自然な働き掛けで、人とまちの魅力を伸ばす~白岩孝夫・山形県南陽市長インタビュー(2)~

山形県南陽市長 白岩孝夫
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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高校生の探究学習とまちづくりを接続

小田 南陽市は、中高生ら若者を巻き込んだまちづくりに取り組んでいます。例えば「南陽高校市役所部」もそうですね(写真)。若者の声を聞くことについて、どう考えているのですか?

白岩市長 公式回答としては「将来を担う若者の声をまちづくりに生かしていきたい」ということになります。

事の発端は、冒頭でお話しした14年の市民アンケートです。私は、当時の安倍晋三首相が「地方創生」を掲げ、全国の自治体が総合戦略を策定することになった時期に市長に就任しました。総合戦略を作るための準備として市民アンケートがあったわけですが、職員がその対象を中高生にも広げて取り組んでくれました。職員自身に若者の意見を取り入れようとする意識があったのです。

その結果、私たちだけでは気付かなかった「ラーメン」という答えを得ることができました。これにはハッとしましたね。

写真 「南陽高校市役所部」の高校生と共に。右端が白岩市長(出典:南陽市)

 

小田 「南陽高校市役所部」も、高校生の意見がヒントになったのですか?

白岩市長 この取り組みは高校生の探究学習の中から生まれました。県立南陽高校は、市内で唯一の高校です。

最近では探究学習があちこちで盛んに行われていますが、先生には指導のノウハウがない場合も多いのです。南陽高校も同じ悩みを抱えていましたが、あるとき、市のみらい戦略課に「授業を手伝ってほしい」というオファーがありました。そこで課の職員が何度か高校を訪れ、ファシリテーションのお手伝いをしました。

私は学習の成果を発表する場に同席し、高校生の意見を聞きました。すると、その場で出てきたのは「自分たちの得意なSNSを使い、まちの魅力を情報発信したい。観光の案を考えたり、ポスターを作ったりすることもできるかもしれない」という声でした。私はてっきり、彼らからまちにないものをリクエストされると思っていました。例えば、大型のショッピングモールやテーマパークなどです。

 

しかし、彼らは「自分たちがまちづくりに貢献できること」という視点でアイデアを出してくれました。そこで私は「彼らのアイデアに乗っかろう」と思い、「皆さんができることを市が全力で応援するので、一緒にまちづくりをしてみませんか」と提案しました。それが形になったのが「南陽高校市役所部」です。

このように、市が何かアイデアを思い付いて若者に働き掛けたというよりも、若者の柔軟な意見に市が「乗っかった」形の方が多いです。

 

小田 「南陽高校市役所部」の狙いは、やはり将来の人材育成でしょうか?

白岩市長 まちづくりに楽しみを見いだしてくれたら、うれしいですね。「南陽高校市役所部」とはプロジェクトの名称で、正式には高校生が主体となったまちづくりのボランティアサークルです。教育機関と地域が恒常的に関わることができるよう、組織を南陽高校の中に設置したのがポイントです。このような座組みでまちづくりが推進できれば、いずれ全国にも同様の取り組みが広がっていくのではないかと思っています。

 

小田 探究学習とまちづくりの相性に期待が高まりますね。現在、部員はどのような取り組みをしているのですか?

白岩市長 南陽高校市役所部は今年で3期目に入ります。SNSで市の魅力を発信するほか、過去には市内のカフェ情報をまとめたカフェマップを作りました。

今年は特産物を生かしたスイーツやスムージーの開発などを行っています。市内の飲食店に出向いて地域の方と交流したり、まちの歴史や文化について知識を得るフィールドワークを交えたりしながらです。あらかじめ決まった答えはありませんから、どんどんチャレンジしてほしいと思います。

 

小田 白岩市長の柔軟な姿勢と、自然体のリーダーシップに触れることができました。そのようなスタンスで市民や職員と接するからこそ、個人の良さが発揮されたり、相乗効果を生んだりするのですね。お話しいただいた施策は、どれも将来に向けて資産になるようなものばかりです。白岩市長がしたたかに先を見据えている様子が伝わってきました。

次回も、白岩市長ならではの「市長らしさ」に迫ります。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年8月28日号

 


【プロフィール】

山形県南陽市長・白岩 孝夫(しらいわ たかお)

1969年生まれ。東北学院大文卒。税理士事務所や新聞販売店での勤務を経て、2012年山形県南陽市議に初当選。14年南陽市長選に初当選し、現在3期目。

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