皆で考え、実を結ぶ取り組みを〜長久保耕治・青森県東北町長インタビュー(4)〜

青森県東北町長 長久保耕治
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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横のつながりで現状を打破する

小田 飼料高騰や資源枯渇など、1次産業を取り巻く問題は深刻です。その中でもサステナブル(持続可能)な1次産業を、農業の考え方や哲学を持って目指しているのですね。

長久保町長 「きのうまで何事もなかったから、あすもきっと何もないだろう」というのは仮説的な話です。また農業で例えますが、2008年に農業肥料が高騰しましたし、昨年は米価が下落しました。米価下落は今回のみならず、過去にも起こっています。一方で外国から米を緊急輸入した年もありました。

このように、いつ何が起こるのかは分からないのです。今年の悪い結果は来年を暗示しているわけではありません。今年の良い結果は来年を保証しているわけではありません。すべてにおいて、そうだと思います。

ですから、いろいろな備えや対処が必要になります。長期的な展望に立って目標を定め、それに向けて進んでいく際に起こる予測不可能なことにも耐え得るビジョンを示すことが必要です。

そのビジョンを町民や国、県にプレゼンテーションしながらパイプで結び、ネットワーク化することが首長の仕事だと思います。

 

小田 本当の意味での強靱さを持つ、しなやかで折れない1次産業を目指しているのですね。

長久保町長 これからは横のつながりも非常に大事になってきます。前回、畜産・酪農業では飼料の自給自足の仕組みが必要になると述べましたが、県内を見渡すと津軽地域では稲わらが余っているのです。一方で、畜産・酪農地帯では稲わらが足りません。

ならば地域を越えて連携すればいいですよね。自分の地域だけでなく外に目を向けて、稲わらが余っている地域から取り寄せ、自分たちで粗飼料を作り、余ったら別の地域に売るくらいの気持ちがあってもいいと思います。

皆で協力してネットワークをつくり、波及させていくことが大事で、それができれば状況は打開できると思います。

仲間を増やし、1の力を5や10にしていくのです。そういったネットワークの拠点をつくるという意味では、私は年齢的に中心となれる人間です。人生100年時代のちょうど真ん中に当たる世代ですから、皆の中心で人をつなぐ役割が果たせるのではないかと思います。

 

※イメージ

 

小田 横のつながりを生かしている事例はありますか?

長久保町長 先日、津軽地方の農家仲間から大豆の生産技術革新について相談を受けました。それに対し、県内の自治体で横の連携をつくり、一緒に国や県へ働き掛けていきましょうと提案しました。

また特産品のマーケットに関しては、県内の首長と話をしています。県内の各地域には特徴的な産品があります。自治体連携でマーケットを開拓していけば、一自治体で取り組むよりもインパクトがあるでしょう。これからの時代はどんどん仲間に引き込んでいくことが、すべての地域づくりにつながってくるのではないかと思います。

 

小田 こつこつと地盤固めをしている様子が伝わってきました。世間的には斬新なアイデアや大きいプロジェクトの方が目を引きます。しかし個人的には、そういった取り組みだけに関わる組織は脆弱であることが多いと感じています。

長久保町長のように、対話を中心としながら人との信頼を築き、予測不能な事態もあらかじめ加味した上で皆で考え、進めていく組織の方が強靱で、結果的に実を結ぶのではないかと思います。

長久保町長 例えば、ものすごく大きな建物を造ったとしても、基礎が脆弱であればすぐに崩れます。組織でいう基礎とは、プロセスの情報共有を常に行うことだと思います。数年後にこのようなまちにしたいから、今これをしていると常に発信し続けることです。それは町民や議員、職員だけでなく、すべての人に対してです。

もちろん対話も重要で、いろいろなご意見やアドバイスを受け止め、そしゃくし、その上で改めて発信し続けて、やり遂げる。大きな実がなるためには時間が必要ですから、焦らず着実に育てていくイメージですね。後は明るく取り組むことです。

 

小田 大きなプロジェクトを立ち上げてみせることも必要ですが、土台づくりを待てないケースも多々あります。それが行き着く先は結局、資源の枯渇や問題の噴出だと思います。

長久保町長 私は、実を結ぶような取り組みは「見せる」ものではなく、常に着手していくものだと思っています。そこには地道な作業が付き物です。立派に農業をされている人は、地道な作業を本当に手を抜かずに行います。私も農家ですから、これまで培ってきた職業的経験を行政に生かしながら、地道に時間をかけて必ず結果を示していく所存です。

 

国・県・町、それぞれの役割

小田 国や県の支援や連携について、思うことはありますか?

長久保町長 住民に一番身近な自治体の声をしっかり拾っていただきたいと感じる一方で、国や県のできることには限界もあると思います。何ができて何はできないのか、精査する機会が必要です。

私たちからの要望に対し、ここまではできる、これは難しい、こういうケースはこんなやり方があるなどと話し合いができると、われわれもそれを基に町の施策を考えることができます。情報共有と役割分担が大切です。

 

小田 柔軟で強いサステナブルなまちづくりや1次産業の構築を進める上で、国や県にはどのような役割があると考えますか?

長久保町長 国は、国際化に対応できるような支援を行う役割を担うべきだと思います。県の役割は、県内に眠っているポテンシャルの高い産品を外に出せるような施策を行うことです。町は、小さな経営体の農家をいかに守っていけるかが勝負どころだと思っています。そのために国や県の採択要件が厳しいものに対し、町が支援して拾い上げていきたいと考えています。

 

小田 1次産業は、国民がおいしいご飯を食べるための基本となるものです。そこにしっかりと注力されている長久保町長の取り組みは、ぜひ多くの人に知っていただきたいです。

長久保町長 国民のおなかを満たすために働いている人たちが、お腹が空いている状況はおかしいですから。これからも実がなるまで、地道な取り組みを続けていきます。

 

【編集後記】

常に柔らかな雰囲気で話す長久保町長ですが、その端々に「しなやかな強さ」を感じました。特に「実を結ぶような取り組みは『見せる』ものではなく、常に着手していくものだ」という言葉は、まさに「農耕型のリーダー像」を象徴するものでした。

人も組織も、その集合体である町も、時間をかけて働き掛け続けた先に実をつけます。それをこつこつと実践している長久保町長の粘り強さとしなやかさに感銘を受けました。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年11月7日号

 


【プロフィール】

青森県東北町長・長久保 耕治(ながくぼ こうじ)

1972年生まれ。東京農業大農学部を卒業後、地元の青森県東北町に戻って就農。2014年同町議に初当選。21年4月同町長に就任し、現在1期目。座右の銘は「我以外皆我師也」。

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