「対話・挑戦・失敗」がバリューのまちづくり~森田浩司・奈良県三宅町長インタビュー(4)~

奈良県三宅町長 森田浩司
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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官民連携と複業人材の登用

小田 三宅町は、官民連携や外部人材の活用も積極的に行っています。最初からスムーズに進んだのでしょうか?

森田町長 就任後、最初に連携した民間企業は江崎グリコでした。職員のリソースが不足していた子育て支援の領域で連携していただきました。官民連携を進めるに当たっては、まずは誰もが知る大手企業とつながることを重視しました。その方が職員も安心すると思ったからです。

 

小田 職員に変化はありましたか?

森田町長 今までにない体験をしたことで、好奇心やチャレンジ精神が生まれたように思います。担当職員は大阪市にあるグリコ社の本社で打ち合わせしたり、民間企業の仕事のスピードを現場で感じ取ったりしました。今までの延長線上にないやり方で仕事を進めたことは、職員にとって小さな成功体験になりました。

 

小田 外部人材の活用はどうでしたか?

森田町長 「ゼロ」から「イチ」を生み出す組織をつくりたいと思い、事業開発の得意な民間人材との交流を模索していました。そんな折、複業人材のマッチングプラットフォームを運営する「アナザーワークス」の代表と知り合いました。

複数の仕事をどれも本業とし、いろいろな場で自分らしく働く「複業(パラレルワーク)」は、町が掲げるビジョンにマッチします。同社の代表とは「働き方を自分らしく選べる世の中になれば面白い」と意見が一致し、複業人材を公募して庁内に登用する方向で話を進めました。

しかし、そのことを職員に話すと大きな反発を受けました。「なぜ、それをしなければならないのか」「絶対にうまくいかない」という声が上がり、議論は平行線のままでした。担当職員とは何度も話し合いましたが、最終的に私が「駄目ならやめるから、1回だけ挑戦させてほしい」と押し切る形で複業人材の登用を進めました。

 

小田 職員が町長に「絶対にうまくいかない」と反対できる組織であることに驚いています。組織内で心理的安全性が担保されていると感じます。

森田町長 職員と町長が対等に話すことは、三宅町役場の特徴かもしれません。思いや意見があるということ自体を大切にしています。町長の意向に反対したからといって、人事評価に影響することはありません。通常は、担当職員が納得できない取り組みはストップさせます。職員の思いが一番大切ですから。

複業人材の登用に関しては例外で、私の中ではうまくいく未来しか見えていませんでした。ですから「どうしてもチャレンジしたい」と粘り、担当職員が「取りあえず1回だけなら」と折れてくれました。

 

小田 その結果、どうなったのですか?

森田町長 役場内の三つのプロジェクトチームに複業人材を登用しました。その方たちは2週間に1回ほどのペースで担当職員とウェブ会議を行い、取り組みを進めていきました。すると会議を重ねるごとに、職員の顔が晴れやかになっていきました。複業人材の方たちは職員に丁寧なヒアリングを行い、課題を言語化したり的確なアドバイスをくれたりしたそうです。

最も反対していた職員が最も楽しんでいました。「自分が何が分からないのかが分かった」「新しい考え方や学びを得られるのが楽しい」と言い、複業人材活用の制度をつくるまでに至りました。

 

小田 最も反対していた職員が実証実験のみならず、複業人材活用に関する事業化まで行ったのですね。一般的に公務員は「ゼロ」から「イチ」を生み出すのが苦手といわれますが、これまでにそうした機会がなかっただけで、適性や能力を持つ方も多くいらっしゃると思います。

森田町長 情報量の違いは仕事の適性や能力に影響します。例えばツーリングが趣味の方は、全国あちこちに出掛けて行っては、その土地の風土や良さを体験して帰って来ます。そのときは遊びだったとしても、仕事の場面で趣味での体験がヒントになることもよくあると思います。

こんなふうに自分から外に情報を取りに行く人ほど、仕事を楽しくクリエーティブに行う傾向があります。公務員も活動のフィールドを庁内に限定せず、外の情報を取りに行く、取り入れるという意識を持つと、「ゼロ」から「イチ」を生み出しやすいのではないかと思います。

 

人が減っても面白い町に

小田 これからのまちづくりは何が正解か分からない中、さまざまな手段を駆使して進めていかなければなりません。そうすると「失敗」は付き物で、それを許容する文化があることが重要となります。

森田町長 これまで私も職員も失敗をたくさんしてきました。例えば一昨年に募集した地域おこし協力隊では、町が求めるものと、採用した方のやりたいことにミスマッチが生まれてしまいました。

原因は協力隊に関するビジョンを私たちが明確にしないまま、募集を開始したことにあります。結果的に協力隊の方は離職されました。反省すべき点が多々ある失敗でした。この件は町民にも正直に伝えました。そして改めて議論を重ね、ビジョンや募集要項を以前よりもクリアにしました。

 

小田 森田町長は失敗に対し、どう向き合っていけばよいとお考えですか?

森田町長 正直であることが大事だと思います。失敗しました、だからやめます、だからこう変えていきますと、失敗を失敗として認識し、言い切ることです。だからこそ失敗の基準を設けることは重要です。

行政はどうしても失敗を表に出したがらない性質があります。しかし隠したり取り繕ったりすることは、町民や組織内での不信感につながります。まとめるとシンプルな答えになりますが、「嘘をつかないこと」、そして「どうしても駄目ならやめる選択肢を持つこと」が、失敗に対する向き合い方なのではないでしょうか。

 

小田 最後に、これからのまちづくりの展望をお聞かせください。

森田町長 まちづくりに関しては、「DAO(分散型自律組織)化」が望ましいと思っています。やる気のある方たちが全国からデジタル・リアルを問わずに三宅町に集まり、得意分野を生かして地域課題を解決したり、わくわくするような企画を生み出したりする「共創」のイメージです。行政はそれに伴走し、ルールメーキングやインフラ、福祉など、行政にこそできる仕事に注力すべきです。

「まちづくりのDAO化」には、先端技術である「Web3」(ブロックチェーンを活用した分散型インターネット)や「NFT」(非代替性トークン=偽造不可能な証明書付きのデジタルデータ)が大いに活用できるでしょう。

このように三宅町をフィールドにして多くの人が柔軟につながれば、この先に人口が減ったとしても「心の過疎」にはならないでしょう。「人が減ったから町が面白くなくなる」ではなく、「人が減っても面白い町はつくれる」という方向にマインドチェンジしていきたいと思います。

 

【編集後記】

三宅町のユニークな「ビジョン」「ミッション」「バリュー」には、「人口が減っても心の豊かさは増える」という隠れたメッセージが込められていました。同町では今後も、町に関わる人たちの幸せを創るため、さまざまな手法を用いた施策が推進されていくことでしょう。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年3月13日号

 


【プロフィール】

奈良県三宅町長・森田 浩司(もりたこうじ)

1984年奈良県三宅町生まれ。大阪商業大総合経営卒。生協職員、国会議員秘書、三宅町議などを経て、2016年三宅町選に初当選。当時32歳で県内最年少、全国でも2番目に若い町長となった。現在2期目。

 

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