に役立つ三つの専門学校(おおた芸術学校、おおたスポーツ学校、ぐんま国際アカデミー)を設立したこと、幼稚園から中学校までの給食費を無料化したこと、そして2024年度から保育園や認定こども園で使うおむつやお尻拭きを市が負担することを伺いました。子育て関連の施策に重点を置かれている姿勢がよく分かります。

清水市長 子どもたちには心豊かに生きていってほしいですからね。ちなみに市の学校給食は、6校分を賄うセンター方式の施設が一つありますが、34校が自校方式を採用しています。自校方式の学校には調理員がそれぞれ3〜10人いるため、センター方式に比べて人件費がかかります。それでも作りたての温かい給食を子どもたちに食べさせたいのです。このスタンスは譲れません。

さらに、給食で使用するお米は太田で取れた物です。市(太田市精米センター)が精米し、各校に届けます。精米したての新鮮なお米を食べた子どもたちは、みんな「おいしい」と喜びます。

 

小田 心の豊かさに直結しますね。

清水市長 市外からやって来た先生方も「太田の給食は本当においしい」と喜んでいます。こういう声を聞くと純粋にうれしいですよね。農家の方たちも子どもたちのために一生懸命です。とても良い循環が生まれていると思います。

 

小田 子どもを中心に据えた施策は、まち全体に良い波及効果をもたらすのですね。

清水市長 まちを変えたいならば、子どもたちから変えていくのが最も効果的だと考えています。もともと太田市は工業都市で文化に乏しいまちでしたが、「おおた芸術学校」などの運営や給食を通じた地産地消の取り組みにより、子どもたちの笑顔が増えてきました。そうすると周囲の大人たちは頑張りますよね。子どもが変わると大人も変わり、まちが変わります。

 

「自分の言葉」で伝える

小田 経験豊富な清水市長が若手の首長にアドバイスするとしたら、どんなことを伝えますか?

清水市長 思いがあるのであれば、実現に向けてスピーディーに動いた方が良いです。やはり年数を重ねてくると、意識はしていても徐々にドラスチックではなくなります。市民の皆さんの喜びをつくろうと決意したならば、熱が冷めないうちにやり切ることです。

 

小田 新しく首長が就任すると、役所内から反発が出ることがあります。清水市長の1期目は大変にドラスチックだったと思いますが、人事面で工夫されたことはありますか?

清水市長 前市長が決めた人事はすべて承認しました。前市長が築いてきた信頼関係が庁内にあったからです。それをトップが交代したからといって、都合の良いように触るのは違うと思いました。これから市長になられる方に助言するなら「報復人事はしない方が良い」ということでしょうか。

 

小田 前市長派の職員が反発することはなかったですか?

清水市長 もちろん多少はありましたが、仕方のないことです。前市長の方針が正しいと考え、今まで一生懸命に働いてきたわけですから、そういう心情も受け止めるようにしました。すると、だんだんと庁内全体から信頼を得られるようになりました。人事に手を入れない方が良い結果をもたらすと思いますよ。

 

小田 新庁舎の件では議会が紛糾したとも伺いました。当時はどんな対応を心掛けていたのでしょうか?

清水市長 答弁で原稿を読み上げることはせず、自分の言葉で話すようにしました。議会からは当時、強いプレッシャーをかけられていましたから、同等の熱量で対応するためには原稿など読んではいられません。おかげで強くなったと思います。原稿を読まないスタイルは今も続けています。

恐らく私には「就任当日に新庁舎の建設を否定した市長」というイメージが付いていると思いますが、前例を否定することを美徳とはしていません。何でも否定していては、まちづくりが後退してしまいます。あくまでも、まちの将来のためになることを実行するまでです。

 

小田 改革派といえども、何を改革するかは見極めが必要だと思います。ところで、清水市長の著書には「市長のひとりごと」(02年、上毛新聞社)というエッセー集もありますね。

清水市長 書くことで内省したり、気付きを得たりしていました。それをまとめた本です。書く習慣は今も続いており、その内容を市のホームページや広報に載せたりしています。

 

4年サイクルで 常に新鮮な取り組みを

小田 世間には首長の多選に対する懐疑的な見方がありますが、一方で長く務めて、やっと実現できることもあるのではないでしょうか。首長の交代でまちづくりの方向性ががらりと変わり、事業が途切れることがあるからです。

清水市長 期数はあまり関係ないと思います。一つ言えるとするならば、やはり1期4年で成果を挙げることです。すると多選であろうが、首長が交代しようが、影響は出にくいはずです。常に新鮮な取り組みを行うことができます。

 

小田 4年サイクルの積み重ねが基本なのですね。直近で花が開いた取り組みはありますか?

清水市長 23年4月に「オープンハウスアリーナ太田」という体育館が竣工しました。これは構想から4年かからずに完成しました。もともとの課題は市総合体育館の老朽化でしたが、雨漏りなどを防ぐ工事が必要になったタイミングで、群馬クレインサンダーズ(男子プロバスケットボール・B1リーグ所属)の本拠地移転の話が持ち上がりました。これを機に総合体育館をB1リーグ仕様に造り替えることにしました。

市内にバスケのプロチームの本拠地ができれば、関係人口の増加が期待できます。市としてはスポーツや芸術など、文化活動を通じて地域を盛り上げていきたい。その旨を群馬クレインサンダーズや、そのオーナー企業であるオープンハウスグループに伝えると、すぐに合意を得ることができました。

建設に要する資金には、オープンハウスグループによる企業版ふるさと納税や、国の地方創生拠点整備交付金などを活用しました。結果、可動式センタービジョンなど、試合観戦に絶好の環境が備わったアリーナができました。5000人を収容でき、人口約22万人の太田市には最適なサイズです。このように、一つの仕事は4年あれば成すことができます。

 

小田 まちづくりの方針と、その時々に出てくる地域課題、そして活用できる資源や巻き込めるであろう関係者など、あらゆる情報をまとめ上げながら、4年というスパンで物事を前に進めているのですね。その手腕があるからこそ、期数が増えていくのだと思います。

清水市長 おかげさまで、長期にわたって市民の付託を頂いています。一時期は3期で辞めようかと考えたことがありましたが、応援を頂く以上は続けたいと思います。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年1月29日号

 


【プロフィール】

清水 聖義(しみず・まさよし)

1941年、群馬県太田市生まれ。慶大商卒。民間企業勤務、太田市議、群馬県議を経て、95年太田市長選に初当選し、現在8期目。市役所をサービス産業と捉え、行政経営にマーケティングの手法を導入し、行政サービスの質向上を追求する。

 

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