アフターコロナ深圳レポート(5)~イノベーションへの影響~

日本の隣国であり、長く相互交流を続けてきた中国。今回の新型コロナウィルス騒動は武漢が発生源と考えられています。中国は今回の騒動においては最初の被害国であり、結果として社会全体の潮流や方向性に大きな影響を与えることになりました。

その中で近年注目を浴びてきた中国のイノベーションがいかに国際社会に影響を与えるに至ったかをレポートさせていただきます。

FIND ASIA華南地区責任者
スタートアップサラダ(Startup Salad)日本市場オーガナイザー

加藤 勇樹(余樹)

日本から見た、初めての中国イノベーション

中国イノベーションへの日本からの注目度が上昇したのは2016年前後であり、近年ではいかに中国イノベーションを日本で再現するか、または日本式の発展を組み込んでいくかという議論がにぎわっておりました。多くのテクノロジーや事象が注目を浴びる中、現地へ赴き社会変革を目の当たりにされる方も多くいらっしゃったことでしょう。中国での、目に見える製品やサービスに興味関心を持っていらっしゃいますが、より理解すべき点は目に見えないところにこそあります。特にイノベーションを生み出す原動力は、社会環境に大きく依存しているといえるでしょう。今回は中国全土の中でも、イノベーションに注力をしている地域である広東省という地理の視点から、中国イノベーションについてお話しさせていただきます。

イノベーションの中心都市とみられた深圳だが、あくまで一部分にすぎない。写真はAM730から引用

地政学に支えられた広東省の創造力

深圳や広州を中心とする広東省という地域は、北京地域や上海‐杭州地域に匹敵するイノベーション活動に注力している地域であり、その中でも特に若手の起業家やベンチャー企業による、下からのイノベーションで名をはせている地域であります。広東省のイノベーションを支えているのは、2つの特色といえるでしょう。

1.人材を引き寄せうる環境:広東省は中国の改革開放以来、最も他地域からの移住者を受け入れてきた地域であり、工場労働者のみならず大学などの高等教育機関の研究者、会社組織を離れて自身の手によるイノベーションを目指すものなど、さまざまな人材を引き寄せてまいりました。また広東省の隣に位置する香港も重要な意味合いを持っています。香港で学んできた人材や経営者などを輩出し続けてきたからです。さらには広東省自体が華僑のふるさとであったという強みを生かして、海外からの人材や外資系企業を引き寄せてきました。

広東省を中心に多く開かれる起業家コンテスト。スタートアップサラダをはじめ多くの団体が活動している。写真はSTART UP SALADより引用

 

2.政府としての後押し:広東省のイノベーションにおいて民間の力が大きく重要であったのは事実ですが、行政や政府においてもイノベーションを後押しする取り組みが行われつつあります。

企業や高度人材の優遇や、インフラ建設等はもちろんですが、広域な行政統合という点も無視することはできません。深圳‐広州を含む広東省、国際金融の拠点である香港、世界的なレジャー圏を目指すマカオは、グレートベイエリア‐大湾区として広域経済圏を目指しております。人材の流動性を押し上げる戸籍改革や社会保障改革、ニュータウンの建設を通した地域経済の一体化、サプライチェーンの有効活用を通した経済圏の統合を目指しています。

次なる段階として進む行政統合、7000万人の人口を誇る新しい統合行政体‐大湾区。写真は大湾区公式サイトより引用

新型コロナによる各方面への影響

多様な条件が重なることで、中国の中でもイノベーションが花開いた広東省ですが、今回の新型コロナウィルス騒動によってイノベーションを生み出す土壌も影響を受けることになりました。各方面からご説明をさせていただきます。

1.人材への影響:ウィルス騒動中は中国各地で交通制限が敷かれることになり、深圳をはじめとする地域外からの移民が、広東省へ戻れないという状況が2か月近く続きました。4月現在、多くの高度人材が職場や研究所へ戻りつつありますが、人材を育てる教育機関はいまだ中国全土で復帰困難な状況です。オンラインという空間でも人材間の交流や研究は進めることはできるでしょうが、広東省というシステムで真価を発揮できる人材や研究は、鈍化しかねません。中国で白熱する人材獲得競争にて、環境としての優位性をいかに示していくかが、一つの課題になりえます。

業シーズンを控えた学生のための就職説明会。写真は南方都市报から引用

 

2.政府決定への影響:つながる地域、開かれた環境をつくるという目的で、広東省‐香港‐マカオは地域的な連携を強めてきましたが、ウィルス感染拡大のために、各地域は別個の対処を取らざるを得なくなりました。地域連携の象徴であった高速鉄道や世界最大の橋は現在閉ざされており、各行政も復興支援においては、財政政策や企業援助において別々の政策をとっております。どこまで地域的な連携を強める一方で、権限を残すのか、地域行政における問題といえるのではないでしょうか?

長さ52㎞の世界最長の橋、地域の重要な交通網として期待されていた。HONGKONG MACAU BRIDGE公式サイトより引用

日中共に学びあうイノベーションの土台作り

【日本でイノベーションをいかに強化していくか、どのようにイノベーションを生み出す環境づくりをしていくか】という課題の際には、深圳をはじめとする中国イノベーションが見本や研究対象となってきました。今回のウィルス騒動を通じてあらわになった弱点は、イノベーションの基幹にかかわる点であり、日本も改めてイノベーションの原点に立ち返ることは必要ではないでしょうか? 進化したイノベーションを通じて日本と中国の双方の学びにつながるよう今後も現地から情報を発信させていただきます。

一般社団法人Publitech様の深圳視察写真、日中共に学びあうイノベーションの機会として


筆者プロフィール
加藤 勇樹(余樹)
FIND ASIA華南地区責任者 、スタートアップサラダ(Startup Salad)日本市場オーガナイザー
2015年より「FIND ASIA」にて、広州・深セン・香港で人材紹介‐企業へのコンサルタントサービスを展開。17年よりFIND ASIAにて中国・大湾区の動向や、イノベーションアクセラレーター「スタートアップサラダ‐Startup Salad」との協業で活躍中

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