自治体と企業の新たな共創関係を築く「逆」公募型プロポーザル(1)

東京海上グループ若手有志団体Tib代表・寺﨑夕夏
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴

2021/05/24  自治体と企業の新たな共創関係を築く「逆」公募型プロポーザル(1)
2021/05/27  自治体と企業の新たな共創関係を築く「逆」公募型プロポーザル(2)


自治体側が出す「お題」に対して、民間企業が手を挙げる。従来型公民連携の手段である公募プロポーザルの仕組みを「逆」にしたのが、逆公募型プロポーザル(以下、逆プロポ)です。

この第1号プロジェクトに手を挙げたのが、イーデザイン損害保険株式会社(以下、イーデザイン損保)でした。

この記事では、イーデザイン損保と一緒にプロジェクトを推進している東京海上グループの若手有志団体「Tib(ティブ)」の寺﨑夕夏代表へのインタビューを通じて、「逆プロポ」が自治体と企業の双方にどのような恩恵をもたらすのかをお伝えできればと思います。

 

逆プロポで百八十度転換するのは、「アイデアとお金の流れ」です。従来の公募プロポーザルで自治体サイドが担っていた「テーマ設定(解決したい課題)」を、逆プロポでは民間企業が行います。つまり、企業サイドが関心のある社会課題を提示し、それに対して自治体がアイデアをエントリーするという仕組みです。

そして、採用となったアイデアの実行予算は企業が自治体に対して寄付します。1プロジェクト当たり100万円と上限は設けていますが、手応えのある新規事業開発やCSR(社会的責任)の展開を希望する企業にとって、自分たちだけでは手が届かなかった社会課題(自治体の生の声)を得る貴重な機会となるため、お金を掛ける価値はあります。

そして自治体側は、現状の財政を圧迫することなく、地域課題解決のための事業を行うことができます。

 

以上が逆プロポの概要ですが、おそらくこの記事を読んでいる方の中には「そうは言っても、仕組みや役割が逆になれば現場も混乱するはず。一体どのように話がまとまったのか?」と思われる方もいるでしょう。

そんな、プロジェクト成立までのプロセスについては、この先のインタビューでしっかりと語られています。社内協議の様子やエントリーした自治体の温度感など、ぜひ本稿から臨場感を得ていただければと思います。(聞き手=Public dots & Company代表取締役・伊藤大貴)

企業サイドからは見えにくい自治体の「生の声」

逆プロポの仕組み
逆プロポの仕組み①

 

逆プロポの仕組み②
逆プロポの仕組み②

 

伊藤 そもそも今回「逆プロポ」の仕組みを利用しようと思った背景には、どんな事情があったのですか?

寺﨑氏 CSR活動の一環として社会課題解決型の新規事業を企画していましたが、最も課題になっていたのが「自治体とのつながりづくり」でした。

新規事業開発にはユーザーインタビューが不可欠です。多くの方々の声から共通点を見いだし、ユーザー像を明確にしてからサービス設計を行います。それが社会課題解決型の事業なのであれば、まずは「そもそも何が社会課題なのか?」を知る必要があります。ですから、自治体の方にヒアリングをさせていただきたかったのです。

しかし、民間企業と仕組みや文化が全く異なる自治体と、どのようにリレーション(関係)を築いていけばいいのか分かりませんでした。最初は細い糸を手繰り寄せるように人脈をたどっていましたが、一つ一つ自治体の門を叩いて伺っていくのは、途方もない工程になると感じていました。

そこで「もっと自治体の方の声が聞きやすい、むしろ、自治体の方が声を上げやすい仕組みがないものか?」と模索していたところ、逆プロポにたどり着いたという経緯があります。

 

伊藤 ちなみに、どのような新規事業を企画していたか教えていただけますか?

寺﨑氏 CSRにはさまざまな活動があると思いますが、私たちの場合は単純な寄付とは違う、「具体的に誰かの役に立っている実感」を得られる活動がしたいと考えていました。

きっかけは、イーデザイン損保の損害保険に加入しているお客さまインタビューです。「自分の納めている保険料がどこに行くのか分からない」「自分が無事故でいる時には、保険(会社)の価値を感じづらい」というご意見を頂くことがあり、お客さまから見たら私たち保険会社は何をしているのか分からない組織であることが浮き彫りになりました。

損害保険会社は事故が起こらなければお金が余ります。では、そのお金を社会貢献に使おうという発想でCSR活動を行うわけですが、単純に寄付しただけですと結局「何に使われているんだろう?」の疑問は拭えないままです。

そうではなく、もっと「この人たちの暮らしが良くなった」と、エンドユーザーの変化が目に見えるような、肌で感じられるようなことに対して寄付ができればと思い、自治体とのつながりづくりを考えていました。

具体的な社会課題を持つ自治体の一助になれば、という発想です。

二つの自治体を選んだ基準とは

伊藤 今回「逆プロポ」の仕組みを使って公募を行ったところ、五つの自治体からエントリーがありましたよね。まずはこの結果について、どのように感じましたか?

寺﨑氏 手を挙げていただいた自治体の方々に対しては、本当にありがたく思っています。逆プロポのような新しい仕組みに乗るには、おそらくいろいろな検討プロセスがあったかと思いますので。

今回イーデザイン損保は「より安全な交通環境・社会の実現」を社会課題テーマに設定し、自治体からアイデアを募集しました。あえて抽象度の高いテーマを設定したことで、エンドユーザー(地域住民)の価値につながるアイデアが集まりました。自治体と民間企業、立場は違えど想いのある方々とつながれた実感があります。

 

伊藤 結果、御社は兵庫県神戸市と滋賀県日野町の二つの自治体のアイデアを採択されました。これはどのような視点で選ばれたのですか?

寺﨑氏 甲乙付け難かったのですが、選定する上で大事にした評価項目は、「住民目線の価値が具体的にイメージできるか?」です。必ず街の人が関わる。企画にも入る。街の人に体験してもらいながらフィードバックを得る。こんなイメージが思い浮かぶ企画を選びました。その方が、きっと自治体にとってもベストですから。

選考の際、社内では「街の人が本当に求めている企画なのか?」という点をかなり話し合った記憶があります。

神戸市からは「AI(人工知能)カメラやテクノロジー活用による人気夜景スポットの混雑状況の可視化とデジタル人材育成」、日野町からは「小学校から、自転車通学が必要な地域の未就学児に対する自転車教室」をご提案いただきました。

どちらも住民の困り事に寄り添い、課題解決と価値の提供を公民一体となって行う姿勢が伝わりましたので、今回選ばせていただきました。

一連のプロセスを体験して感じたのが、とにかく自治体と連携するまでのスピードが速いということです。逆プロポで公募を開始してから、3〜4カ月で神戸市と日野町とのつながりをつくることができました。両者ともつい3〜4カ月前まで全く接点のなかった自治体ですから、このスピード感は驚異的だなと思います。

 

伊藤 今回の選考基準は、今後逆プロポにエントリーを検討している自治体にとって、とても参考になると思います。もう少し具体的にお聞かせ願えますか?

寺﨑氏 逆プロポで自治体の方が準備するのはA4サイズのエントリーシート1枚だけですが、そこにはできるだけ生々しく、リアルな実情を書いていただくといいと思います。アイデアの派手さより、「この街には住民からこんな声が上がっていて、こうすれば喜んでもらえる」のような、課題と解決に対する意欲が伝わってくる方が重要ポイントになるのではないでしょうか。

おそらく「自治体が確信を持てない住民の声」の方が、逆プロポのプロジェクトにはなじむと思います。地域住民の3割ほどからは声が上がっているけれども、もしかしたら5割の方が同じように困っているかもしれない。けれども、確信が持てないから議会には上げられない、というような課題ですね。

 

伊藤 可視化された課題はもはや課題ではない、とも言えます。まだ顕在化されていない課題に対して気付き始めてはいるけれども、そこにチャレンジングにお金を使ってアプローチできない事情が自治体にはありますね。多数決の世界なので、数で負けたら何もできません。そう考えると、「試したい事業があれども予算が付かない」と悩んでいる自治体職員の方々には響くのかもしれません。

寺﨑氏 企業サイドも困っていることは同じです。潜在的な課題には気付いてはいますが、事業のGoサインを出す仕組みが整っていないように思います。それは本当に確信があるのか?大多数が求めているものなのか?という議論の段階で止まってしまいます。

その点逆プロポは、企業からしてみれば自治体のリアルな声をキャッチできて確信が持てますし、自治体の方からしたら企業の寄付金でテスト的に事業を展開できます。両者にとってかゆい所に手が届く仕組みなのではないでしょうか。

関連「逆プロポ」公式ページはこちら

 

第2回につづく


【プロフィール】

イーデザイン損保寺﨑氏寺﨑夕夏(てらさき・ゆうか)
東京海上グループ若手有志団体Tib代表
サスティナビリティー活動の一環として、「より安全な交通環境・社会の実現」に向けた取り組みをグループ内の共創事業として企画。イーデザイン損保と共に本プロジェクトをリードした。「無事故でいる時には、保険の価値を感じづらい」というユーザーの声から、街や地域の交通環境づくりを支援したいと、自治体から企画を募集。2021年5月現在、2つの自治体とプロジェクトの実行フェーズに入っている。

 

伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

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