心の境界を超え、インフラの広域化・共同化へ~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(1)~

神奈川県葉山町長 山梨崇仁
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/04/04 心の境界を超え、インフラの広域化・共同化へ~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(1)~
2023/04/07 心の境界を超え、インフラの広域化・共同化へ~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(2)~
2023/04/11 常に直接対話で合意形成~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(3)~
2023/04/14 常に直接対話で合意形成~山梨崇仁・神奈川県葉山町長インタビュー(4)~

 


 

少子高齢化と人口減少の一途をたどる「縮退社会」の到来は、私たちを「所有」から「共有」の時代へとシフトさせようとしています。それは地方自治体の都市経営においても例外ではありません。従来は単独で所有・提供していた公共施設や行政サービスを広域化・共同化し、質を保ちながらも合理的に運営しようとする動きは全国的に見られます。

今回はその一例として、神奈川県の葉山町と逗子市が検討中の「下水道事業の広域化・共同化とコンセッション方式による運営」について取り上げます。葉山町の山梨崇仁町長に、経緯や自治体間の合意形成の在り方などについて伺いました。(写真1、聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

環境に配慮した「エシカルな町」

小田 葉山町のイメージは、昔とは若干変わったように感じます。かつては石原裕次郎さんをはじめとする銀幕スターの別荘や、葉山御用邸などがある町という印象が強かったのですが、現在は環境に配慮した「エシカルな町」という印象です。これは意識的に取り組んだ成果なのでしょうか。まずは山梨町長が持っていた、もともとの課題意識について伺います。

山梨町長 葉山町に新たな価値を見いだし、立ち位置を確立する必要があると感じていました。かつては高名な方が静養される憧れの町というイメージでしたが、時代が変わり、それは薄れてきています。

今の大学生に葉山町はどこにあるかと尋ねると、知らない、あるいは名前は聞いたことがあるが、位置は知らないという答えが多いのです。このように、町の知名度がだんだんと下がってきていることへの不安がありました。

そもそも、なぜ葉山が別荘の町になったのか。理由の一つが「災害に強い」ことです。波も風も穏やかで、地震や高潮の被害はほとんどありません。葉山御用邸に至っては、砂浜に隣接していながら、これまで地震や津波、高潮の被害を一度も受けたことがありません。東京都心から1時間ほどの距離にあり、風光明媚でありながらも、穏やかに安心して過ごすことができるのが葉山町です。

ならば「住みやすさ」を価値として発信していけばよいのではないかと考えました。町外に向けてもそうですが、住民に向けてもです。

 

山梨町長(左)へのインタビューは葉山町役場で行われた

 

小田 観光的なPRよりも、移住・定住に関するPRということでしょうか?

山梨町長 町に人が来るようにするためには、どうしたらよいかと考えたとき、まずは今住んでいる人たちが町に誇りを持つことが大切だと考えました。住民が町を大事にすることこそが町の価値であり、それが呼び水となって人が集まると思ったからです。ですから就任以来、葉山の人たちに元気になっていただく仕組みをずっと考えてきました。

 

小田 環境への取り組みは、住民のシビックプライド(地域を誇りに思う気持ち)の醸成につながると考えたのですね?

山梨町長 かねて葉山町では、ごみと下水道が二大問題としてクローズアップされていました。どちらも広域連携する際、訴訟問題に発展した過去があるからです。

下水道は道路の下にあるインフラの部分ですから、行政が淡々と進めるしかありません。一方、ごみに関しては「そもそも減らす」取り組みに住民の協力が得られれば、住環境の面でも良い影響が出てきます。そこで、2019年から「はやまクリーンプログラム」と称し、14年に始まっていたごみの減量・分別を加速させる環境活動に町全体で取り組むことにしました。

例えば町が管理する公共施設の売店や自動販売機では、ペットボトル飲料は売っていません。代わりに給水器を置き、マイボトルの活用を推奨しています(写真2)。ごみは27品目に分別しています。恐らく県内で最も細かく、厳しい基準です。一部の家庭ごみは無料で戸別収集を行っています。

その結果、ごみはスタート時(14年)から約30%減量できました。資源化率も上昇しており、鎌倉市に次いで県内2位です。このような環境への取り組みに対し、住民はとても前向きです。皆で努力し、美しい町をつくり上げるから豊かになると思っていただいています。

 

公共施設に設置された給水スポット(出典:葉山町)

 

小田 葉山町の住民は、もともと環境に対する意識が高かったのですか?

山梨町長 人それぞれだと思いますが、「葉山が好き」という意識は共通しています。この町には鉄道が通っていません。それでもあえて住むという時点で、葉山を好んで来てくださっていることになります。その点は最大の強みです。町のために何かしましょうと提案すると、快く受け入れてくださる下地があります。

とりわけ環境というテーマは、町が苦しんできたごみ問題もあったことから、大半の住民が取り組みに賛同してくださいました。町全体が同じ方向を向いていると肌で感じています。

22年6月からは「はやまクリーンプログラム」の一環として、「はやまエシカルアクション」という取り組みを始めましたが、端緒は住民の要望でした。「環境に配慮した事業者から製品を買いたい」という声が役場に寄せられるようになったのです。

そこで社会的な課題や環境問題を考慮して経営を行う町内の事業者を、町のウェブサイトで紹介することにしました。裏を返せば、そうでない事業者は葉山には合わないと暗に示すことにもなるのですが、町の立ち位置を明確にするとともに、環境問題を考慮した経営にシフトしていきましょうと応援する意味も込めています。

 

「葉山が好きだから住む」人が増加

小田 若い人たちが葉山町のことをあまり知らないというお話がありました。環境やエシカルに関する取り組みで、認知度は上がりましたか?

山梨町長 認知度に関する直接的な数値は把握していませんが、新たに移住する方が葉山町のスタンスを理解して来てくださっているように感じます。新型コロナウイルス禍の影響で移住件数は増えてきていますが、皆さん、葉山が好きだから住むということに間違いはありませんし、環境への取り組みにも前向きです。

正直なところ、認知度を上げることに注力する必要はなかったと思っています。それよりも町が取り組むカテゴリーをしっかりと発信していれば、共感や理解を示してくださる方が現れます。その方たちの存在が町の活性化につながるのだと肌で感じています。

 

小田 賃貸住宅建設大手の大東建託が公表した「住み続けたい街ランキング2022」を見ると、葉山町は全国版で1位、神奈川県版では2年連続の1位です。見事にシビックプライドが醸成されていますね。

山梨町長 若い世代からご年配の方まで「葉山が好き」とおっしゃることが特徴的だと思います。

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年2月20日号

 


【プロフィール】

神奈川県葉山町長・山梨 崇仁 (やまなし たかひと)

1977年生まれ。東京都渋谷区出身。大学卒業後に3年間、ウインドサーフィン選手として活動。ベンチャー企業勤務、神奈川県葉山町議を経て、2012年1月葉山町長に就任。現在3期目。

 

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